記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2022/5/17
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
マダニから感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を知っていますか。厚生労働省や行政機関などで情報を発信していますが、感染に関わるマダニの種類や予防方法について詳しく理解していない人もいるかもしれません。SFTSは重症化すると命に関わることもあるため、予防対策やマダニが服についたときの対処法が大切になってきます。この記事では、SFTSの感染経路や症状、予防対策について解説します。
「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は、平成23年に初めて病原体ウイルスが特定されたという新しい疾患で、感染すると発熱と消化器症状を引き起こし、重症化すると死に至ることもあります。SFTSウイルス自体は特定される前からも国内に存在していたと考えられていますが、初めての症例が確認されたのは平成25年1月で、令和元年5月29日までに全国24府県422例が確認されています。そのうち67例(約16%)は死に至っています。
主な感染経路は病原体ウイルスを保有するマダニに咬まれることですが、感染者の血液や体液に接触することでヒトからヒトへ感染する例も報告されています。とはいえ、インフルエンザなどのように空気感染などを介して爆発的に広まるタイプのウイルスではないとされています。
また、最近の研究では、マダニに咬まれた痕が見当たらず、感染者の血液や体液に接触したわけでもない感染者もいます。このような感染者は、SFTSを発症している野生動物やイヌ・ネコの血液から感染した可能性がゼロとは言いきれないことが指摘されています。これは、SFTSを発症している野生動物やイヌ・ネコの血液からは、SFTSウイルスが検出されていることによります。
日本国内には、名前がついているものだけでも47種類のマダニが生息しているとされていますが、それらすべてのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではありません。また、SFTSウイルスを保有しているマダニに咬まれたからといって、必ず感染するとは限りません。
日本国内では、フタトゲチマダニやヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニマダニなどからSFTSウイルスの遺伝子が検出されていて、フタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがヒトへの感染に関係しているといわれています。
なお、家などの屋内に生息する屋内塵性ダニ類には、ヒョウダニ(チリダニ)類、コナダニ類、ツメダニ類、イエダニ類などあり、マダニとは種類が違います。
前述のことから、イヌ・ネコなどの動物、またはその他の野生動物なども感染源となる可能性はゼロではありません。しかし、もちろんそれはヒトでも確認できるようなSFTSの症状(39℃以上の発熱・食欲消失など)を呈しているイヌやネコなどの動物の場合であり、健康な動物からヒトにSFTSウイルスが感染することはほぼありません。
また、生まれてからずっと屋内で飼育され、外に出していないイヌやネコなどの動物に関しては、SFTSウイルスに感染する心配はなく、したがってヒトに感染することもないのです。ヒトのSFTSで見られる症例を発症していたネコに咬まれたヒトがSFTSを発症し、死に至った事例が報告されていますが、そのネコに咬まれたことが感染源と特定されたわけではなく、確実な感染経路かどうかはまだ明らかになっていません。
つまり、SFTSの症状を発症していない動物からヒトに感染することはなく、また、SFTSの症状を発症している場合は感染経路となる可能性がゼロではないものの、可能性としては低いと言える状態です。
SFTSにヒトが感染すると、マダニに咬まれてから6日~2週間程度の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます。
SFTSウイルスに対して有効な抗ウイルス薬などの治療法は、まだ見つかっていません。そのため、それぞれの症状に対する対症療法をメインに治療を行います。培養細胞実験レベルでは、抗ウイルス薬の1つである「リバピリン」がウイルスの増殖を抑制するという報告もありましたが、中国で行った治療の結果によれば、リバピリンを使って治療した群と使わなかった群で致死率に違いはなく、効果は認められないと考えられます。
そこで、国立感染症研究所が「ファビピラビル」という抗ウイルス薬(もともとはインフルエンザに対する薬として開発された)を用いた実験を行ったところ、培養細胞実験・動物実験でともにウイルスの増殖を抑制する効果があることが示されました。また、リバピリンを用いた場合よりも効果が高いこともわかっています。
しかし、これらの研究はいずれもまだ開発途上の段階であり、人体に対して効果があるかどうかは証明されていないため、人間のSFTS患者に対して用いることのできる抗ウイルス薬は存在しません。あくまでも現時点でもっとも有効な治療薬の候補として、ファビピラビルが考えられているという段階です。
SFTSの主な感染源はマダニに刺されることですから、まずはマダニに咬まれないように予防することが大切です。とくに、マダニの活動は春~夏にかけて盛んになります。この時期に農作業やレジャー、庭仕事などで野外活動をする際には、以下のような点に注意しましょう。なお、温かい環境であれば冬でも注意が必要です。
マダニは野山・畑・草むらなど自然界の至る所に存在しますが、とくに草むらや藪はマダニが多く生息しています。そこで、できるだけこうした場所に入らないことが大切ですが、畑仕事やレジャーなどで草むらや藪に入るときは、長袖長ズボンを着用して肌の露出を避けるとともに、裾からの侵入を防ぐためにシャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は長靴の中に入れてしまうとより安全です。
また、登山用スパッツの着用などもおすすめです。足もサンダルなどの露出の多いものは避け、帽子や手袋などを着用しましょう。首筋にはタオルを巻いておくと、さらに肌の露出を避けられます。着用する衣類は明るい色のものを選ぶと、マダニがくっついたときに目視で確認しやすくなります。
DEET(ディート)という成分を含むダニ避けスプレーなどは、服の上から用いると補助的に効果があると言われています。肌の露出をできるだけ避ける対処をした上で、さらにこのようなスプレーを使うと良いでしょう。
もし、マダニがくっついた場合、体にとりついてすぐに刺すのではなく体のやわらかい部位を探してから刺すことが多いため、刺していない状態で確認できた場合は潰さないようはたき落とすと良いでしょう。マダニがウイルスを持っていた場合、刺されなくても潰してダニの体液に触れてしまえば感染のリスクは同じです。
また、マダニはつまんで引っ張ると口がちぎれて体内に残り、これも良くありません。そのため、吸血中のマダニを見つけた場合は自分で処理せず、医療機関で除去してもらいましょう。帰宅後にマダニの刺し痕に気づいた場合も、すぐに医療機関を受診してください。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、病原体の特定からまだ10年経過していないほどの歴史の浅い疾患であることから、特効薬も見つかっていません。そのため、発症した場合は症状に対する対症療法が中心です。マダニは小さいのでSFTSウイルスを保有する種類かどうかを目視で確認することは難しいですし、ライム病や日本紅斑熱などの疾患の感染源になる可能性もあります。まずはマダニに刺されないように予防対策を徹底し、マダニの好む草むらや藪などに近づく場合はできるだけ肌の露出を避けた長袖・長ズボンなどを着用するとともに、刺されたらすぐに医療機関を受診しましょう。