記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/17
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腎臓の機能が低下し、体の老廃物をろ過したり尿を排出したりすることができなくなると、体には代謝の副産物である毒素が溜まっていきます。機械などを通した人工透析によって取り除く方法もありますが、提供者がいれば健康な腎臓を移植してもらう方法もあります。
では、腎臓を移植できるかどうかは、どのような基準によって決まるのでしょうか?また、手術をするときにはどのようなリスクがあるのでしょうか?
腎臓移植とは臓器移植の一つで、腎臓の機能が低下または失われた人に新しい腎臓を手術で移植し、腎臓の機能を回復させる治療法です。腎臓の機能が低下した場合、透析療法と腎臓移植の2つの治療法が選択されますが、透析の場合は血液透析・腹膜透析のいずれも時間的制約が大きく、腎臓の機能の一部分しか果たせないことが問題です。
腎臓移植の場合、低下または失われた腎機能はほぼ完全に回復します。透析による通院や時間の成約などの負担はなく、食事も自由に食べることができます。腎臓移植には患者さんのご家族から腎臓を提供してもらう生体腎移植と、亡くなったドナーからもらう献腎移植とがあります。
生体腎移植は、患者さんのご家族の誰かから腎臓を提供してもらい、移植手術を行う治療法です。日本移植学会の倫理指針によると、生体移植は親族からの提供に限ることとされています。親族とは、6親等以内の血族または3親等以内の姻族と決められており、夫婦間での提供も可能です。
しかし、腎臓を片方提供することから、提供者自らに腎臓を提供する意思があることはもちろん、腎臓の疾患以外にも感染症や腫瘍などに罹患していない健康体であることが必要です。
献腎移植とは、心臓死や脳死などで亡くなった人から腎臓を提供してもらい、移植手術を行う治療法です。献腎移植を希望する人は、血液型やHLAなどの組織適合性検査を行った上で日本臓器移植ネットワーク(JOTNW)にあらかじめ登録しておく必要があります。
日本臓器移植ネットワーク(JOTNW)への登録料は初回は30,000円、1年ごとに更新料として5,000円がかかります。ドナーが現れた場合、登録されている人の中から血液型やHLAの適合度・搬送時間・待機時間などの選択基準によって移植候補者が選ばれ、確認の連絡がされます。レシピエントに移植を受ける意思があると確認されれば、速やかに入院、手術が行われます。
献腎移植は生体腎移植に比べ、生着率がやや悪いことが知られていますが、腎臓の機能としては十分良好な機能を発揮できることも、これまでの移植手術の実績からわかっています。しかし、移植後すぐに尿が出ない場合もあり、腎機能が回復するまでの間は血液透析を行うこともあります。
生体腎移植の場合、倫理的条件と医学的条件の2つの観点からドナーが選ばれます。
倫理的条件は日本移植学会が定めた全国共通のものですが、医学的条件は特に明確に定められている基準はなく、移植する施設や医師に判断が委ねられています。このため、施設によって多少条件が異なる場合がありますので、詳細は移植する施設の担当医に相談しましょう。
また、ドナーとして名乗り出た人が腎結石など腎臓に疾患を持っている場合、70歳を超える高齢である場合は、ドナーとして適格かどうかについて特に慎重に検討されます。
ドナーとして適合するかどうかの検査は、以下のようなものが行われます。
生体腎移植の場合、ドナーとレシピエントは一緒に移植施設を受診し、それぞれに検査を行います。ドナーとしての検査は、主にドナー自身が健康であるかどうか、感染症や血圧など手術ができるかどうか、腎臓に疾患があるかどうか、レシピエントとの適合性はどうか、といったことが行われます。
適合性(組織適合性)とは、免疫による拒絶反応の起こりにくさのことです。人間の体に備わっている免疫機構は、自分と自分以外のものを認識し、外から入ってきた異物は除去しようとします。これによって拒絶反応が起こることがあるのですが、HLAや血液型の適合度が高ければこの拒絶反応が起こりにくくなります。
ドナーとレシピエントの血液型は、以前は適合していなくては手術ができませんでしたが、現在は免疫抑制剤など医療技術の進歩により、血液型が不適合でも手術ができるようになっています。また、HLA型に関しても、献腎移植ではできるだけHLA型の適合度の高い組み合わせが選ばれますが、生体腎移植では適合していなくても手術を行うことができます。
ただし、親族内に提供可能者が複数いる場合は、より血液型やHLA型の適合度の高い人に提供を受けることになります。
献腎移植の場合、ドナーが提供のタイミングを決められるわけではありませんので、現れたドナーに対し、登録されているレシピエントの中から適合する人を選択します。選択の基準は、以下のようなものがあります。
これは、腎臓提供を行うドナーと移植を受けるレシピエントの間で、拒絶反応ができるだけ起こりにくく、搬送距離も近い組み合わせをデータベースによって選ぶ必要があるためです。各項目は点数化され、合計ポイントの高い順に優先的に移植希望の意思確認の連絡がされます。また、現在の臓器移植法では、ドナーの生前の意思により、配偶者や子供・父母などの親族に優先的に臓器を提供することも可能です。
年齢については、20歳未満であれば点数が加算され、より優先的に治療を受けることができます。具体的には、16歳未満の小児では14点、16歳以上20歳未満の未成年では12点の加算がされます。
生体腎移植は、ドナーの場合は開腹手術または内視鏡下手術のどちらかで行われ、レシピエントの場合は開腹手術で行われます。いずれの場合も、全身麻酔で行います。
これまでは開腹手術が多く行われてきました。しかし、開腹手術は30cm以上の切開が必要なのに対し、内視鏡下の手術は5〜6cm程度の傷で済むこと、術後の負担が少ないことなどから、現在は内視鏡下での手術が主流となっています。
術式 | 傷の大きさ | 手術時間 | 術後の回復期間 |
---|---|---|---|
開腹手術 | 20〜30cm以上 | 約3時間程度 | 摘出後数週間 |
内視鏡下手術 | 下腹部5〜6cm+手術器具を挿入する腎臓付近の1cm程度の傷口3箇所 | 約4時間程度 | 摘出後約1週間 |
開腹手術は、手術時間が短く腎臓や臓器に与えるダメージが少ないというメリットがありますが、開腹の傷口が大きくなるデメリットがあります。内視鏡下手術では、傷口は非常に小さく済むメリットがありますが、開腹手術に比べて狭い空間で手術操作を行うため、手術時間が長く、遠隔操作による臓器のダメージや出血が起こるリスクが開腹手術よりも高いというデメリットがあります。
現在は手技や器具の技術の向上により、内視鏡下の手術におけるデメリットやリスクも徐々に軽減されており、原則として腎臓の摘出手術は内視鏡下の手術のみとしている病院も少なくありません。ただし、手術中に出血などで内視鏡での摘出が難しいと医師が判断した場合、開腹手術での摘出に切り替えることもあります。
レシピエントの手術方法は、生体腎移植でも献腎移植でも同じです。レシピエント自身の腎臓は残したまま、提供された腎臓を動脈・静脈につなぎ、提供された腎臓の輸尿管をレシピエント自身の膀胱につなぎます。
手術は全身麻酔下で行われ、約4時間程度で終了します。術後の経過には個人差がありますが、入院期間は約1ヶ月程度です。また、生体腎移植ではほとんどありませんが、献腎移植の場合は移植後に尿の排泄を行えるように回復するまでの期間が生体腎移植よりも長いことが多く、術後もしばらく透析のための入院が必要になる場合があります。
では、生体腎移植にリスクはないのでしょうか?ドナーとレシピエント、それぞれについて見ていきましょう。
生体腎移植では、ドナーの死亡のリスクは限りなく低いといわれています。日本における腎摘出手術はこれまで約2万人以上で行われてきましたが、ドナーの死亡事故は2013年の一度のみが報告されています。また、予後の長期的な生存率でも、非提供者とドナーの間に差異は全くないとされています。
ドナーの腎機能については、提供前と比較すると約70〜75%程度に低下するという報告があります。しかし、腎機能の低下によって疾患を引き起こすわけではなく、提供後に透析や移植が必要な腎不全などの疾患に至ることはほとんどありません。腎機能が低下し続けることもなく、提供前の約70〜75%程度のまま安定して機能し続けます。
ドナーに実際に起こりうるリスクとしては、提供後に高血圧や蛋白尿が認められることです。これらはわずかにでも悪化すると心臓病や慢性腎臓病などに進行する可能性があり、注意が必要です。また、ドナーは非提供者と比較して肥満となる頻度が高く、肥満はさらなる腎機能の低下を招くおそれがあることから、生活習慣の乱れには注意する必要があります。
生体腎移植におけるレシピエントのリスクは、突然の手術となる献腎移植と比較して低いとされています。とくに、死亡のリスクは5年後・10年後の生存率にも現れており、5年後の生存率では大きな差はないものの、10年後の生存率では約10%以上の差が出ています。
どちらの場合も起こりうるリスクとして、慢性腎不全で既に免疫力が落ちているところへ移植後の免疫抑制療法を行うことで、ウイルス感染や敗血症などの重篤な感染症を引き起こすことがあります。近年は免疫抑制療法の進歩により、適合度にこだわらなくても移植が可能になりましたが、反面、免疫機能を抑制することで引き起こされるリスクについての指摘も多くされています。
また、移植後のレシピエントでは、移植を行っていない慢性腎不全の患者さんよりもがんの発症リスクが高まることがわかっています。肝臓がん・大腸がん・胃がん・腎がんが多いという報告もあり、早期発見による治療が重要です。このため、移植後も定期的に検診を受けることが非常に大切です。
生体腎移植は、健在な親族から提供を受ける腎臓移植ですから、移植する腎臓そのもののダメージや拒絶反応などのリスクが少なく、移植後の回復も献腎移植と比較してスムーズです。
しかし一方で、ドナー自身が健康で腎疾患などの問題がないことが必要です。そのための検査や移植手術の入院期間など、ドナーもある程度の時間的な拘束がかかることになります。医師に十分な説明を受け、納得のいく治療を受けましょう。
この記事の続きはこちら