記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/24
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
肺がんは、がんの中でも最も死亡率が高い疾患とされています。喫煙者や、受動喫煙者では非喫煙者と比較してリスクが高いことはよく知られていますが、本当にそれだけが原因なのでしょうか?
この記事では、肺がんの原因や分類、治療方針や治療方法、どんな副作用が起こりやすいのかなどについてご紹介します。
肺がんとは、肺に発生する悪性の腫瘍のことを指します。肺で発生したものを「原発性肺がん」と呼び、通常「肺がん」と言えば原発性肺がんのことをいいます。他の臓器で発生し、肺に転移したがんは「転移性肺がん」または「肺転移」と呼ばれます。がんの性質はどの臓器で発生したかによって決まるため、名称も発生元の臓器の名前で呼ばれるのです。
肺がんは、早期発見すれば手術による治療が可能ながんです。しかし、特徴的な自覚症状がないことから、なかなか早期発見が難しく、検査で発見されたときには既に進行している場合も少なくありません。病状が進行している場合は、手術以外にも放射線治療・抗がん剤治療などを組み合わせて治療を進めます。全身のがんの中でも、最も治療が難しいがんのひとつといわれています。
肺がんの原因としては、以下のようなものが考えられます。
肺がんの原因で最も多いのは喫煙です。その次に受動喫煙が挙げられます。タバコには約60種類もの発がん物質が含まれているため、タバコを吸う人や受動喫煙をする人では常に気管支や肺が繰り返し発がん物質にさらされることになります。発がん物質にさらされた細胞では染色体がダメージを受け、遺伝子に変異が起こります。このダメージ・変異が積み重なると、最終的に細胞はがん化してしまいます。
喫煙によって起こりやすい肺がんは、扁平上皮と呼ばれる肺の内側の粘膜組織で発生するものです。肺のうち、心臓や気管支に近い肺門という場所で起こることが多いですが、末梢部分である肺野で発生することもあります。
また、肺がんの中には喫煙とあまり関係がないものもあります。肺腺がんと呼ばれるものなどがそれで、主に肺の奥まった部分で粘液などを分泌している細胞に起こりやすい肺がんです。はっきりした原因がわからないがんとされていましたが、近年の研究によって遺伝子変異と関係しているがんであることがわかってきました。
肺がんのタイプは、喫煙が大きく関係しているかどうかとは異なり、治療方針による分類もなされます。治療方針による分類では「小細胞肺がん」「非小細胞肺がん」の2種類に分けられ、上記でご紹介した扁平上皮がんや肺腺がんは、いずれも「非小細胞肺がん」に分類されます。
小細胞肺がんでは、手術療法よりも抗がん剤や放射線による治療が有効なため、まずは抗がん剤や放射線治療が検討されます。検討の結果、手術療法を行う場合でも、原則として手術の前後に抗がん剤による化学療法を合わせて行います。
非小細胞肺がんは比較的発生したその場所で増殖する性質が強いがんのため、手術療法を行う場合が多いです。しかし、肺は切除した部分が再生する臓器ではありませんので、切除後に肺機能が十分維持できないと判断された場合は、手術を行わないこともあります。
肺がんの治療方法には、大きく分けて「外科療法(手術による治療)」「放射線療法(放射線を照射する治療)」「化学療法(薬物療法)」の3つがあります。以下、それぞれの治療法について詳しく見ていきましょう。
外科治療は通常、非小細胞肺がんで適応となります。ただ、肺は切除後に新しい細胞が再生する臓器ではないため、がんの発生部位によっては切除後に十分な肺機能が維持できないと判断され、手術が適応とならない場合があります。小細胞肺がんでも手術療法を行う場合がありますが、手術療法を行う場合も化学療法と併用するのが原則です。
肺野末梢部(肺の端の部分)のがんでは、腫瘍のある肺葉を部位ごと切除します。肺葉とは右肺が上・中・下葉、左肺が上・下葉に分かれているそれぞれの部位のことを指し示し、周囲のリンパ節と脂肪までをまとめて切除します。
肺門部(気管支に近い部分)のがんでは、腫瘍のある肺葉と周囲のリンパ節・脂肪をまとめて切除するとともに、気管支形成術によって切除された気管支の残りをつなぎ合わせ、呼吸に支障がないようにします。
病状の進行が遅ければ肺を部分的に切除するだけで済むこともありますが、進行が早ければ片側の肺を全て摘出することや、隣接する臓器を合わせて切除する必要がある場合もあります。また、早期の肺がんに手術療法を行う場合、胸腔鏡手術というより低侵襲な手術を行えることもあります。
また、胸腔鏡手術を含め、がんが見つかった場合に全ての症例で肺葉ごと切除するのではなく、範囲がごく小さい場合は区域・部分でのより小さな範囲での切除に切り替えるなど、早期発見でまだ転移が少ないがんをできるだけ低侵襲に治療しようという試みも行われています。
放射線治療とは、X線を始めとした高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅させる治療法です。主に小細胞肺がんや、進行した非小細胞肺がんで適応されます。放射線によって根治治療が可能かどうかによって、放射線治療を行うかどうかが決まります。全ての腫瘍に対して放射線治療が可能である(根治的放射線治療)と判断された場合、化学療法と放射線治療を併用して治療を行います。
化学療法との併用のタイミングは、同時に行う場合と先に化学療法を行ってから放射線治療を行う場合の2通りがあり、同時併用の方が効果は高いとされている反面、副作用も強いことがわかっています。そのため、どちらの療法を行うかは、年齢や全身の状態によって患者さんごとに判断されています。
肺がんのうち、根治治療が不可能と判断された場合や、外科療法や放射線治療を行っても再発した症例の場合は化学療法の適応となります。化学療法で使う薬剤には主に3種類あり、「分子標的薬」「免疫療法」「細胞傷害性化学療法」に分類されます。
1つのがん遺伝子(EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子など)の変異によって肺がんが起こっている場合、それぞれの遺伝子変異に対応した「分子標的薬」による治療が行われます。遺伝子変異の有無は組織を採取して検査することで調べられます。
免疫療法では、自己免疫の力を利用してがん細胞を攻撃し、治療を行います。肺がんの場合は「抗PD-1抗体」「抗PD-L1抗体」という薬剤が実用化されていますが、これらはいずれも非小細胞肺がんに対してのみ効果が認められていますので、小細胞肺がんには適応できません。
「抗PD-1抗体」「抗PD-L1抗体」は、いずれもがん細胞によってブレーキがかけられている状態の免疫機構のブレーキを外してやり、体内の免疫の活性を十分に保つための薬剤です。つまり、本来の体の持っている免疫機能をサポートするための薬剤と考えてよいでしょう。
免疫細胞の活性がそもそも高くない場合や、標的となる遺伝子にいずれも異常がない場合は、これまで使用されてきたいわゆる抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)を使用します。
肺がんの3種類の治療法による副作用には、以下のようなものが考えられます。
外科療法後は、しばらく傷の痛みを感じることがあります。しかし、術中は麻酔をかけて行い、さらに術後の鎮痛剤などの開発も進んでいるため、強い痛みを感じることはほとんどなくなってきました。また、手術中に事故が起こることもまずありません。
しかし、ごくまれに術後の合併症によって生命が脅かされることがあり、このリスクは喫煙者の人の方が非喫煙者の人よりも圧倒的に高くなっています。そのため、喫煙者の人では必ず術後に4週間以上の禁煙期間が必要です。
放射線療法では、腫瘍以外の部位にも影響が現れることがあります。食道炎や皮膚炎は治療の中盤から終盤にかけて発生することが多く、食事をすると染みる、痛みを感じるなどの症状が現れたり、皮膚にかゆみや軽い痛みを感じたりします。肺臓炎は放射線治療終了後、2カ月程度の間に発生することがあります。初期症状は咳・微熱・息切れで、強い症状が出た場合はステロイドホルモンによる治療が行われることもあります。
化学療法の副作用は、骨髄への影響や消化器系の症状が主です。ただし、使用する抗がん剤の種類など、個人差も大きい治療法ですから、副作用も予期せぬものが起こる場合があります。白血球の減少が強い場合、「白血球増殖因子」という薬剤を使用し、免疫機能を回復する必要があります。
肺がんは自覚症状がなく、なかなか早期発見が難しいがんであるとされています。しかし、検査などで早期発見ができ、腫瘍の範囲が小さい場合、病変部位を切除すれば根治も期待できます。
また、喫煙によって肺がんのリスクが高まることは事実ですが、受動喫煙をしない非喫煙者でも肺がんを発症することはあります。自分は非喫煙者だからと油断せず、検査などで異常が発見されたら早めに治療を行いましょう。
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