ピロリ菌を除菌すれば、もう胃がんの心配はしなくていい?

2019/2/3

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

ピロリ菌は、胃がんや胃・十二指腸潰瘍などの疾患に密接な関係があることが知られている細菌です。ピロリ菌を除菌すると、胃がんを発症するリスクを下げることができるといわれていますが、本当でしょうか?また、ピロリ菌の除菌が終わった後は、もう胃がんの心配はないのでしょうか?

ピロリ菌は胃がんのリスクを高めるって本当?

胃がんとピロリ菌には密接な関係があるといわれています1994年に、WHO(世界保健機関)はピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定しています。この認定は、タバコやアスベストと同等の分類です。ピロリ菌の検査が陽性の人に胃がんが発生する率は、1年間で平均0.5%と考えられています。

年間では0.5%と少ない数ですが、年々累積していくと、一生の累計でピロリ菌陽性の人の約10%が胃がんを発症することになります。日本では、50歳以上の人の8割がピロリ菌保有者だといわれていますので、この年齡以上の人では12人に1人が生涯のうちで胃がんを発症する計算になります。実際に、全国では年間10数万人の人が胃がんにかかっています。

長期間にわたってピロリ菌に感染し続けていると、胃の粘膜がうすくやせてしまう「萎縮」という状態が進行してしまいます。そして粘膜の一部は腸上皮化生となり、胃がんを引き起こしやすい状態を作り出します。胃・十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象とした日本の調査では、10年間が経過して胃がんを発症するのは、ピロリ菌に感染していない人で0%、ピロリ菌に感染している人で2.9%です

胃がんを防ぐために、ピロリ菌を除菌しよう!

ピロリ菌を除菌すれば、新しい胃がんが発生するリスクを減らすことができる可能性があります。例えば、早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比べて3年以内の新しい胃がんの発生率が約3分の1に減少したという報告もあります。そこで、WHOの国際がん研究機関は、ピロリ菌を除菌することで胃がん予防効果が見込めることを受け、各国ごとにその戦略を立てるよう推奨しています。

ピロリ菌の検査から除菌、再検査までの流れは以下のようになっています。

  1. 感染検査(内視鏡による・よらないを含め6種類)をいくつか組み合わせて行う
  2. 感染が判明した後、3種類の薬を利用して7日間、除菌療法を行う
  3. 薬の服用が終了した後、4週間後に再検査を行って除菌できたかどうかを確認する

感染検査は、内視鏡によるものとよらないものの合計6種類がありますが、日本で主流なのは内視鏡検査です。検査でピロリ菌に感染していることがわかった場合、2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌を抑える薬の3種類を使い、1日2回7日間服用して除菌治療を行います。副作用として、下痢や貧血・口内炎などが発生する場合がありますので、副作用が辛い場合は医師と相談しましょう。

薬の服用が終了したら、薬剤の効果が消えるのを待って4週間後に除菌が完了したかどうかの確認を行います。除菌の成功率は80〜90%といわれていますが、除菌が成功すると胃粘膜が健康になり、胃酸の分泌が一時的に増えるため逆流性食道炎が10人に1人程度の割合で見られるようになります。ただし、この症状は生涯続くものではなく、その多くは軽症かつ一時的なものであることがわかってきています。

ですから、胃・十二指腸潰瘍の患者さんは除菌後の副作用を気にしすぎず、除菌治療を受けましょう。また、胃の粘膜が健康になることで食欲が増すこともありますので、食べ過ぎによる糖尿病や高脂血症などの生活習慣病には気をつけましょう。

除菌費用は約3万円程度ですが、医療機関によって異なりますので、検査を行う医療機関に確認しましょう。また、疾患によっては保険適用となる場合もありますが、基本的には胃がんの予防のみを目的とした除菌の場合、保険の適用とはなりませんので注意しましょう。これは、日本人のピロリ菌感染者があまりにも多く、50歳以上の人では80%が感染しているからです。

ピロリ菌は経口感染によって感染すると考えられていて、実際に衛生状態が悪いほど感染の確率が上がることがわかっています。ですから、衛生状態の悪い時代に育った50代以上の人で感染率が高くなっていると考えられるのです。10代や20代などの若い世代では衛生状態が良いため、感染率は10%程度となっています。

除菌したら、もう胃がんの心配はしなくていい?

ピロリ菌の除菌処置を行ったとしても、胃がんの心配が完全に消えるとは言い切れません。まず、ピロリ菌感染歴のある人が胃がんになる確率は未感染者の約150倍といわれています。また、感染歴のある人がピロリ菌を除去したとしても、胃がん発生のリスクは約3分の1と減少するものの残ります。減少はしても未感染者の約50倍は発症リスクがあるわけですから、十分に注意が必要です

除菌を行うと、その後の萎縮性変化の進行は抑制できますが、除菌までの萎縮によって蓄積された、胃がん発生リスクは残るとされています。除菌までに蓄積された胃粘膜の萎縮が強いほど、その後のがん発生率が高いのです。萎縮が軽度の人ではがん発生率は年間0.04%、萎縮が中等度の人では0.21%、萎縮が高度の人では0.61%といわれています

除菌後に胃がんが発生する場合、胃粘膜の表面に特殊な変化を起こすことが多く、内視鏡的に診断が難しい病変が約40%程度存在します。また、胃がんには成長のスピードが早いものから遅いものまであり、早期発見と治療を行うためにも、除菌後も1年に1回は胃カメラ検査が必要です

おわりに:ピロリ菌を除菌しても、定期的な胃がんの検査は必要

ピロリ菌に感染した後、除菌を行うことで胃がんの発生リスクを約3分の1にまで下げることができます。しかし、除菌後もリスクは完全に消えるわけではありません。特に、未感染者と比較すると50倍というリスクが残ります。

ピロリ菌除去は新たな胃の萎縮を防ぐことはできますが、除菌までに蓄積された萎縮によって胃がんの発生リスクが残るのです。除菌後も定期的な検査を行い、胃がんを早期発見することが重要です。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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