記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
アナフィラキシーはアレルギー反応の一つです。いったん症状が出ると急激に体調が変わり、場合によっては命を落とす危険性があります。いざというときに自分自身はもちろん、家族や友人などを守るためにも、アナフィラキシーの対策を含め、アレルギー反応について学んでおきましょう。
アレルギー反応は、体内にアレルギーの原因物質であるアレルゲンが侵入することで生じる生体反応です。
通常、アレルゲンが体内に侵入すると、それに対する抗体であるIgEが作用し、肥満細胞からヒスタミンなどの物質を放出させます。このヒスタミンは血管の透過性を亢進させて局所的なむくみやかゆみを生じます。これがアレルギー反応の正体ですが、症状の現れ方は人によって大きく異なります。
小児に多く見られるアトピー性皮膚炎もアレルギー反応の一種です。
アトピー性皮膚炎は上下肢や顔にできやすく、ジクジクと水っぽくかさぶたを伴う湿疹が散在する病気です。
発症のきっかけには遺伝要因と環境要因などの様々な要因が関わっていると考えられていて、もともとアレルギーを起こしやすい小児が発症しやすく、アレルギー体質との関連が指摘されています。
アトピー性皮膚炎で皮膚のバリア機能が低下するとアレルゲンの侵入が起こりやすくなるため、皮膚の乾燥を防ぐことが重要となります。
気管支喘息(喘息)は気管の粘膜に生じるアレルギー反応です。
特定のアレルゲンを吸い込むと気管の粘膜にむくみが生じ、呼吸によって気道に入ってきた空気の流れが悪くなることで呼吸が苦しくなったり、息を吐くときにヒューヒューといった喘鳴が聞かれる喘息発作が起こります。
重症な喘息発作では、気道が高度に閉塞されるために呼吸ができない状態となり、速やかに適切な処置を行わなければ死に至ることもあります。
気管支喘息はこのような発作を繰り返し、気管が慢性的に炎症を起こしているため、構造の破壊が進み、バリア機能が失われることで更にアレルゲンへの反応が敏感になるという悪循環に陥ります。
このため、アレルゲンの除去も重要ですが、発作がない時でもステロイドの吸入などで発作を防ぐ治療が必要になります。
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンを吸い込んで鼻の粘膜に付着すると、IgEが作用して肥満細胞からヒスタミンが放出され、鼻の粘膜にむくみが生じることで鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状を引き起こすものです。
春に流行する花粉症はアレルギー性鼻炎の一種であり、多くは重篤な症状を併発することはありません。アレルゲンを吸い込む可能性がある場合にはマスクの着けて予防しましょう。
また、ハウスダストが原因の場合には丁寧な掃除やこまめな換気、空気清浄機の使用などで発症を予防することができます。
食物アレルギーは特定の食べ物がアレルゲンとなるアレルギー反応です。アレルゲンとなりやすい食品は小麦粉や乳製品、卵など様々ですが、多くの食品がアレルゲンとなる可能性があります。
症状は軽度な蕁麻疹や下痢などで治まることもあれば、急激にアナフィラキシーを生じることもあります。発症を防ぐには、原因となる食品を完全に除去するしか方法はなく、自分のアレルゲンを正しく把握し、食事内容を注意するしかありません。
金属アレルギーは金属によるアレルギー反応です。ネックレスやピアスなどのアクセサリーが原因となることが多いですが、歯科治療で使用される金属などによって起こることもあります。
ただし、他のアレルギーとは異なり金属自体がアレルゲンになるのではなく、微量な金属イオンがたんぱく質と結合することでアレルゲンとなります。
このため、即座に症状は現れず、一般的なアレルギー症状よりもやや遅れたタイミングで、かゆみや蕁麻疹などの症状が現れるのが特徴です。
発症を防ぐには、原因となる金属の接触を避けることが重要ですが、金属によるアレルギーが疑われる場合には、皮膚科でのパッチテストなどを行って自分のアレルギーを正確に把握する必要があります。
薬物アレルギーは、薬によるアレルギーですが様々な薬が原因となり得ます。また、症状も即座に蕁麻疹や息苦しさが現れることもあれば、長い期間をかけて肝臓や腎臓の機能を低下させるものなど様々なケースがあるのです。
発症を防ぐには、原因となる薬の使用を控える必要がありますが、その薬の使用でしか治療を行えない重篤な病気を発症している場合には、定期的な血液検査を行ってアレルギーによる障害が生じていないかを慎重に観察しながら使用を続ける場合もあります。
アナフィラキシーやアナフィラキシーショックは、生命を脅かす危険性がある重度のアレルギーのことです。アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)に触れてから数分以内に発症し、全身症状が出現します。
アレルギー反応のアレルゲンに触れてからすぐに発症するものと、発症までにある程度の時間がかかるものがあります。
アレルゲンに触れてからすぐに発症する即時型アレルギーには、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどが含まれます。これは、アレルゲンが体内に侵入すると即座にIgE抗体が反応して肥満細胞からヒスタミンを分泌させ、蕁麻疹や息苦しさなどを生じるものです。
重症な場合にはアナフィラキシーを生じることもあるので注意が必要であり、アレルゲンの侵入から症状が現れるのは数分~数十分です。
発症までにある程度の時間がかかる遅延型アレルギーは、金属アレルギーや薬物アレルギーの一種などがあります。
これは、アレルゲンに反応するT細胞が主体となる反応で、T細胞がアレルゲンを感知するとマクロファージが活性化され、周辺の組織にダメージを与えるために生じる反応です。
一般的にはアレルゲンが侵入してから1~3日後に症状が引き起こされるといわれています。
アナフィラキシーになったらすぐに救急車を呼んでください。発作を起こした人が緊急用のアナフィラキシーキットを持っているのであれば、すぐに注射しましょう。救急搬送されるまでの間の補助治療になります。
緊急用のアナフィラキシーキットには、アレルギー反応を打ち消す薬が含まれています。 この薬はエピペンとよばれ、腕や脚に注射する(または、友人に注射してもらう)エピネフリンと呼ばれる薬で、医師が処方しています。
アナフィラキシーにすぐ気づけるように、特徴的な症状を覚えておきましょう。
腫れやかゆみ、じんましんといった、通常のアレルギーと同じ症状が出ますが、以下のような症状も出てくる点で大きく異なります。
症状は軽い場合もありますが、重症になることがあります。症状が軽かった場合も、過去に重度のアレルギー反応やアナフィラキシー症状を経験したことがある場合は、必ず医師に相談してください。
アナフィラキシーは適切に治療が行われれば大半が回復します。ほとんどの人は回復すれば、今までと変わらない日常生活を送ることができるでしょう。 ただし、アナフィラキシー後24時間は再び発作が起こる可能性があるため、付き添いの人にいてもらう必要があります。
アナフィラキシーにかかった後は、 再発時のリスクを最小限に抑える準備と、救急時の携帯用キットやその使い方を医師に相談してください。
万が一アナフィラキシーの症状が現れたときのためにも、携帯用キットを持ち歩き、アナフィラキシーの症状が現れたらすぐに使用して症状の悪化を抑えましょう。
初めて発症したときや携帯用キットを持ち歩くのを忘れたときなどは救急車を要請するなどできるだけ早く病院に向かい、適切な治療を受けることが大切です。
アナフィラキシーは重症化すると呼吸困難や血圧の急低下などを引き起こし、命を落とすケースも少なくありませんので、万が一発症したときは、迅速な対応が重要になります。
また、アナフィラキシーを起こしたことがある方は再発を繰り返すことがあります。原因となる物質や環境が分かっているときはそれらを避けた生活を送るよう心がけましょう。
アナフィラキシーは深刻な状態を引き起こす可能性がある怖い症状ですが、適切に対処して治療すれば、元通りの生活が送れるようになります。大切なのは、症状が出たときにあわてたり、パニックに陥ったりしないよう落ち着いて対応すること。いざというときも冷静に対応し、健康な毎日を取り戻しましょう。