記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
男性特有の器官のひとつに前立腺があります。前立腺は生殖器官のひとつであり、排尿に大きく関わっています。この記事では、排尿機能と前立腺の関係性について解説しています。泌尿器系トラブルの早期発見のための参考にしてください。
尿をつくり、蓄え、排泄する働きを担う器官である腎臓、尿管、膀胱、尿道を総称して泌尿器といいます。
泌尿器の各器官は、体内を巡った血液を「腎臓」でろ過して尿をつくり、その尿を「尿管」が膀胱へ送り、「膀胱」で尿を蓄え、たまった尿を「尿道」から外に出すといったように、連鎖して機能しながら排尿システムを成立させています。
膀胱の筋肉と尿道の筋肉の「緩む」と「締まる」という動きは、自律神経と体性神経によってコントロールされています。
泌尿器系において、男性が女性と大きく異なる部分のひとつは前立腺の存在です。前立腺は膀胱のすぐ下に隣接しており、膀胱にためられた尿を排出するための通り道となる「尿道」の周囲を取り巻いています。
前立腺はまだ未解明の部分があるものの、膀胱のすぐ下にあって、真ん中を尿道が通っている位置関係から、排尿への影響が大きいと考えられています。
個人差はありますが前立腺は加齢とともに大きくなっていき、50歳をすぎた頃から前立腺肥大を起こしやすくなります。
尿道を取り囲んでいる前立腺が肥大すると尿道が圧迫されることになるため、尿の排泄がスムーズにいかなくなる「排尿障害」が引き起こされます。
前立腺肥大は、前立腺が何らかの原因で大きく肥大してしまう病気です。前立腺は生殖や排尿に関係するため、前立腺が大きくなることでこれらの機能に影響が現れてきます。
とくに日常生活に密着した排尿におよぼす影響は大きく、生活に支障を与える可能性がある病気といえるでしょう。
前立腺が大きく肥大すると前立腺が外側だけでなく内側に向かっても大きくなるため、前立腺の中を通っている尿道が常に圧迫されて狭くなります。そのため、前立腺肥大症によって起こる症状の大半は、排尿のトラブルとして自覚されます。
尿を出そうとしても時間がかかり、尿が勢いよく出てきづらくなったり、出し切るまでの時間も通常の排尿の所要時間(20~30秒)に比べ1分以上と長い時間がかかってしまうようになり、あわせて頻尿や残尿感も出現します。
治療せずに放置しておくと、尿閉(排尿がほとんどできなくなった状態)、尿路感染、膀胱結石、膀胱機能低下ひいては腎機能低下といった合併症につながるおそれもあります。
前立腺肥大症が疑われる場合、まずは超音波検査と直腸診が行われます。
そほかにも、前立腺がんとの鑑別のために血液検査で腫瘍マーカーを調べたり、排尿の勢いや時間を調べる尿量測定検査が行われる場合もあります。
このようなさまざまな検査を行って前立腺肥大症と診断された場合には、まずはα遮断薬や抗男性ホルモン薬などの薬物療法が行われ、効果がない場合には手術による切除が考慮されます。
手術は、お腹を開いて前立腺の切除をする場合もありますが、肥大が軽度な場合には尿道から内視鏡を挿入して前立腺の一部を切り取るTUR-Pという治療が行われることが多くなっています。
男性の排尿の異常は前立腺肥大症が原因になっていることが多く、一般的な頻尿対策などでは症状は改善しません。このため、排尿の悩みがある場合はまずは病院を受診して原因を調べ、症状がひどくならないうちに治療を開始するようにしましょう。
「前立腺肥大症」は、すぐには生命をおびやかすような病気ではありません。しかし、「排尿障害」という日常生活で心身につらい影響を与える症状をもたらします。
この状態を少しでも和らげるためにも、ためらわず早めに専門医の治療を受けることが重要です。また、50歳を過ぎたら定期的に前立腺の検査を受けるようにしましょう。