萎縮性腟炎って、放置すれば病院に行かなくても治るの?

2018/9/14

前田 裕斗 先生

記事監修医師

前田 裕斗 先生

外陰部や腟が乾燥する、かゆみや痛みがあるなどの症状が出ることがあります。一時的なものであれば問題ありませんが、長く続く場合は、萎縮性腟炎という疾患かもしれません。
腟や外陰部というデリケートな部位に起こる症状は、できるだけ病院に行かずに済ませたいものです。しかし、萎縮性腟炎だった場合、放置しておいて自然に治るのでしょうか?また、痛みやかゆみを和らげる方法はあるのでしょうか?

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萎縮性腟炎は放置していれば治る?

萎縮性腟炎とは、閉経後の女性に起こる疾患です。閉経したのち、卵巣が女性ホルモンを産生しなくなると、女性ホルモンであるエストロゲンの値が低下することによって起こります。また、女性ホルモンの低下が原因であるため、年齢にかかわらず、卵巣の摘出手術を行った人もなりやすい疾患です。

また、女性ホルモンは月経や排卵を司っているだけでなく、腟の粘膜に潤いを与えたり、細菌から腟内を守り、清潔にしたりする働きがあります。そのため、女性ホルモンが低下すると、腟の粘膜が薄く、乾燥しやすくなったり、炎症を起こしやすくなったりします。これらを総称して萎縮性腟炎と呼んでいます。

具体的な体の症状としては、外陰部の痒みや痛み、ひりひり感、性交痛などが挙げられます。女性ホルモンは放っておいても自然に増えることはないので、放置していれば治る疾患ではありません。

しかし、腟錠や注射によってホルモンを補充し、閉経後のホルモン量の低下を穏やかにすることで、症状を和らげることができます。これらの症状に悩んでいる方は、早めに婦人科の医師に相談することをおすすめします。

萎縮性腟炎はどうやって治療するの?

萎縮性腟炎の原因となる腟の乾燥や炎症は、女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏が原因です。ですから、腟座薬または錠剤、塗り薬などによってエストロゲンを補充する治療法がとられます。

エストロゲンの補充方法は、患者さんの状態によって局所投与と全身投与(HRT…ホルモン補充療法)のどちらかが選択されます。

局所投与による治療
腟に直接薬剤を挿入したり、塗布したりして効果を腟周辺のみに留める治療法です。直接挿入または塗布するため全身への影響が小さいので、後述するHRT(ホルモン補充療法)ができない方にも使うことができます。
軽症の方の大半に有効性が認められますが、外陰部が癒着するほど症状が進行している場合は挿入が困難なため、痛みや違和感を感じることがあります。挿入時、皮膚を傷つけないように注意が必要です。
HRT(ホルモン補充療法)による治療
HRT(ホルモン補充療法)は、萎縮性腟炎だけでなくホットフラッシュや抑うつ症状、骨粗鬆症の予防など、更年期障害で起こりうるトラブル全般に効果があります。
HRTは乳がん、子宮がん、血栓症などの治療薬を処方されている方には使うことができません。また、使い始めの1〜2ヶ月は胸の張りやおりものの増加などの違和感を感じる方もいます。

性交痛がある場合は、これらエストロゲンを増やす治療法とは別に、潤滑ゼリーなども併用することがあります。ホルモンに働きかける治療法は効果が出るまでにある程度の時間がかかりますが、潤滑ゼリーを使用すればすぐに効果を得ることができます。

また、炎症などの細菌感染を合併している場合では抗生物質や抗ヒスタミン薬などを併用し、内部から環境を整えるとともに炎症の直接の原因も治療する方針が選択されます

痛みやかゆみを和らげるために心がけるといいことって?

萎縮性腟炎による痛みやかゆみを和らげるために、治療以外に気をつけられることもあります。

ビタミンDを摂取する

ビタミンDは、腟内の水分を増やしてくれる働きがあります。また、カルシウムの吸収を助けてくれる作用もあるため、カルシウムと合わせて摂取すれば更年期障害に伴う骨粗鬆症の予防にもつながります

しかし、過剰摂取すると嘔吐や食欲不振、カルシウムの摂りすぎによって腎臓や筋肉にカルシウムが沈着する石灰化の症状が見られることもあります。1日の摂取量の上限は以下のとおりです。

  • 幼児…1,000〜1,500IU/日
  • 1〜8歳…2,500〜3,000IU/日
  • 9歳以上の小児、成人…4,000IU/日

摂取上限量を守り、上手にビタミンDを摂取しましょう。

体調や環境を整える

睡眠をしっかりとる、規則正しい生活を送るなど、ホルモンバランスを整えるとともに免疫力を高める生活を心がけましょう。また、食生活ではビタミンDを摂取するだけでなく、納豆などの発酵食品や、ごぼう・ねぎなどの食物繊維などを取り入れることは、健康にもつながります。

通気性の良い服を着たり、血行を良くするための軽い運動をしたりするのもおすすめです。締めつけの強い下着や服は、デリケートゾーンが蒸れて雑菌が繁殖しやすくなってしまい、細菌性腟炎の原因になる可能性があります。締めつけすぎないよう、体に合った服を選びましょう。また、運動によって血行を良くすると、ホルモンの効果を全身に行き渡らせることができます。

パートナーと定期的に性生活を持つ

性交痛がない方であれば、パートナーと定期的に性生活をすることが腟への血流を良くし、萎縮防止に役立ちます。腟の分泌物が増えて乾燥しづらくなるので、乾燥による痛みやかゆみを起こりにくくすることができるでしょう。また、痛みの少ない方であれば、潤滑ゼリーなどを使用しながら行うと不用意に腟内を傷つけるのを防ぐことができます。

しかし、すでに痛みやかゆみのひどい方は、性行為の際に腟内を余計に傷つける可能性もありますので、避けた方が良いでしょう。

萎縮性腟炎になると、どんな痛みが出てくるの?

萎縮性腟炎では、主に腟内や外陰部の痛みを感じます。具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 不正出血
  • 腟の違和感
  • 腟や外陰部の痛み・かゆみ
  • 腟や外陰部の発熱
  • 悪臭のあるおりもの
  • 性交痛・性交時出血
  • 排尿痛

これらの症状が続いている場合、萎縮性腟炎が疑われます。

萎縮性腟炎になってしまった原因って?

萎縮性腟炎の直接の原因は、エストロゲンの欠乏です。エストロゲンが欠乏すると、腟壁を形作っているコラーゲンが減少したり、腟粘膜が薄くなったりします。これにより、腟内部が乾燥し、傷つきやすくなります。

腟粘膜が薄くなったり分泌液が減ったりすると、腟の自浄作用が弱まります。閉経前の女性では、腟内は雑菌の繁殖を抑えるため分泌液によって酸性に保たれています。しかし、分泌液が減って乾燥すると、一定の体温に保たれて湿気の多い腟内では雑菌が繁殖しやすくなります。

乾燥による傷と雑菌の繁殖によって、炎症が起こります。炎症の度合いが進むと、おりものが黄色くなったり悪臭を放ったりします。また、黄色いおりものは萎縮性腟炎だけでなく、子宮体がんに伴う症状である場合もあるため、おりものに変化がある場合は早めに病院で診察を受けましょう。

おわりに:萎縮性腟炎は放置していても治らない

萎縮性腟炎を発症した場合、残念ながら放置していても治ることはありません。閉経後の女性の体の変化として自然に起こる現象であるため、放置しておくと症状が進行する可能性もあります。

しかし、萎縮性腟炎も更年期障害と同じように、ホルモン補充療法などの治療法を使い、日常生活に支障が出ないよう症状を軽減することができます。痛みやかゆみが気になる方や性交痛のある方は、早めに婦人科で相談しましょう。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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