記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/12/10
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
病気休暇制度のない会社員の人にとっては、「インフルエンザになったから、有休を使って休む」「有休がないので、収入を減らさないために出社する」「仕事が溜まっているから頑張って出社する」というのは、当たり前の話かもしれません。
ただ、そんな方々は健康面でも金銭面でもかなりソンをしている可能性が。
急な高熱、全身の倦怠感――まさかと思って病院に行くと、「インフルエンザですね」との診断が…。そして医師から告げられるのが、5日程度の出勤停止の勧告です。あるいは会社から「出勤しないように」といわれることもあるでしょう。
このとき、「しばらく仕事に行かなくていいなんて幸せ…!」と思うのもつかの間、じわじわ気になってくるのが給料面。1週間近くの欠勤となると減給額も多く、生活が厳しくなってしまいます。なので仕方なく有給休暇を使ったり、有休のない人や業務上休めない人は出勤したりすることもあるでしょう。
そんな方々にぜひ知っていただきたいのが、「傷病手当金」という制度。この制度を利用すれば貴重な有休をキープしつつ、欠勤中もお金をもらえる可能性があります。
傷病手当金とは、病気やケガで会社を休んでいる間、標準報酬日額(※)の3分の2が生活保障として支給される制度です。会社勤めの人が加入する健康保険組合や協会けんぽなどに加入している人であれば、支給対象となります(個人事業主などの国民健康保険加入者には、原則的に支給されません)。加入中の健康保険組合に申し込めば、簡単に申請書をもらうことが可能です。
※標準報酬日額:標準報酬月額の30分の1に相当する額。標準報酬月額が30万円なら、300,000(円)÷30(日)=10,000円が標準報酬日額です。
つまり傷病手当金としては、10,000円×3分の2=6,667円(10円未満は四捨五入)が1日ごとに支払われるという計算になります。 |
こうして見ると、地味に大きな額ですよね。ただし手当金をもらうには、下記すべての条件を満たす必要があります。
支給条件の大前提が、「病気やケガの療養のための休みである」こと。支給対象となるのは“業務外”の理由での病気やケガで、“業務上”の病気やケガの場合は「労災保険」の対象になります。また、美容整形など病気やケガではないものは支給の対象外です。
「病気やケガの影響で労務不能である」ことも、支給条件のひとつです。労務不能かの判定については、医師など療養担当者からの意見書(傷病手当金の申請書類の1つ)が必要になります。
重要なのが、「連続して休んだか」と「休んだ日数」。「病気やケガによって3日間連続で休んだことがあり(※)、その3日間も含めて4日以上仕事に就けなかった場合」が支給対象となります。
※「待機3日間」と呼ばれ、“3日間体を動かすことができなかった”という状況を証明するのに必要な条件。
「1日おきに出勤していた」「2日間は自宅療養していたが、その翌日出勤したら体調を崩したので次の日から休んだ」という場合には、待機3日間は成立せず、手当金がもらえなくなります。 なお、待機3日間は傷病手当金の支給期間に含まれず、4日目以降から支給開始となる点に注意が必要です。 |
待機3日間には有休や土日祝日などの公休日が含まれていても構いませんが、その休みの日に病気やケガが始まったことを医療機関から確実に証明してもらえるよう、即日受診をするのもポイントです。
保険組合によって規定は異なりますが、初診日(労務不能の診断が下りた日)を待機3日間のスタート日の基準とする組合もあるからです。その場合、たとえ土曜に発症していても、翌週の月曜まで初診を待てば「待機スタート日は月曜から」と見なされ、その分手当金の給付開始日が後ろ倒しになり、給付期間が短くなってしまう恐れが…。
ただし診察が遅れたとしても、「初診日以前の期間も労務不能だった」と医師が判断し意見書に記入した場合には、初診日以前の日にちが待機スタート日として認められる可能性も。保険組合や医療機関によって対応が異なるので、個別に尋ねてみてください。
「病気やケガで休んでいた期間、給料をもらっていない」という点も、重要な支給条件のひとつです。つまり、有給休暇を当てた人は支給の対象外で(傷病手当金はあくまで生活保障のためのものなので)、無給の欠勤扱いにしている必要があります。
ただし、待機3日の間は有休を使っても構いません。4日目以降が無給であれば、給付の対象となります。
医師からの意見書が必要ですが、インフルエンザではないただの風邪でも、上記の条件を満たせば傷病手当金がもらえます。風邪が長引いてしまった場合にも、申請を検討してみましょう。
まとめると、ポイントは以下のとおりです。
インフルエンザの場合は、発症から12時間以上経過しないと正確な検査結果が得られないというデメリットがありますが、①は労務不能のスタート日を確定させるために重要なことです。
また②は、「待機3日間を含む4日以上の休み」の条件を満たすために必要、というだけではありません。病み上がりで出勤してしまうと支給条件に該当しないばかりか、症状が悪化してしまったり、職場や周囲の人に感染を広げてしまう恐れがあるからです。
そして③は有休がない人はもちろん、「プライベートのために有休はとっておきたい」という人におすすめということです。傷病手当金は申請が通れば支給されますが、日額の3分の2と収入は減ってしまうので、100%の支給額が欲しい場合は有休を使いましょう。
毎月給料から天引きされる健康保険料。「医療費が3割負担になった」という恩恵しか得られていない人もかなり多いですが、これは非常に勿体ないことです。
インフルエンザになったり風邪が長引いたりしたら、焦って職場復帰するのはやめて家で体を休めつつ、保険組合から得られる「傷病手当金」を申請しましょう。それが自分の健康を守ることにも、生活を維持することにも、周囲に感染を広げないことにもつながります。
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