記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/15
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
潰瘍性大腸炎とは、名前の通り、大腸に潰瘍などの炎症ができてしまう疾患のことです。潰瘍性大腸炎には従来、西洋医学的な経口薬や注射薬などが使用されてきましたが、近年、漢方薬の効能が再評価されていることもあり、漢方薬の使用に関する研究が行われています。
この記事では、潰瘍性大腸炎で一般的に処方される薬剤と期待される効果、そして漢方薬の研究について解説します。
潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜の層にびらんや腫瘍などができる炎症性の疾患です。下痢と腹痛が特徴的な症状であり、出血が伴う場合も伴わない場合もあります。この潰瘍性大腸炎の治療には、一般的に以下のような薬が処方されます。
5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬は、経口や直腸から投与され、持続する炎症を抑える効果があります。炎症を抑えるため、下痢や出血・腹痛などの症状を著しく軽減することができます。この製剤は軽症から中程度の潰瘍性大腸炎の治療に有効であり、再燃予防にも効果があることがわかっています。
従来使われてきたのはサラゾスルファピリジンですが、サラゾスルファピリジンには副作用として発疹や発赤などの皮膚症状が出ることが多く、まれに発疹が全身に広がって重篤な皮膚疾患へ進行する場合がありました。また、吐き気や嘔吐・食欲不振といった症状も少なくありません。
そこで、サラゾスルファピリジンのこれらの副作用を軽減するために開発されたのが、メサラジンという改良新薬です。余分な成分を含まず、有効成分のメサラジンだけが腸内で溶けるように改良されているため、サラゾスルファピリジンと比較して副作用が起こりにくくなっています。
副腎皮質ステロイド薬は、経口や直腸からの投与のほか、経静脈的に投与されることもあります。中程度から重症の患者さんに用いられ、強力に炎症を抑える働きがあります。5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬とは違い、再燃を予防する効果は認められていません。
難治性で症状が重いと判断される場合、免疫調節薬または抑制薬を使用し、免疫の作用を抑えることで腸の炎症を鎮める方法が取られることもあります。ステロイド薬のみでは効果が不十分な場合、またはステロイド薬を減薬しやすくするために併用されるのはアザチオプリンまたは6-メルカプトプリンで、ステロイド薬の効果がほとんど見られない場合にはタクロリムスやシクロスポリンが使用されます。
6-メルカプトプリンやシクロスポリンは潰瘍性大腸炎の治療薬としては国内未承認の薬剤となっていますが、保険適用外で自己負担による治療を行うことは可能です。6-メルカプトプリンは染色体異常を引き起こす副作用の可能性が示唆されているため、妊婦さんへの投与は推奨されていないほか、服用に際しては慎重な判断が必要です。
抗TNFα受容体拮抗薬は、いずれも注射薬です。これらの薬剤は前述の経口または直腸投与の薬剤で効果が見られない、あるいは重篤な副作用がある場合に使用されるのが一般的です。インフリキシマブは8週間ごとに点滴投与を行い、アダリムマブは2週間ごとに皮下注射を行います。アダリムマブは自己注射による投与を選択することもできます。
2016年、慶応大学病院の研究グループが青黛(せいたい)を用いた潰瘍性大腸炎の治療に関する臨床試験の結果を発表しました。青黛はインジゴという藍染の染料を含有する植物性の生薬で、中国では古くから青黛を含む漢方薬による潰瘍性大腸炎の治療が行われてきましたが、効果について十分な科学的検証は行われていませんでした。
そのため、自己判断や自由診療で青黛を含む漢方薬を内服している患者さんが日本にも多い一方で、医師側も青黛の安全性や効能などの科学的なデータを十分に検討し、診療に臨む必要性があるという問題点が指摘されていました。
この論文では、青黛が含有するインジゴは、粘膜治癒を促進する物質として近年世界的に注目を集めている「インドール化合物」の一種であるという点に着目し、有効性と安全性を科学的に検証する臨床試験として行われました。その結果、従来の治療薬では効果が見られなかった難治性の症例を含め、約7割の患者さんで有効であるという結果が示唆されました。
また、内視鏡下での観察において、劇的な改善を認めた症例もあります。これらのことから、青黛は十分に有効な代替治療薬の候補になりうると考えられます。しかし一方、肝機能障害などの副作用も認められるため、最大投与量などの設定を含めてまだまだこれからさらなる検証が必要とされています。
漢方薬の効果は、今や単なる体質改善にとどまらず、科学的な観点からもさまざまな難治性の疾患に対して改善が見られたという報告が増えています。潰瘍性大腸炎に対する青黛もその一つで、現在の西洋医学的な治療薬で効果が見られない患者さんには福音となる可能性があります。
投与量や副作用などの検証を含め、今後のさらなる研究が期待されます。
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