記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/21 記事改定日: 2020/2/5
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
心筋緻密化障害とは、心臓の細胞が胎児期に発達していく上で、何らかの原因で発育に障害や不良が起こることによって、さまざまな心疾患を引き起こす疾患です。
この記事では心筋緻密化障害の症状や原因、治療法を紹介していきます。
心筋緻密化障害とは、胎児期に網目状に粗く隙間が空いた肉柱構造(スポンジのような構造)をしていた心筋が、その後、発育とともにより緻密な状態に生育していくことができず、スポンジ状態のまま隙間が多くなっている状態です。心筋症のうちでも比較的新しく発見されたもので、遺伝的要素が大きいとされています。
心臓のうち、特に左心室の心筋が全層にわたって隙間が多くなっている場合を緻密化障害と呼びます。断層心エコー法や、MRI、左室造影法などで診断を行い、左心室の内側に粗い肉柱の形成とその間の深い陥没があれば緻密化障害と考えられます。現在の医療技術では、病気のはっきりした原因や有効な治療法がわかっていません。そのため、治療はあくまでも対症療法です。
新生児期に心不全で死亡してしまうものから、健常者と同様に30〜40代くらいまで気づかれずに生活していたものの、突然心不全の症状が悪化してくるものまで、その病状はさまざまです。性差はあるとする報告とないとする報告があり、未だにどちらともわかっていません。以前はまれな疾患でしたが、最近では成人の発症例も報告されるようになってきており、以前ほどまれな疾患ではないとする見方も出てきています。
心筋緻密化障害の原因は、多くは遺伝性・家族性のものと考えられています。細胞骨格や筋原線維を構成するタンパク質に遺伝子変異が起こるとこの疾患を発症することがあるとわかっていて、筋肉や細胞の発育途中で何らかの障害が起こることが一つの原因ではないかと考えられています。
具体的に現れる症状としては、乳幼児期に緻密化障害が発覚するような場合は、心不全の症状が強く、青年期や成人期になってから見つかる場合は軽症や無症状であることが多いです。特に、成人で無症状のまま過ごしてしまった場合、会社の健康診断などで心臓を撮影した際にたまたま発見され、驚く人もいます。
心筋緻密化障害では、心臓の細胞の間に細かい隙間が多いため、そこに血栓が発生して拡張型心筋症を引き起こすことがあります。拡張型心筋症とは、左心室の筋肉が伸びきって薄くなってしまい、心筋のポンプ機能が極端に低下してしまう疾患です。動悸や呼吸困難の原因となり、症状が進行するとむくみや不整脈が起こるほか、心不全につながります。
また、血栓が発生した場合、血栓が血流に乗って流れていき、首や脳の血管に詰まって脳梗塞などを引き起こすこともあります。隙間にウイルスが住み着いて心筋炎などの疾患を引き起こすことで心筋緻密化障害が発覚する場合もあります。
心筋緻密化障害が見つかった場合、まずは根治が必要なのかどうかを見極めます。軽症の心筋緻密化障害で日常生活の管理や投薬治療のみで補えそうな場合は、症状に応じた管理や治療を行います。たとえば、学校生活管理指導表の区分において、無症状の場合はD(中程度の運動まで可)、症状がある場合はC(軽い運動は可)の区分で管理を行う必要があります。ただしどちらも原則として強い運動や運動部への入部は禁止です。
薬物治療は、無症状の人に対してはあまり行われません。症状がある場合、慢性心不全に対する治療を行います。利尿薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、β遮断薬などの投与が検討されます。また、急性心不全の場合は利尿薬・フォスフォジエステラーゼⅢ阻害薬・カテコラミンの点滴などが検討されます。
不整脈の場合は抗不整脈を、心室性頻拍症の場合はアミオダロンの内服や植込み型の除細動器が使用されます。また、右室と左室が同時に収縮していなかったり、心電図の波に異常が見つかった場合は、心室を同期させるためにペースメーカーを植え込む必要があります。
それでも回復しない場合には、心臓移植の適応となります。心臓移植のドナーが見つからないなどの理由ですぐに治療が行えない場合は、人工心臓の植え込みが適応となる場合もあります。
心臓移植をすれば、健常者と同じとはいきませんが、軽い運動が行えるまでには回復することができます。移植者による運動会が開かれることもあり、移植者は術前より快適な生活を送ることができるようになります。
しかし、心臓移植を行った場合、他人の臓器が体に入るため、異物を追い出そうとする拒絶反応が起こることもあります。この反応を抑えるために、免疫抑制剤を生涯飲み続ける必要があります。免疫抑制剤は、移植臓器に対してだけではなく、ウイルスや雑菌に対しての免疫も抑えてしまうため、感染症にかかりやすくなってしまう点で注意が必要です。また、拒絶反応が起こっているかどうかのチェックや、服薬による副作用や感染症の有無を含め、定期的な検診が必要となります。
心筋緻密化障害は、予後不良の疾患として報告されました。かつての1990年、1997年の小児及び成人の予後に関する報告では、非常に不良であったと報告されています。しかし、2005年の成人の報告、2007年の小児の報告においては、死亡例はそれぞれ1件、0件と予後は改善されています。
このように予後が改善されてきた原因は、心筋緻密化障害が広く認知されるようになってきたことや、エコー診断の精度が向上したこと、遺伝子検査によるスクリーニングが可能になってきたことなどが挙げられます。しかし、長期の予後ではやはりまだ完全に良いとは言い切れないため、治療は難しい疾患です。
心筋緻密化障害を根本的に治す治療は現在のところ、心臓移植しかないとされています。このため、心筋緻密化障害の人はできるだけ心臓に負担をかけない生活を送ることが必要です。
また、健康な方より免疫力が低下しがちになるため風邪などにも注意する必要があります。
日常生活では、次のような点に注意しましょう。
心筋緻密化障害は、胎児期に心臓の筋肉が発育していく最中に何らかの障害が起こり、スポンジのような状態のままで生まれてしまう疾患です。乳幼児期に重篤な疾患として見つかる場合、多くは心不全の症状が現れ、死亡に至る例も少なくありません。
治療法は確立されていないため、対症療法が基本です。薬剤やペースメーカーで回復が見込めない場合、心臓移植が必要になることもあります。
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