記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
手足が震え、筋肉がこわばり、徐々に体が動かなくなっていくパーキンソン病。50歳以降に多く発症し、日本での有病率は1000人に約1人であり、少しずつ増えているといわれています。ここでは、パーキンソン病の基礎知識を解説します。
代表的な初期症状は手足が小刻みに震えて歩行困難になることです。
この震えは両方の手足に同時ではなく左右どちらかに起こるという特徴があり、何らかの動作をしているときや睡眠中には起こらないといわれています。
震えが起こる範囲はだんだんと広がっていきますが、症状が進行するにつれて目立たなくなっていきます。
◆歩き出しの一歩がなかなか踏み出せない
◆ひとつひとつの動作がゆっくりになる
◆話し声が小さくなる
◆表情が乏しくなる
手足の震えと歩行困難に加えて上記のような症状がみられた場合、パーキンソン病の初期症状である可能性があります。
症状の重症化を防ぐためにも、できるだけ早く医療機関で診察を受けることが大切です。
上の項目で説明したようなパーキンソン病の症状は「運動症状」と呼ばれます。
それらに加えて、自律神経系の症状や睡眠障害、認知機能障害などの「非運動症状」と呼ばれる症状があらわれることがわかっています。
代表的な非運動症状は以下の通りです。
便秘、排尿障害、低血圧などが代表的です。
中でも便秘は多くのパーキンソン病患者さんにみられる症状で、運動症状よりも先に起こることもあります。
気分が落ち込むなどのうつ症状や、無関心、不安が高まるなどの状態になることがあります。
また、見えないものが見えるといった幻覚や妄想が起こることもありますが、パーキンソン病の場合には治療薬が原因であることが多いです。
物事を考えることが遅くなったり考えがまとまらなくなり、また、記憶力や注意力が低下することもあります。パーキンソン病においては認知機能障害が初期から始まることはほとんどなく、病気の進行期に起こりやすいです。
寝つきが悪くなる、眠りが浅くなる、夜中に何度も目が覚めるなどの症状がみられます。
また、睡眠中に大声を出して暴れたり、足に不快感があらわれて眠れないといった事例もあります。
パーキンソン病は脳の幹にあたる黒質という部分の神経細胞が次第に減少し、その神経が働くときに使うドーパミンという物質が減ることによって起こる病気です。
ドーパミンは神経細胞の黒質細胞で生成される物質で、黒質細胞は中脳の下の方向にある細胞です。
つまり、ドーパミンの分泌が減少するということは黒質細胞が減少すしているということになります。
ドーパミンは脳内で運動の仕組みを調節するような働きを担っているため、ドーパミンの分泌量が減ると体の動きが遅くなったり緊張が高くなったりします。
多くのパーキンソン病は原因不明で遺伝することはありませんが、一部は遺伝子が原因で発症することが明らかになっています。
パーキンソン病は主に「薬物療法」、「外科療法」、「リハビリ」の3つの方法で治療します。
症状の進行が比較的遅いですが、大きな支障をきたすことなく社会生活を送るためには、できるだけ早い段階で専門家の治療を受けることが重要です。
以下に3つの治療法の具体的な内容を紹介します。
パーキンソン病は脳内のドーパミン不足によって引き起こされるため、ドーパミンを補う薬剤の投与が中心となります。
いくつかの種類がありますが、主に使用されるのは「レボドーパ」という薬剤です。
この薬はドーパミンを補うための薬で、即効性が高いというメリットがある一方で、〈ジスキネジア(手足が意志に反して動いてしまう症状)、食欲不振、幻覚〉などの副作用を招く可能性があります。
パーキンソン病の治療に有効とされる外科療法は2つあります。
ひとつは脳深部刺激療法という方法で、脳内に電極を埋め込んで刺激を与えることで脳内神経のバランスを取り戻します。
もうひとつは定位脳手術と呼ばれる、脳内で異常をきたしている神経細胞を破壊することで正常な状態に近づける方法です。
リハビリによって、動きが鈍くなった体の各部分を動かせるようにしていきます。
現段階ではパーキンソン病を治療する方法はありませんが、初期症状の段階で治療を始めることで日常生活での障害となりうる症状の発生を防ぐことができます。
自身やご家族にパーキンソン病が疑われる症状がみられた場合は、できるだけ早く専門機関を受診しましょう。