記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/2/13
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
大動脈解離とは、心臓から全身へ血液を送る大動脈で起こる血管の病気です。全身へ血液を送る最も重要な血管である大動脈で起こるため、場合によっては全身に重い症状が出ることもあります。
大動脈解離になったら、どんな症状が出るのでしょうか?また、どんな治療を行い、治療後はどのようなことに注意して生活すればいいのでしょうか?
大動脈解離とは、血管の内側の膜が何らかの原因で裂けてしまった結果、そこから血液が血管の壁の内側に入り込み、内膜と中膜が裂ける(解離する)ことです。全身に血液を送り出す最初の血管である大動脈は、外膜・中膜・内膜の3層からなる厚く太い血管で、十分に強く弾力もあります。しかし、この最も内側の内膜に裂け目ができた場合、ひとつ外側にある中膜に血液が入り込んでしまいます。
中膜に流れ込んだ血液は、新たな血液の流れ道(解離腔、または偽腔と呼ばれる)を作ります。その解離腔によって、血管が膨らんだ状態を解離性大動脈瘤といいます。解離性大動脈瘤の外側には外膜の一枚しかないため、血管が破裂してしまうリスクが非常に高い状態です。
大動脈乖離が起こる原因ははっきりとはわかっていませんが、一説には動脈硬化や高血圧に関係しているのではないかと考えられています。また、マルファン症候群など、先天的に大動脈の中膜が弱いことによる疾患と関連していることもわかっています。
大動脈解離によって起こる症状には、以下のようなものがあります。
裂けた場所によっては、大動脈閉鎖不全や脳虚血症状を引き起こすことがあり、このため意識消失やショック状態に陥る場合もあります。また、新たな血液の流れ道を通じて、血液が薄くなった外膜から染み出したり破裂したりすることもあります。さらに、主要な臓器へと枝分かれしていった血管にまで裂け目が広がってしまうと、臓器に血液が流れなくなり、血流障害や臓器の虚血壊死につながり、最悪の場合は死に至ることもあります。
大動脈解離の治療は、解離の起こった部位や症状によって大きく異なります。上行大動脈という、左心室から出た直後の上向きの血管に起こった場合(スタンフォードA型と呼ばれます)は、ほとんどの場合で開胸し、緊急手術を行います。上行大動脈に解離がなく、それより先の背中側の下行大動脈などに解離が起こった場合はスタンフォードB型と呼ばれ、血圧を下げたり痛みを和らげたりして治療します。
A型の場合は、解離を発症して48時間以内に破裂を起こしやすいため、破れやすくなった上行大動脈を人工血管に取り換えるための緊急手術が必要です。B型はA型に比べるとすぐ破裂しない場合が多く、たいていは緊急手術は必要としないのですが、破裂の兆候や血流が悪くなることがあれば、緊急手術を行うこともあります。
また、最近では新しい治療法として、ステントグラフト内挿術による治療を行うこともあります。しかし、この手術を施工できる施設は限られていますので、ステントグラフト内挿術による治療を行いたい場合は医師によく相談しましょう。
大動脈解離は、B型の場合でもそのまま放置していると破裂に至ることも少なくない危険な疾患です。しかし、今までの治療ではいよいよ破裂しそうになるまでは薬で血圧を下げたり、痛みを緩和したりする薬物療法で、破裂しそうになってから心臓手術の3~5倍にも及ぶリスクがあるとされる危険な手術を行っていました。
そこで最近、カテーテルを用いた体への負担が少ない治療法が導入されました。これを「ステントグラフト内挿術」と言い、大動脈解離の起こった部分(エントリー=裂け目)にカテーテルを使ってステントグラフトを入れて塞ぎ、破裂したり瘤になったりするのを防ぐ治療法です。
ステントグラフトは、形状記憶合金でできた骨組みを人工血管で覆ったもので、細く畳んでカテーテル内にしまってあります。太ももの付け根を4~5cm小さく切り開き、そこからこのカテーテルを通してステントグラフトを目的の位置に持っていき、発症した部位で展開して留置します。内側から人工血管が広がり、裂け目を塞ぐことでそれ以上広がるのを防ぎ、瘤になるのを食い止めることができます。
ステントグラフト手術は局所麻酔のみで行える非常に侵襲性の低い治療ですが、緊急性の高いA型の治療には使えず、B型の治療にのみ適応できる手術ですので注意が必要です。
大動脈解離は、発症直後の急性期に緊急手術や薬物療法を行っていったん症状が落ち着いても、その後、大動脈がだんだん膨らんで瘤になることがあります。破裂のリスクが高まったり、裂け目がさらに広がって解離の症状が進むこともあり、急性期をうまく乗り越えた人でも約1/3がのちに追加で手術を行っています。このため、急性期の治療を終えて退院したあとでも、注意深く経過観察を行い、血圧の厳重な管理とともに継続的に治療をしていく必要があります。
また、継続的な治療と血圧管理を含め、定期的に外来を受診する必要があります。採血やレントゲン・心電図・エコーなどによって、病状が進行していないかどうかを検査します。CT検査では大動脈の形や大きさ、解離の程度を直接画像で観察することができるため、特に重要な検査です。手術直後の2年間は半年おき、その後は1年に1回の検査が推奨されています。また、日頃から血圧を測る習慣をつけておくと、急な変化にも気づきやすいためおすすめです。
生活の上では、以下のようなことに気をつけましょう。
いずれも血圧が上がったり、また血流が激しくなりすぎたりするのを防ぐためのものです。
大動脈解離は、とくにスタンフォードA型と呼ばれる上行大動脈で起こった場合に48時間以内の治療が重要とされています。それ以外で起こったスタンフォードB型の場合でも、できるだけ早く治療を行うことが大切です。
また、治療が終わっても裂け目の部分から瘤になったり、裂け目が広がったりすることもあります。そこで、定期的に検査を受け、病状が悪化していないかを確認しましょう。生活上でも、血圧が上がりすぎないよう注意して過ごしましょう。
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