食欲不振に効く漢方薬について、漢方医学的視点から解説!

2018/1/5 記事改定日: 2018/12/4
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

いまでは、医療機関で処方されることの多くなった漢方薬。今回の記事では、食欲不振に効果的な漢方薬について、漢方医学の観点にふれながら解説していきます。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

西洋医学の「食欲不振」の捉え方

食欲不振とは、食欲がすっかりなくなってしまう状態のことで、長期化した場合は心身に悪影響をもたらすことになります。突然発症するケースは極めて稀で、胃腸炎や夏バテになった時にあらわれるのが一般的です。具体的な症状としては、倦怠感・貧血・頭痛・めまい・吐き気・不眠症などが報告されています。

なお、一般的な医療機関で用いられている西洋医学では、食欲不振に対して症状を抑えるための対症療法と、根本的に解消するための生活習慣の改善の2本柱により治療を進めます。この内の対症療法では、胃酸の分泌を調整する「ヒスタミンH₂受容体拮抗薬」などの胃酸分泌薬の投与、不安が強い潰瘍型の場合は抗うつ薬の投与が行われます。

漢方医学の視点から見た「食欲不振」とは?

古代中国にルーツを持つ漢方医学は、さまざまな病気や不調に関係しているケースが多いということから胃腸の状態を特に重視しています。このために、食欲不振に関しては速やかに治療しなくてはならないという考えに基づき、症状に合わせて漢方薬が投与されます。

なお、この際に指標として用いられるのが、「虚証」と「実証」という観点です。虚証は本来備わっている生命力が弱くなって身体の機能が低下した状態のことで、実証は有害物質によって身体の機能が阻害されている状態のことです。

ちなみに、食欲不振の場合は虚証に該当するケースが大部分で、胃に余分な水が溜まる「胃内停水」という状態となっているととらえます。これにより、胃の機能が低下していることが食欲不振の直接的な原因と考えられています。

食欲不振には、どんな漢方薬が効果的なの?

生活の乱れが原因で発症する一時的な食欲不振に対しては、胃の血行を促進したり消化機能を改善する漢方薬、特に薬用人参を含有している人参湯類(にんじんとうるい)のものが用いられています。これは、食欲不振の人だけではなく元々虚弱体質で食が細いという人にも効果を発揮します。

なお、食欲不振に関して選択される漢方薬の中で最も多く基礎的・臨床的研究が行われているのは「六君子湯(りっくんしとう)」です。機能性胃腸症(FD: Functional Dyspepsia)に対して有効な貯留能・胃排出の促進作用があり、さらに食欲を促進する消化管ホルモンの分泌を活性化すると考えられています。このために、六君子湯はFD由来の食欲不振の選択肢の有力な一つとなることが期待されています。

更年期と食欲不振との関係性

更年期は、加齢によって卵巣の機能が徐々に低下し閉経を迎える前後5年間の期間のことです。卵巣の機能が低下することで、女性ホルモンの分泌量が低下することで、閉経だけでなく自律神経バランスの乱れによる動悸や突然の発汗、めまいなどの身体症状や抑うつ気分など精神的な変調を来たすことがあります。

とくに自律神経の乱れはさまざまな不調を引き起こしやすく、胃腸の不調もその一つです。胃や腸などの消化管の運動は自律神経によって支配されており、交感神経が優位に働く場合は消化管運動が抑制され、副交感神経が優位に働く場合は消化管運動が促進されます。このバランスが乱れることで、食後にも交感神経が過度に働いて消化不良を引き起こしたり、空腹時に副交感神経が働くことで胃酸の過剰分泌による胃痛などの症状を引き起こすことがあるのです。

更年期の食欲不振のための漢方薬

更年期の食欲不振に効果が期待できる漢方薬には、以下のようなものが挙げられます。

  • 六君子湯
  • 半夏瀉心湯
  • 平胃散
  • 補中益気湯

漢方薬はドラッグストアなどで購入できるため、更年期障害による食欲不振に悩んでいる場合はこれらの漢方薬を試してみるのもおすすめです。しかし、効果には個人差があり、中には更年期による不調ではなく胃や腸に何らかの病気が潜んでいることもあります。漢方薬によるセルフケアを行っても食欲不振が改善しない場合には、婦人科や内科を受診して検査・治療を受けるようにしましょう。

漢方薬を使用する際の注意点

「漢方薬は副作用がない」というイメージが持たれがちですが、実はこれは正確ではありません。実際のところは、副作用を出さないように様々な特徴を持つ生薬を組み合わせているというだけで、用量・用法を守らなかったり、その人の体質に合わないような場合は強い症状に見舞われることも起こり得ます。

このために、漢方薬では併用することを禁止している成分の組み合わせが多数存在しており、守らなかった場合は重大な副作用を引き起こすケースも考えられます。一方、正しい組み合わせで体質にもあった漢方薬を服用した場合でも、一時的に症状が悪化する「瞑眩(めんげん)」という症状が出ることもあります。この瞑眩と副作用の違いは素人では判別できないので、漢方薬を服用する場合は医師の処方を守るということと共に、少しでも異常が生じた場合は服用を中止して相談するのが適当です。

おわりに:食欲不振は漢方薬でも対処可能。ただ、なるべく医師に相談してから使おう。

食欲不振の原因によっては、漢方薬が効果を発揮するケースも少なくありません。ただ、西洋薬と同じく、漢方薬でも用法・用量を守って服用することが非常に重要なので、服薬の際は自己判断せず、医師に必ず相談しましょう。

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