記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
認知症には、その原因によってさまざまな種類があり、治療法も異なります。では、原因としてはどのようなものがあるのでしょうか?
以降では認知症の原因疾患や、発症要因となる食事、薬などの情報を中心に解説していきます。
認知症とは、これまでの学習によって獲得してきた、思考、記憶、そして論理的思考力といった、認知機能や行動に移す能力を、後天的な脳の障害によって低下、または失うことで、日常の生活に支障をきたす病気です。
認知症には様々な種類があり、その原因(原因疾患)と症状が異なります。
脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積し、正常な神経細胞が壊れて脳萎縮が起こる「アルツハイマー病」によって引き起こされるのがアルツハイマー型認知症です。アミロイドβが蓄積する明確な原因はわかっていませんが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を抱える人はアルツハイマー型認知症の発症率が高いことがわかっています。
脳血管性認知症の原因は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳の血管の病気によるものとされています。この認知症の症状は、脳のどの部分が病気の影響を受けたかによって異なります。
アルツハイマー型認知症は記憶に関する問題が症状としてあらわれ始めますが、脳血管性認知症は、しばしば判断力の低下や、計画、管理、意思決定の問題から始まります。その他の症状は以下のとおりです。
レビー小体とは、一部の人にみられる脳に形成されるタンパク質の微視的沈着物のことをいいます。このレビー小体が脳の皮質に形成されることが原因となり、レビー小体型認知症を引き起こします。症状は以下のとおりです。
パーキンソン病は、中脳黒質の変性によりドーパミンの産生が少なくなることが原因とされています。これにより情報の伝達がうまくいかなくなり、動作や運動に支障をきたします。神経系障害パーキンソン病の症状は、DLBと非常によく似ており、どちらも脳にレビー小体の徴候がみられます。
混合型認知症の症状は、2種類の認知症が組み合わさったものを指します。最も一般的な組み合わせは、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症といわれています。
前頭側頭型認知症(FTD)は前頭葉や側頭葉に萎縮がみられますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。前頭側頭型認知症の症状は以下のとおりです。
ハンチントン病は遺伝的欠陥によって引き起こされる脳の障害です。一般的に症状があらわれ始めるのは、30歳から50歳の間とされています。ハンチントン病の人には、他の認知症と同様、主に以下に問題がみられます。
クロイツフェルト・ヤコブ病の原因は、まだはっきりとわかっていません。感染説や遺伝子異常説などが考えられていますが、プリオンたんぱく生成の段階で起こる突然変異により、異常プリオンたんぱくが生成されることが原因ではないかと考えられています。クロイツフェルト・ヤコブ病の症状は以下のとおりです。
脳内の体液の蓄積によって起こる認知症です。症状としては、歩行、思考能力、集中力に難を抱えたり、性格や行動の変化などがみられます。
髄液シャント術で脳脊髄液を体内の別の場所(お腹など)に流すことで症状が改善することがあります。
この疾患は、体内のチアミン(ビタミンB1)の重度の不足によって引き起こされます。長期的にお酒を大量に飲む人もウェルニッケ・コルサコフ症候群になる可能性があります。
ウェルニッケ・コルサコフ症候群が原因で起こる認知症の一般的な症状は、記憶の問題です。通常、問題解決能力や思考能力には影響を及ぼしません。
1995年段階の統計結果にはなりますが、高齢者の認知症の原因疾患として最も多いのがアルツハイマー病で、全体の約4割を占めます。
次いで多いのが、くも膜下出血などによる脳血管性認知症で、こちらは全体の約3割です。それ以外は原因不明の認知症が約2割、その他の原因疾患による認知症が1割程度となります。
高齢者の場合、複数の持病があるためにいくつかの薬を併用していることも多いですが、高齢者は処方薬が6種類を超えると薬の副作用を起こすリスクが高まることがわかっています。薬が重複することによって起こりやすい副作用は、物忘れ、ふらつき、転倒、せん妄(幻覚が見えたり妄想が起こったり、突然大声を出すなど興奮状態になったりする症状)などですが、こういった副作用は認知症の発症リスクを上げることにつながります。例えば睡眠薬や抗不安薬を過剰摂取すると、記憶力が低下し、認知機能が低下する恐れがあるのです。
食事や栄養状態は認知機能に大きく関わっているとされており、ある研究によれば、アルツハイマー病患者は認知症のない人と比べ、肉の摂取量が多く、緑黄色野菜と魚の摂取量が少ない傾向にあったことが明らかになっています。また、レバーや魚介類に含まれるビタミンB12の摂取不足によっても認知症の症状が生じることがわかっています。
認知症の原因には様々なものがありますが、適切な対応を取ることで治療、または軽減できるものもあるため、医師に相談するようにしましょう。
ただし、多くの場合認知症を完全に治療することは現在のところ不可能とされています。
認知症を完全に予防する方法は、現在のところまだありませんが、発症リスクを軽減させることは可能ではないかといわれています。
脳の状態を良好に保つために、以下のことをこころがけることが予防につながると考えられています。
巷では、睡眠不足の状態が続くと認知症の発症率を上げるといううわさがあります。一部では、睡眠時間の短縮と認知症発症との因果関係を証明したとの研究データもありますが、認知症の発症と睡眠不足の直接的な因果関係が立証されたわけではありません。
しかし、脳を健康な状態に保つには、睡眠をしっかりとって脳を休めることが大切です。若い頃から規則正しい睡眠習慣を身につけるようにしましょう。
認知症の治療は、原因ごとで治療法が異なる場合もありますが、最も重要なことは、認知症の早期発見と早期治療です。定期的に健康診断を行うことで、自分の認知機能の低下に早い段階で気づくことができるといわれています。