ピロリ菌の二次除菌が必要になるのはどんなとき?

2019/1/12

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

ピロリ菌は自然に除菌されることがほぼないため、除菌するには治療を行います。多くの人では一次除菌という最初に行う治療で除菌に成功しますが、3割程度の人では一次除菌でピロリ菌を除菌しきれず、さらなる治療が必要になることがあります。

ピロリ菌の除菌はどのように行うのでしょうか?また、一次除菌の成功率を上げるためには、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか?

ピロリ菌ってどんな細菌?

ピロリ菌とは、胃の粘膜に住みついているらせん形の細菌です。胃の中は、食物の消化や腐敗を防ぐため、胃液に含まれる胃酸によって強い酸性(pH1~2)の環境になっています。そのため、普通の細菌は住みつくことができませんが、ピロリ菌は酵素の働きによって自分の周囲だけ胃酸を中和することができるので、強い酸性の環境でも生きていけるのです。

胃酸を中和してくれるのは、「ウレアーゼ」という酵素の働きによるものです。ウレアーゼは胃の中にある尿素を分解し、アンモニアを作り出します。アンモニアはアルカリ性ですから、胃酸を中和し、ピロリ菌が活動するのに最適なpHである6~7の環境を作り出すことができるのです。

ピロリ菌は胃炎や胃・十二指腸潰瘍などの疾患に深く関わっていて、感染経路は幼児期の経口感染であると考えられています。一度感染すると、たいていの場合は除菌しない限り胃の中に生息し続けます。しかし、小児期には炎症を起こしたとしても、自覚症状が出るほど進行することはほとんどありません。

ピロリ菌を除菌するには?

ピロリ菌に感染していることがわかった場合、投薬による除菌治療を行います。これを一次除菌と言い、2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌抑制剤の3種類の薬剤を1日2回、7日間服用します。胃酸分泌抑制剤は、抗生物質が働きやすいように胃の環境を整えるために服用します。抗生物質はアモキシシリンとクラリスロマイシンという薬剤を使うことが多く、約70%の除菌成功率が報告されています

除菌成功率は、かつては約80~90%でしたが、近年ではクラリスロマイシンに対する薬剤耐性菌が増えていて、除菌成功率は低下していました。しかし、2015年に発売されたボノプラザンという胃酸分泌抑制剤を使うと、除菌成功率が約90%に上昇したという報告もあります。

除菌治療が成功したかどうかは、服用が終わった後、4週間以上経過してから検査を行って判定します。これは、4週間以内ではまだ薬剤の効果が残っているため、薬剤の静菌効果で間違って除菌されたと判定されてしまう可能性があるからです。4週間以上経過した後に検査を行い、除菌に失敗したと判断された場合、抗生物質を変えて再度除菌治療を行う二次除菌を行います。

除菌に成功した場合、ピロリ菌が消滅した分だけ胃酸の分泌機能が回復するため、一時的に胃酸の分泌量が増え、副作用として胸焼けなどの逆流性食道炎の症状が出ることがあります。しかし、この症状は一時的なもので、ずっと続くものではないため、副作用をあまり気にしすぎなくても大丈夫です。

除菌に失敗してた…。これからどうなる?

一次除菌でピロリ菌を除菌できなかった場合、二次除菌として2種類の抗生物質のうち、1種類を変えて再度7日間薬を服用する治療を行います。多くはクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更します。一次除菌での除菌成功率は約70%でしたが、二次除菌まで行うと成功率は約90~95%にまで上昇すると言われています。

ほとんどの人は二次除菌までで除菌が成功するため、保険が適用となるのは二次除菌までです。万が一除菌しきれず、二次除菌後にもピロリ菌が残っている場合は三次除菌を行うこともありますが、三次除菌は自費診療となるため、費用が高額になることがあります。費用は医療機関によって多少異なりますが、内服薬と検査で約20,000円程度がかかります。

三次除菌に使われる薬剤は、一次除菌・二次除菌のいずれとも抗生物質の種類を変えて行う必要がありますので、シタフロキサシンという薬剤を使用することがあります。この抗生物質によって三次除菌を行うと、約99%の人で除菌が成功すると言われています。

ピロリ菌の除菌を成功させるポイントは?

ピロリ菌の除菌を成功させるためには、そもそも一次除菌や二次除菌の際に薬剤を正しく服用し、自己判断で中止したり飲み忘れたりしないように気をつけることが必要です。薬を中止したり飲み忘れたりして中途半端に治療が止まってしまうと、薬剤に耐性を持った菌が現れてしまうことがあります。薬剤耐性菌が現れると、その後の治療も困難になってしまいます。

そこで、まずは7日間薬を飲み忘れないように気をつけましょう。以下のような工夫を行うことで、薬の飲み忘れを防ぐのがおすすめです。

  • カレンダーや記録表に薬を飲んだらチェックする
  • チェックしたカレンダーや記録表を目につくところに置いておく
  • 携帯・スマートフォンのアプリやカレンダー、アラーム機能を使う
  • 高齢の患者さんには家族が声かけをする

また、除菌療法中には食欲不振や下痢・味覚異常などの副作用が起こることがあります。これらは異常なことではなく、薬剤の服用が終われば自然と消えることがほとんどです。しかし、あまりにも副作用がつらくて我慢できない場合は、自己判断で薬を中止するのではなく、医師に相談しましょう。そして、二次除菌療法をしている間は、アルコールの摂取を避けましょう。

おわりに:ピロリ菌を一次除菌で除菌しきれないと、二次除菌が必要になることも

ピロリ菌を除菌するためには投薬治療を行います。これを一次除菌と言い、約70%の人では一次除菌で除菌が成功しますが、除菌しきれなかった場合は二次除菌が必要となることもあります。

一次除菌に失敗するのは、薬剤の効果が不十分であるだけとは限らず、薬の飲み忘れや自己判断で中止してしまうことが原因の場合もあります。効果が得られないだけでなく、その後の治療も効かなくなることがありますので、絶対にやめましょう。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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