記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
亜鉛は生命活動に必要な栄養素です。亜鉛不足で起こる不調には味覚障害がありますが、そのほかにはどのような不調が起こるのでしょうか。
この記事では、亜鉛不足と体への影響について解説していきます。
亜鉛はヒトの身体を正常に維持するために非常に重要な栄養素の一つです。そのため、亜鉛が不足すると様々な症状が引き起こされますが、主に以下のようなものが挙げられます。
味覚を感知する舌の細胞には亜鉛が豊富に含まれており、不足すると味覚を感知するための乳頭などの構造物が変性して味覚障害を引き起こします。
赤血球を作るには適度な亜鉛が必要とされます。このため、亜鉛不足は赤血球の正常な生成を妨げ、貧血を引き起こすことが知られています。
亜鉛は皮膚の新陳代謝に関与していると考えられており、不足することで皮膚炎を発症し、炎症が毛穴にまで及ぶと脱毛しやすくなることもあります。
男性ホルモンの一種であるテストステロンの合成には亜鉛が関与しており、亜鉛不足が続くと正常な精子の生成が妨げられることが分かっています。このため、亜鉛不足は男性不妊の原因になるとも考えられています。
また、小児期や思春期に亜鉛不足になると、成長を促すテストステロンの分泌低下によって低身長などの障害が生じることも少なくありません。
亜鉛は胃腸の粘膜を正常な状態に保つ作用があり、亜鉛が不足することで胃腸の粘膜が萎縮したり、胃腸の運動低下が引き起こされます。その結果、食欲不振による体重減少や、下痢などの症状が現れることがあります。
亜鉛不足を予防するためには、食生活上の注意と日常生活の見直しが大事です。
人体に対する亜鉛の毒性は非常に低いとされており、通常の食生活で亜鉛を過剰摂取することもほとんどないため、食事から摂取する分には亜鉛の摂りすぎで健康に害が出る心配はほとんどないといわれています。亜鉛を含む食品を積極的に食べるようにしましょう。
厚生労働省によれば、一般的な成人男性の1日に必要な亜鉛の量は12mg、成人女性の場合には9mgとされています。全般的に魚介類や海藻類は亜鉛を多く含む食材ですが、特に牡蠣は亜鉛が多く、100g中148.6mgと、食材の中では最も多くの亜鉛を含むといわれています。
肉類の中では子牛レバーの亜鉛が最も豊富で、100g中6.1mgです。
それ以外に小麦胚芽、小麦全粒粉、チーズやポップコーン、野菜ではかぶの葉やほうれんそうが、亜鉛含有量の多い食品として知られています。
他方、加工食品やファーストフード、インスタント食品などにはリン酸塩など食品添加物が多く含まれる傾向があり、この食品添加物は亜鉛の吸収をブロックしてしまう働きがあるとされています。
またアルコール類、そして甘い菓子類は、体内で亜鉛を消費しながら分解される性質を持っているため注意が必要です。
さらに喫煙が亜鉛不足を招き味覚を鈍くする可能性があることが指摘されています。
ビタミンCは、亜鉛・鉄・カルシウムなどのミネラルと一緒に摂取することで、これらのミネラルを包み込み、体に吸収しやすくなりなるといわれています(キレート作用)。
生がきやカキフライを食べるときに、ビタミンCを多く含むレモンをかけるのも、ある意味利にかなった摂取方法といえるかもしれません。ただし、十分な量のレモンをかけるわけにはいきませんので、葉物野菜やフルーツなどをあわせて食べるようにしてください。
また、アルコールを分解するときには、アルコール分解酵素が働きます。この働きにも亜鉛が使われるので、お酒を飲むときは、普段より多めの亜鉛の摂取を心がけるようにしましょう。
注意すべきことは、一般的な食事から1日12mgの成人男性所要量の亜鉛を摂ったとしても、大半が体外に排出されてしまうことです。また、吸収の妨げになる栄養成分を摂りすぎたりすれば、ほんの少量しか体内に吸収されず、欠乏状態に陥ります。食事で毎日所要量を摂取し続けることが因難と思われる場合は、サプリメントで補給するようにしましょう。
現代の日本人に多い味覚障害の主な理由は、体内の亜鉛不足といわれています。また、高齢者・シニアが若さを保ち元気に過ごすことにも役立ちます。食生活の見直しとともに、アルコールや喫煙といった生活習慣についても見直すことが大事です。また食べ合わせを工夫したり、サプリメントの上手な活用にも注意するようにしましょう。