記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
貧血は、赤血球に影響を及ぼす疾患です。
赤血球とは、肺から体内に酸素を運ぶ血液細胞で、酵素を運ぶのはヘモグロビン(赤血球中のタンパク質)なのですが、ヘモグロビンをつくるには鉄分が必要です。貧血の人は、このヘモグロビンが不十分なのが特徴です。
貧血には2つのタイプがあります。
・「鉄欠乏性貧血」
貧血の最大の原因は、体内の鉄分が不足するため、ヘモグロビンをつくることができない場合です。
・「正球性貧血」
赤血球数が少なく、MCVが正常範囲内である場合です。
多くの場合、症状はありませんが、下記のような症状が現れる場合があります。
・顔色が青白い
・疲労感
・運動中の過度な息切れ
・極端な大食症(異食症)
・頻脈
・手足の冷え
・爪が脆くなる、または脱毛する
・頭痛
・めまいや立ちくらみ
体内の鉄分が不足してしまうのには、さまざまな原因があります。
・食事
鉄分を豊富に含む食べ物を十分に摂取していないと、体内の鉄分が不足してしまうことがあります。子どもや、ダイエットに励む若い女性、普段お肉を食べない人に多く見られます。
・鉄分を吸収できない
鉄分は小腸から吸収されるのですが、例えばクローン病やセリアック病といった特定の病気が原因で、体内の鉄分が不足してしまうことがあります。また、牛乳、制酸剤、胃酸を低下させる薬など、特定の食べ物や薬も、鉄分の吸収を妨げてしまうことがあります。
・成長の速い子ども
3歳未満の子供の成長は非常に速いため、十分な鉄分を吸収できないことがあります。
1歳になる前までに日常的に牛乳を飲む赤ちゃんは、鉄欠乏性貧血のリスクがあります。
牛乳には、赤ちゃんが成長するのに十分な鉄分が含まれていません。1歳を迎えるまでは、牛乳はあげないほうがいいでしょう。また、母乳で育った赤ちゃんで、鉄分を豊富に含む食べ物を食べなかったり、生後4ヵ月に鉄分を補給するための赤ちゃん用サプリメントをとらなかった場合、鉄欠乏性貧血の危険性があります。
・妊娠
妊婦や授乳中の女性は、そうでない女性より鉄分が必要です。だからこそ妊婦は頻繁に貧血検査を受け、鉄分が豊富な食品を食べたり、毎日鉄剤を摂取したりする必要があるのです。
妊娠中は、赤ちゃんのために、多くの血液が作られます。妊娠していないときよりも30%も多くの血液が作られるとも言われています。鉄分が十分ではない場合、血液を作るために必要な赤血球を作ることができません。
また、以下の場合は妊娠中に鉄欠乏性貧血を発症するリスクが高くなることがあります。
・つわりによる大量の嘔吐
・鉄分が豊富な食べ物が足りない
・妊娠前の月経が重かった
・短期間に2回の妊娠を経験した
・双子、三つ子、あるいはそれ以上妊娠した
・10代で妊娠した
・大量出血をした(例えば、怪我や手術中の出血などによる)
なお、妊娠中に十分な鉄分を摂取できないことでも、鉄欠乏性貧血のリスクが高くなります。
・血液の喪失
月経で失血の量が多い場合、鉄分が不足してしまう原因になることがあります。また、消化管内の内部出血も失血の原因となります。胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、癌などの疾患や、アスピリンの長期間服用などが原因で、胃や腸から出血することがあります。
・遺伝的疾患
鎌状赤血球症やサラセミアを患っている場合、体は健康な赤血球をつくることができなくなり、貧血につながる可能性があります。これは、胎児にも遺伝する恐れがあります。家族にこれらのいずれかの病気を患っている場合は、妊娠中の貧血の予防法や治療法を医師と相談してください。
正球性貧血は、生まれながらの要因(先天性)の場合と、感染や病気によって引き起こされる場合(後天性)があります。
正球性貧血は、腎臓病、癌、慢性関節リウマチ、甲状腺炎のような慢性疾患によって引き起こされるのが一般的です。
貧血があると思われる場合は、医師に相談してください。
診断するには血液検査を行い、貧血の場合はほかの検査を行う必要があります。
正球性貧血の検査には、ルーチン検査が行われます。ほかの血液検査で見つかるかもしれません。なお、正球性貧血は全血球計算(CBC)でも判明します。CBCで正常な大きさの赤血球数が低下を示している場合は、さらに検査を受けたほうがいい場合があります。なお、遺伝性の場合は家族も検査する必要があります。
貧血の治療法は、原因が何であるかによって異なります。例えば、多量の血液を失ってしまったことによる貧血の場合、失血の原因となっている病気などを治療する必要があります。
食事で十分な鉄分を摂取できていないことによる鉄欠乏性貧血の原因の場合、食生活の改善や鉄剤の服用がすすめられるでしょう。
貧血の原因となっている症状を改善することが、治療する上で最も重要です。貧血の治療のために、特定の薬の服用をやめたり、原因となっている慢性疾患を治療したり、貧血の原因となっている病気が隠れていないかを調べたりすることが必要です。
深刻な場合は、エリスロポエチンの注射をすることがあります。エリスロポイエチン注射によって、赤血球が骨髄でたくさん作られる効果が期待されます。
赤ちゃんを粉ミルクではなく母乳で育てていて、鉄分が十分にとれているか心配な場合は、4〜6ヵ月ごろから始まる離乳食に、鉄分配合の栄養補助食品を加えてもいいかについて医師に相談してみてください。
食事によって引き起こされる貧血は、鉄分の量を増やすことで予防可能です。
鉄分が多い食品をもっと食べましょう。お肉がおすすめです。少量のお肉を野菜の鉄分とともに食べることで、さらに効果的に鉄分を摂取できます。ビタミンC錠剤の服用や、柑橘類やジュースなどのビタミンCが多い食品と一緒に鉄分をとっても、体が鉄分を吸収しやすくなります。
なお、コーヒー、紅茶、卵、牛乳、繊維、大豆タンパク質などは鉄分の吸収を妨げます。鉄分が多い食品を食べているときは、これらの食品を避けるようにしてください。
妊娠中の貧血を常に防ぐことはできませんが、鉄分の豊富な食品を食べることが有効です。
妊婦の場合、毎日少なくとも27 mgの鉄分を食べることが推奨されています。鉄30mgを含むサプリメントを毎日服用することもすすめられています。
イチゴや柑橘類のようなビタミンCを含む食品は、鉄分の吸収を促進します。鉄剤を服用する場合は、オレンジジュースやビタミンCが多い食品と一緒に服用してください。
なお、牛乳、大豆たんぱく、卵、コーヒー、紅茶などの食品は鉄分の吸収を妨げるので、鉄分が多い食品を食べるときは摂取を避けましょう。制酸薬やカルシウムを含んだ特定の医薬品も鉄吸収を阻害することがあります。
鉄分を配合した粉ミルクをあげている場合は、赤ちゃん用のサプリメントをあげないでください。これらを組み合わせてしまうと、鉄分を摂りすぎてしまうため、赤ちゃんの健康によくありません。赤ちゃんが1歳になる前に母乳を中止する場合は、鉄分を多く含む粉ミルクをあげてください。
赤ちゃんが1歳になって、母乳や鉄分配合の粉ミルクをあげなくなったら、牛肉、鶏肉、魚、全粒粉、栄養強化されたパンやシリアル、緑黄色野菜、豆などを食べさせてください。ビタミンCもまた、鉄分の吸収を助ける役割を果たすため、重要です。また、子供には牛乳は1日700ml(コップ3杯程度)以上あげないでください。鉄分の少ない牛乳の代わりに、ヨーグルトやチーズをあげるのもいいかもしれません。鉄分配合のビタミン剤をあげたい場合は、事前に医師に相談してください。
赤ちゃんが鉄欠乏性貧血になると、身体的、精神的に何らかの問題を引き起こすことがあります。治療をして貧血が治った後も、こうした問題が長期間続くこともあります。
妊娠中に貧血になった場合、治療しないと、早産や、低体重で生まれるリスクが高くなります。出産痔に大量出血した場合は、輸血が必要になります。また、貧血が産後うつと関係している可能性も指摘されています。まれに、母親が重度の鉄欠乏性貧血の場合、赤ちゃんも鉄分不足になることがあります。これは、成長上の問題や、精神発達の遅れにつながる恐れもあります。しかし、たいていは赤ちゃんに必要な鉄分は妊娠中に吸収されます。鉄欠乏性貧血の治療をきちんとすることで、こうした問題はほとんど予防することができます。
鉄剤は、胃のもたれ、胸やけ、便秘を引き起こす可能性があります。 補助の鉄剤やビタミンをとる前に必ず医師に相談をしてください。鉄サプリメントが処方された場合、違和感を感じたら必ず医師に伝えてください。
子供が鉄欠乏性貧血を抱えている可能性がある場合は、医師に相談してください。
乳児であれば、9〜12ヵ月齢に血液検査で調べる必要があります。幼児の場合は、6ヵ月と24ヵ月のタイミングで検査をしてください。
最初の出生前の受診中に、貧血をチェックするための血液検査を受けることになります。早期妊娠中に貧血がなくても、妊娠第2期や第3期に再検査をします。
・食べ物と一緒に鉄剤を摂取してください。
・1日1錠を3〜5日間服用してから、その量が大丈夫だったら1日2錠を服用してみてください。 医師が推奨する量になるまで、鉄剤の数を徐々に増やしてください。
・便秘の場合、食物繊維の摂取量を増やしてください。食物繊維は鉄の吸収を妨げてしまうのも事実ですが、鉄分を十分にとっていないときと比べたら多少は吸収されやすくなります。
・胃もたれを引き起こす場合は、就寝時に鉄剤を服用しないでください。
鉄剤により問題が引き起こされた場合は、別の処方を試してみたほうが良いか医師に相談してください。
すべての鉄を含む食品を子供の手の届かないところに保管しておいてください。多量に摂取すると有毒になる可能性があります。
<鉄が多い食品>
・レバー
・赤身肉
・シーフード
・アプリコット、プルーン、レーズンなどのドライフルーツ
・ナッツ
・豆、特にリマ豆
・ホウレンソウやブロッコリーなどの緑色の葉野菜
・廃糖蜜(はいとうみつ)
・全粒粉
・多くのパンやシリアルのような鉄強化食品(ラベルをチェックしましょう)
・貧血かどうかはどうすればわかりますか? 危険な状態にありますか?
・妊娠しました。貧血検査を受けるべきですか?
・貧血はどのように治療されますか?
・以前貧血がありました。どうすれば再発を防ぐことができますか?
・鉄分のサプリメントを摂取すべきですか?
・鉄剤を飲めばどんな貧血でも治りますか?
・子供に貧血が遺伝することはありますか?
・これからもずっと貧血でしょうか?