記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/10/30
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
十二指腸で起こる疾患の一つに、十二指腸乳頭部がんという疾患があります。十二指腸の中ほどにある乳頭部という部分に発症する悪性腫瘍で、初期にはほとんど無症状のため、気づかれにくい病変です。
十二指腸乳頭部がんの症状はどう出てくるのでしょうか?また、治療はどのように行われるのでしょうか?
十二指腸乳頭部とは、十二指腸の中心付近にある胆管と膵管の合流する部分で、発見者の名前を取ってファーター乳頭と呼ばれることもあります。胆管は肝臓で作られた胆汁が分泌されてくる管で、膵管は膵臓で作られた膵液が分泌されてくる管です。
胆汁と膵液はどちらも消化には欠かせない消化液であり、食べ物が胃から十二指腸へと送られてくると、セクレチンやコレシストキニンといったホルモンの働きによって十二指腸乳頭部から押し出されるように分泌され、さらに消化を進めます。十二指腸乳頭部は普段は閉じていますが、胆汁や膵液が押し出されると開いて消化液を分泌するようになっています。
十二指腸乳頭部がんとは、この十二指腸乳頭部にできる悪性腫瘍のことです。乳頭部にできる腫瘍は良性と悪性の2種類がありますが、良性腫瘍はがんになる前の前がん病変という状態であると考えられ、放置しておくとそのまま悪性腫瘍であるがんに進行してしまうと考えられています。また、このときの良性腫瘍を悪性腫瘍と区別して十二指腸乳頭部腺腫と呼ぶこともあります。
十二指腸乳頭部腫瘍は、良性・悪性に関わらずほとんどが無症状で経過します。よって、検診の胃カメラなどで初めて発見されるケースがほとんどです。検診の胃カメラでは食道から胃、十二指腸までの上部消化管と呼ばれる部分を広く観察しますので、定期的に検診を行っていれば早期発見が可能です。
発見されずに進行してしまい、腫瘍が大きくなってくると、胆汁や膵液の出口を塞いでしまうことがあります。胆汁や膵液が分泌されなくなると消化・吸収や代謝に影響を及ぼすため、黄疸・発熱・腹痛などの症状が出てきます。黄疸は胆汁の流れが滞り、赤血球を分解して発生したビリルビンという黄色い色素が血中に増えることで起こる症状で、発熱・腹痛は膵液の流れが滞ることで膵炎に発展して起こる症状です。
また、進行がんとなって胆道を塞ぐようになった場合、採血の際に肝機能異常として発見されることもあります。胆汁うっ滞という症状で、分泌されるはずだった胆汁が分泌されずに肝臓内でいっぱいになってしまい、γ-GTPやALP、ビリルビンといった酵素が血中に漏れ出してしまった状態です。
腫瘍が崩れて潰瘍の状態になった場合、消化管出血や貧血といった症状が発生することもあります。
十二指腸乳頭部がんまたは十二指腸乳頭部腺腫が見つかった場合、治療の第一選択は手術療法です。
進行状態 | 術式 | 概要 |
---|---|---|
前癌病変
(腺腫=ポリープの状態) |
内視鏡下乳頭切除術 | 前癌病変である十二指腸乳頭部腺腫の状態、または早期がんの状態で発見された場合、内視鏡下に乳頭切除術を施工することがある |
初期のがん | 小さな開腹創による手術 | 初期のがんの場合、または体の状態により大きな手術が困難な場合には開腹の部位をごく小さくし、十二指腸乳頭部のみの切除術を施工する |
進行中のがん | 膵頭十二指腸切除術 | がんの状態がある程度進行していると、乳頭部の切除だけでは根治できないため、十二指腸・膵臓の頭部・下部胆管・胆嚢を切除する |
前癌病変、すなわち十二指腸乳頭部腺腫でまたポリープの状態であれば、内視鏡下で乳頭部のみを切除する術式が施工されることもあります。しかし、この術式は再発率が高く、標準的治療として確立された治療法ではありません。
ごく初期のがんで病変がまだ小さい場合は、開腹も非常に小さく済むことがあります。体の状態により、大きく開腹したり臓器の多くを切除したりできない場合にも、開腹を小さくしできるだけ患者さんの体に負担をかけないような術式が取られます。
ある程度進行したがんの場合は、膵頭十二指腸切除術という手術を行います。十二指腸から膵臓の一部(頭部)、胆管の下部、胆嚢を切除し、病変部位を切除して取り除く手術です。胆管の残った部分は小腸に、膵臓の残った部分は小腸や胃などに吻合し、術後は消化液の分泌がまた行われるように手術を行います。
いずれの場合も手術は数週間の入院が必要であり、患者さんの体に大きな負担をかけることになりますが、手術でがんの病変部位を取り除くことができれば、根治の可能性が高くなります。
がんの進行度や患者さんの体の状態により、手術が行えないと判断された場合は、抗がん剤による全身化学療法が取られます。特に、遠隔転移などで全身に広がっていて切除の意味がない場合などに適応されます。ゲムシタビン・S1などの抗がん剤が使われることが多いです。
抗がん剤治療は治療の第一選択として手術が行えない場合に行う治療法であり、術後に補助的な治療として行う抗がん剤治療は、現在は標準的な治療として確立されていません。
十二指腸乳頭部がんのほとんどは、初期段階では無症状です。そのため、検査以外で発見されることはほとんどなく、無自覚に進行してしまうことが多く、進行してしまった後は大がかりな手術が必要になってしまいます。
十二指腸乳頭部がんにかかっても早期に気づくことができるよう、定期的に検診を受けましょう。
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