記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/2/16 記事改定日: 2018/11/1
記事改定回数:5回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
インフルエンザ脳症はインフルエンザ合併症のひとつです。痙攣(けいれん)や意識障害が起こり、命に危機が及ぶことがあるので緊急治療が必要になります。この記事では、インフルエンザ脳症の恐ろしさについて解説していきます。
症状や治療、予防法についての理解を深めて、もしものときに役立ててください。
インフルエンザにかかった場合に、痙攣や意識障害、異常行動などの神経症状を引き起こす場合があります。熱性けいれんや一時的な異常行動のことが多く、大半はすぐに回復します。
しかし、刺激への過剰反応や昏睡状態、循環や呼吸の異常など急性脳症の症状を伴う場合はインフルエンザによる急性脳症の可能性があり、緊急治療が必要です。
初期症状では、熱性けいれんか急性脳症か区別が難しいといわれているので、けいれんや意識障害がみられるときは、すぐに医療機関を受診しましょう。
インフルエンザ脳症は、20代以降の成人にくらべて乳幼児を含む子供の発症数が圧倒的に多いといわれています。特に就学前の子供は重症化しやすく、知的障害や高次機能障害が残ってしまうケースも多いとされています。
乳幼児は熱性けいれんを起こしやすいので、特に判別が難しいです。疑わしい症状があるときは必ず医療機関で検査してもらってください。
子供に比べると、高齢者がインフルエンザ脳症を発症する確率は非常に少ないといわれています。ただし、高齢者は肺炎を合併することが多く、死亡例もあるので油断はできません。また、高齢者や若い人がインフルエンザ脳症にならないわけではないので、疑わしい症状があるときは、すぐに医療機関を受診しましょう。
インフルエンザ脳症を発症すると、致死率は30%にも上り、救命できたとしても神経障害を残すことがあり、インフルエンザ脳症はインフルエンザの合併症の中で最も重篤な病態といえるのです。
発症メカニズムについて明確には解明されていませんが、インフルエンザ脳症はインフルエンザウイルスが脳内に侵入しなくても発症することが分かっています。
インフルエンザウイルスは鼻や喉に粘膜に感染し、全身に広がっていきますが、その過程で過剰な免疫反応が生じ、炎症性物質であるサイトカインなどの物質が多量に産生されます。これらの物質が過剰になると、私たちの正常な細胞にも害を及ぼすようになり、結果として脳細胞が障害を受けて脳症を発症するとの説が有力視されているのです。
また、脳症を発症するような状態では、脳だけでなく全身の様々な細胞が障害を受け、多臓器不全や呼吸不全などの非常に重篤な状態に陥ることも少なくありません。このため、けいれんや意識障害などの脳症による症状だけでなく、全身状態が悪化して死に至ることがあるのです。
検査でインフルエンザ感染と意識障害が確認され、頭部CT検査で、びまん性低吸収域、局所性低吸収域、脳幹浮腫、皮髄境界不明瞭化などの脳障害が見つかった場合に「インフルエンザ脳症」と診断されます。MRI検査や脳波検査、尿や血液検査で、さらに詳しい検査や脳腫の重症度を調べる場合もあります。
現状では、インフルエンザ脳症の予防法は確立されていません。いくつかの研究によると、抗ウイルス薬の投与(タミフル®やイナビル®など)でインフルエンザ脳症の発症を予防することはできないといわれています。
インフルエンザワクチンは、インフルエンザ脳症などのインフルエンザ合併症を原因とする死亡を予防する効果が期待できるといわれています。日本の65歳以上の高齢者に関しては、約45%の発症、約80%の死亡を防いだという報告があり、小児では1~6歳未満で発症の阻止に約20~30%の効果があったとの報告もあります
インフルエンザ脳症の治療は、脱水やショック状態の改善、循環器系の管理を主に行っていきます。けいれんを引き起こした場合の対処や、必要に応じて人工呼吸管理を行います。
脳症に対する治療では、抗インフルエンザ薬、ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン大量療法の他、脳低温療法、脳圧を下げる治療、血液浄化療法を行います。
治療時期が早ければ早いほど、高い効果を得られるといわれています。研究報告によれば、脳症発症の当日に治療した患者は死亡や重度の後遺症が残った患者はいませんでした。しかし、2日目では約半数、3日目では約80%に死亡例や後遺症発症者が増えていた報告されています。
インフルエンザが起因して起こる脳症や脳炎の治療で「解熱剤」を使うことは、専門家の間でも意見が分かれています。
ただ、39度以上の高熱があり、ぐったりしていて元気がない状態であれば、アセトアミノフェン(カロナール®など)の解熱剤であれば安全とされ、処方されることがあります。
反対に、アスピリン(バファリン®)やジクロフェナク(ボルタレン®)、メフェナム酸(ポンタール®)などの使用は避けられる傾向があります。
解熱剤について不安なことやわからないことは、必ず担当医に相談しましょう。
インフルエンザ脳症は治療のタイミングが非常に重要です。症状に気づいたら早めに医療機関を受診することで、死亡や後遺症のリスクを軽減できるでしょう。また、ワクチン接種や手洗い、部屋の湿度管理、休養や栄養管理など個人でできるインフルエンザの予防も重要です。
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