記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/9/19
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ナルコレプシーとは、眠れない・変な時間に眠くなってしまうなどの睡眠障害の一種で、特に日本の若者に多く見られる病気です。興味のない授業に眠くなってしまう学生はよくいますが、起きていようと努力しても眠くなってしまうとナルコレプシーではないか、と疑いが強くなります。
ここからは、ナルコレプシーになるとどんな症状が出るのか、治療法はあるのかについて見ていきましょう。
ナルコレプシーとは、睡眠に関して異常が出る「睡眠障害」の一種で、通常は起きて活動している時間帯(基本的には日中)に自分でコントロールできない強い眠気が繰り返し現れてしまう特徴があります。その性質から、過眠症の一種とされています。世界規模では2,000人に1人の割合、日本では600人に1人の割合で見られ、日本では世界の3倍程度発症率が高いことがわかっています。
主に子ども・青年・若年成人など、ごく若い世代で発症率が高く、そのピークは14~16歳の学生世代と言われています。日中の眠気のほか、夜間に眠れない、途中で目が覚めてしまうなど問題がある場合もあり、「起きて活動している状態」と「眠って休んでいる状態」を適切にコントロールできないことが大きな問題となる疾患です。
ナルコレプシーの患者さんは、脳脊髄液中の「オレキシン」という物質の濃度が非常に低いとされています。風邪などをきっかけに突然症状が現れる人もいることから、何らかの感染がきっかけとなって、免疫機能によってオレキシンを作る神経細胞が感染源(病原体)と間違って攻撃され、オレキシンを作れなくなるのではないかという仮説も提唱されています。
近年の研究で、ナルコレプシーの患者さんでは免疫機能を担う細胞に一定の異常があることが発見されたため、この仮説が信憑性を帯びてきたことから、関心が集まっています。
ナルコレプシーの症状には、大きく分けて4つの特徴があります。
日中活動しているとき、一般的には興奮や緊張して眠気が現れないはずのときに突如として眠気が現れ、しばしば実際に眠りにおちてしまうのがナルコレプシーの最大の特徴です。さらに、カタプレキシーとも呼ばれる「情動脱力発作」もナルコレプシーの8割でみられる大きな特徴で、感情が高ぶったときに突然全身の筋肉の力が抜け、喋れなくなったり立っていられなくなったりします。これらの症状があると、ほかの過眠症よりもナルコレプシーを疑う必要があります。
ナルコレプシーについてはまだまだ未解明の部分が多く、初めにご紹介したオレキシンや免疫機能に関する説は研究レベルなため、残念ながら根本的な治療法はありません。そこで、治療は睡眠リズムをある程度規則正しく強制するための投薬と、日中の睡眠発作に対して少し眠ることで対処するなどの生活上の工夫が中心となります。
まず、ナルコレプシーかどうかを判断するため、以下の検査を行います。
眠気に関する検査は、昼間に暗い部屋で横になり、眠るまでの時間と脳波を検査するというものです。2時間ごとに脳波を記録する「反復睡眠潜時検査」というもので眠気を測りますが、この検査を正確に行える施設は日本ではまだ限られています。また、前述のようにオレキシンや免疫に関する説はまだ研究の段階であり、オレキシンの測定検査は実際の診療で使える段階に至っていません。
免疫に関する検査は診療レベルにはなっていますが、残念ながらまだ保険適応となっておらず、検査費用が高額になってしまうことが問題です。これらのことから、まだまだナルコレプシーに関しては理解や認識が進んでおらず、「怠け者なだけなのでは」などと責められてつらい気持ちになってしまう患者さんもかなりいるようです。適切な理解と検査・治療が行えるよう、今後の研究が待たれます。
さて、ナルコレプシーの治療法ですが、まず日中の睡眠発作や情動脱力発作が薬で改善されることがあります。また、夜間に眠れない、寝ても途中で起きてしまうなどの睡眠障害を抱える人には、睡眠導入剤などの利用で睡眠リズムを整えることが有効な場合もあります。オレキシンが少ない場合、オレキシンを補充する方法も提案されてはいますが、やはり研究段階であることから、まだ実用化には至っていません。
日中の睡眠発作に関しては、短時間でも眠ると一時的に眠気がなくなるため、昼休みを利用して眠るなど、患者さん自身が日々さまざまな形で工夫して過ごしていることも多いです。また、肥満や糖尿病の合併発症が多いことから、食生活や運動など生活習慣の改善が勧められることもあります。
このように、ナルコレプシーの診断や治療には経験と最新の専門知識が必要です。自分がナルコレプシーかもしれない、治療したい、と思う場合は、できるだけ睡眠障害の専門医に相談しましょう。
ナルコレプシーの症状で特徴的なのは、日中活動しているときに突然襲うコントロールできない強い眠気や、眠気も感じず寝てしまうというものです。また、8割の人にはさらに「情動脱力発作(カタプレキシー)」という、強い感情が起こったときに全身の筋肉の力が抜けてしまう症状が見られます。
ナルコレプシーの診断や治療には、医師の経験と知識が必要です。ナルコレプシーかな?と思ったら、睡眠障害の専門医に相談しましょう。