記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
ビタミンAには抗酸化作用や免疫を正常に働かせる作用がありますが、過剰摂取には気を付ける必要があります。こちらの記事では、ビタミンAの過剰摂取で起こる症状などについて詳しく解説します。
ビタミンAは体に不可欠な栄養素ではありますが、摂り過ぎには注意しなければなりません。以下は、ビタミンAの過剰摂取によって起こるおそれがある急性の中毒症状です。
・頭蓋内圧亢進(脳脊髄液が脳や脊髄などの中枢神経系を圧迫する)
・頭痛
・吐き気
・嘔吐
・めまい
慢性のビタミンAの中毒では、以下のような症状が見られます。
・頭蓋内圧亢進
・頭痛
・皮膚の乾燥
・皮膚の落屑(らくせつ、皮膚が剥がれ落ちること)
・脱毛
・全身の骨や関節の痛み
・食欲不振
・筋肉痛
・骨密度の減少
・骨粗しょう症
・肝臓障害
長期間ビタミンAを摂取し続けたことで骨密度の減少や骨粗しょう症を発症することがあるため、おのずと骨折のリスクも上がります。
ビタミンAとは、「レチノール」「レチナール」「レチノイン酸」「レチニルエステル」といった脂溶性レチノイド類の総称であり、脂溶性ビタミンの一種です。体内でビタミンAとして利用されるのは、動物性レチノイドだけではありません。「βカロテン」「αカロテン」などの植物性カロテノイドは、体内で吸収されてビタミンAに変換されるため、「プロビタミンA」とも呼ばれています。
ビタミンAには、以下のような働きがあります。
・抗酸化作用により、動脈硬化や細胞のがん化を防ぐ
・視機能(目で物を見て脳で認知する機能)を改善させ、夜盲症を予防する
・皮膚や粘膜を正常に保つことにより、ウイルスや病原菌の侵入を防いで免疫力を高める
こうした働きから、十分な量のビタミンAを摂取することは、体全体の健康を維持することにつながると言えるでしょう。
ビタミンAの過剰摂取により、ビタミンAが体内に蓄積され、さまざまな症状が現れる状態を「ビタミンA過剰症」と言います。その原因や症状、診断方法、治療法についてお伝えします。
ビタミンAは脂溶性であり、水溶性のビタミンのように自然に尿として排出されることはないものです。そのため、ビタミンAは体に蓄積され続けます。過剰に摂取されたビタミンAは体内に吸収され、肝臓に蓄積されます。
ただし、植物性カロテノイドを過剰に摂取した場合はこの限りではありません。これは、植物性カロテノイドにおいては、必要な量のみがビタミンAに変換されるためです。
主にビタミンA過剰症の原因となるのは、サプリメント由来の既成ビタミンAや医療用レチノイド剤の過剰摂取です。動物性の食品からビタミンAを摂取した場合の発症頻度はそれほど高くはないものの、動物性レチノイドを大量に、ならびに長期間摂取することもビタミンA過剰症につながります。
ビタミンA過剰症では、頭蓋内圧亢進による重度の頭痛や吐き気、皮膚の乾燥や落屑、発疹、全身の筋力の低下、全身の骨や関節の痛みといった症状が現れることがあります。急激に大量のビタミンAを摂取すると命に危険が及ぶことが考えられるため、注意が必要です。さらに、以下のような疾患が引き起こされるおそれもあります。
推奨量の2倍以上のレチノール(ビタミンA)を30年摂取し続けた人は、推奨量以下を摂取していた人と比べて骨折のリスクが2倍程度だったという報告があります。ビタミンAの一種であるレチノイン酸には、骨芽細胞の働きを妨げて破骨細胞を活性化させる作用があることから、ビタミンAの過剰摂取は骨粗しょう症につながります。
摂り過ぎたビタミンAは肝臓に溜まるため、肝臓も障害されます。脂肪肝や肝臓肥大といった疾患が生じることもあります。
ビタミンA過剰症に関しての検査方法として、特別に定められているものはありません。ビタミンA過剰症では、全身の皮膚が薄く剥がれ落ちたり、骨や関節に痛みが生じたり、ひどい頭痛や吐き気が起こったりと様々な全身症状が現れます。病院ではそういった症状の原因が何であるかを突き止めるため、全身の状態を視診したのち血液検査や尿検査を行います。
ビタミンAを過剰に摂取すると、レチノイン酸の血中濃度の上昇が認められ、ビタミンA過剰症の症状はこのレチノイン酸によって起こるとされています。血液検査でレチノイン酸の値が高ければ、全身症状と併せて診断を確定させることが可能です。
ビタミンA過剰症の多くは、サプリメント由来の既成ビタミンAや医療用レチノイド剤の過剰摂取によって起こります。そのため、ビタミンA過剰症の治療においては、ビタミンAを含むサプリメントの摂取をやめることが第一です。場合によってはビタミンAを多く含む食材(レバー・うなぎ・卵など)の摂取が制限されることもあるでしょう。一般的には、ビタミンA過剰症の人のほとんどが、ビタミンAの摂取をやめることで回復すると言われています。
ビタミンAは胎児の発達においても必須の栄養素であり、母体から胎盤を通じて胎児に供給されています。しかし、妊娠3ヶ月までの妊娠初期に既成ビタミンAを過剰に摂取すると、胎児の奇形の発症率が高くなることが知られています。そのため、特に妊娠初期のビタミンAの過剰摂取については注意することが大切です。
厚生労働省は、妊娠3ヶ月以内の女性ないし妊娠を希望している女性に対し、ビタミンAを含む健康食品(サプリメント)やビタミンAを豊富に含む食品を継続的かつ過剰に摂取することで、妊婦のビタミンA推奨量を超えることのないようにと注意を呼び掛けています。なお、ここでいうビタミンAとはサプリメントに多く含まれるような既成ビタミンAや動物性レチノイドを指しており、植物性カロテノイド(βカロテンなど)に催奇性(さいきせい:特定の物質が生物の発生段階において奇形を生じさせる作用のこと)があるという報告はありません。
適正な量のビタミンAの摂取は体の健康維持に役立ちます。ただし、サプリメントなどでの過剰なビタミンAの摂取は頭や全身の関節の痛みを引き起こすだけでなく、妊婦さんの場合は胎児の奇形を招くおそれがあります。ビタミンAを摂る際は適正量を守ることを心がけてください。