記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/11/11
記事監修医師
前田 裕斗 先生
毎月、決まってくるはずの生理が来なかったり、何度も来たりする。そんな生理不順は、女性に不安を抱かせてしまうものです。さらに、生理と排卵には密接な関係があり、妊娠を望む女性にはとても大きな問題です。
では、生理不順の人は本当に赤ちゃんを授かれないのでしょうか?今回は、生理不順と不妊の関係について解説します。
不妊症とは、日本産婦人科学会によると、以下のように定義されています。
妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの
一定期間の定義については、かつては2年間と定められていましたが、今では1年間と定められています。これは、生殖年齢にある健康な男女が避妊せずに性交を行った場合、約85%が1年以内に妊娠しており、欧米など海外の生殖医学会でも1年間と定義されているところが多いことによります。
残りの約15%が不妊症と定義されますが、不妊症にはさまざまな原因があります。卵管が詰まっていたり非常に狭くなっていたりして受精できない卵管因子、男性の精子の運動能力や受精能力に問題があって受精できない男性因子、卵子が育たないまたは成熟して排卵されないなどの排卵因子が不妊の3大原因とされています。
このうち、生理不順と関連があるのは排卵因子です。生理周期が起こるのは女性ホルモンの分泌量が周期的に変化するからですが、この女性ホルモンの周期的な変化によって、卵子が体内で成熟し、排卵が起こるのです。生理不順の人の場合、女性ホルモンの分泌が正常に行われていないことがあり、その場合は排卵が起こらない、もしくは起こりにくい状態なのです。
生理不順であることは、必ずしも不妊につながるとは限りません。生理不順でも赤ちゃんを授かっている人は少なくありません。生理が定期的に来るかどうかが重要なのではなく、排卵が起こっているかどうかが重要なのです。つまり、生理自体は定期的に来ないけれど、排卵は起こっていて、他には特に原因がないという場合は妊娠できることが多いのです。
生理周期は25〜38日が正常とされており、24日以内で短い場合は頻発月経、39日以上で長い場合は稀発月経と呼ばれます。頻発月経の場合、特に月に2回以上生理が起こる場合は排卵のない「無排卵月経」という状態であることがほとんどです。また、2回目の出血は生理ではなくホルモンバランスの乱れによる単なる出血であることが多いのです。
無排卵月経は、何らかの原因で排卵は起こらなかったが、生理は来ている状態です。無排卵月経は自覚症状がなく、通常の生理周期の人と同じように生理が起こるため、ほとんどの人は気づかずに過ごしています。
しかし、無排卵月経がずっと続いている場合、ほとんどが生理周期や日数、量などの生理不順を伴います。生理の日数は3〜7日が正常範囲で、8日以上の過長月経や、3日未満の過短月経である場合は注意が必要です。出血の量や痛みは単独では無排卵月経かどうかの判断をすることはできませんが、生理周期や日数の異常が伴っている場合は、一度婦人科で検査をしてもらうと良いでしょう。
それでは、無排卵月経について詳しく見ていきましょう。
生理周期と排卵の周期は、通常一致しています。脳の下垂体から分泌される女性ホルモンの司令により、卵巣が卵子を育て、成熟すると排卵が起こります。この卵子が受精して着床すれば妊娠となりますが、受精せず着床が起こらなかった場合、妊娠に備えて準備を進めていた子宮の内膜が剥がれ落ち、生理が起こります。
ですから、通常は生理が周期的に来ていれば排卵が起こっていると考えられるのですが、何らかの原因で排卵が起こっていないのに生理が起こる場合があります。これを無排卵月経と言います。無排卵月経は自覚症状がなく、重篤な疾患にもつながらないため、日常生活で気づくことはまずありませんし、放置していても日常生活に支障をきたすこともありません。しかし、妊娠を望む場合、無排卵では妊娠できないため、治療が必要となります。
自分でできる検査としては、基礎体温のチェックがあります。排卵を伴う正常な生理周期の場合、基礎体温は排卵日前後を境に低温期と高温期の二相を示します。これは、排卵したあとの卵胞からプロゲステロンというホルモンが分泌されるためです。プロゲステロンは子宮の内膜を整え、着床を促すためのホルモンですが、同時に体温を上げる効果もあります。そのため、基礎体温が低温期のままでずっと変化がない場合、卵胞から卵子が排卵されなかったと考えることができるのです。
また、病院で検査をする方法もあります。病院では、ホルモン検査とエコー検査の両方を行います。ホルモン検査では、エストロゲンやプロゲステロン、それらの分泌を促すFSHやLHの濃度を測り、排卵や卵胞の成熟に必要なホルモンがきちんと分泌されているかどうか調べます。また、エコー検査では卵胞が育っているか、また、卵胞が破裂したかどうかを超音波画像によって視覚的に確認します。
無排卵月経の原因は、主に過度なストレスや過度なダイエット、不規則な生活、喫煙、抗うつ剤の服薬などによるホルモンバランスの乱れです。また、アスリートや厳しい部活動など、激しいスポーツを日常的にしている人が無排卵月経になることもあります。
特に、間違ったダイエットによって極端に体重が減ると無排卵月経だけでなく、無月経にもつながります。体重減少が原因の無月経は、生理が回復するまでに数年の時間がかかる場合があり、骨粗鬆症や子宮体癌など、重篤な疾患を引き起こす可能性もあります。ダイエットをする際にはくれぐれも無理な食事制限などをせず、健康を損なわないようにしましょう。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という疾患が原因となっていることもあります。多嚢胞性卵巣症候群とは、卵巣の中に未熟な卵胞が排卵せずに溜まってしまう排卵障害で、卵巣機能の異常の一つです。多嚢胞性卵巣症候群になると男性ホルモンが増加するため、無排卵月経のほか、多毛やニキビ、声が低くなる、太りやすくなったなどの症状が出て気づくこともあります。
無排卵月経は、放置しておいたからといって重篤な疾患につながることや、日常生活に支障が出ることはありません。しかし、妊娠を望む場合には毎月の生理周期という妊娠のチャンスをみすみす逃し続けることになりますから、無排卵月経は大きな問題です。
無排卵月経で妊娠を望む場合、生活習慣の改善とともに、排卵誘発剤で排卵を起こすことで妊娠の確率を高めます。また、排卵のタイミングを知るために定期的に婦人科に通院する必要があります。自然に排卵を起こしたい場合には漢方による体質改善なども視野に入れて治療することもあります。
無排卵月経は、生活習慣が原因で起こることが多いため、妊娠を希望する人もしない人も、まずは生活指導から始めます。具体的には、以下のようなことに気をつけて生活してもらいます。
すぐに妊娠を希望しない人であれば、ピルなどのホルモン剤でまずは定期的に生理のリズムを整える、漢方薬で長期的に体質改善をする、または生活に支障がなく症状も重篤化していないため、治療はせずに様子を見る、などの方法が取られます。
すぐに妊娠を希望する人であれば、排卵誘発剤を使用し、排卵を促す治療法がとられます。特に、単にホルモンの分泌がうまくいっていないだけの視床下部や下垂体の一時的な機能低下の人であれば、治療によって十分赤ちゃんを授かれる可能性があります。卵巣が機能低下していてFSHやLHといった卵を育てるホルモンに反応しにくいという場合は、排卵誘発剤にも反応しにくいため治療は難しくなります。
体重の増減や激しいスポーツによる場合、卵巣機能低下の程度によって治療の難しさが変わるため、個人差があります。また、これは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合でも同じで、症状の程度によって治療の難しさも変わります。
生理不順でも、排卵がきちんと起こっていれば妊娠できる可能性はあり、実際に問題なく妊娠している人もいます。しかし、無排卵月経による生理不順の場合は妊娠に必要な卵子が排卵されていないため、妊娠にはつながりません。また、無排卵月経による出血と思っていたら別の病気が隠れていたということもありますから、生理不順と甘く見ずに一度婦人科で検査してもらいましょう。
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