記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/9/18
記事監修医師
前田 裕斗 先生
胚移植という言葉は、不妊治療を調べたことがあれば知っている人は多いでしょう。卵子と精子は、受精して一つの受精卵になると胚と呼ばれます。この胚をある程度育ててから子宮に戻すのが胚移植です。
では、胚移植は具体的にどのような人に対して行われるのでしょうか?また、胚移植の流れや成功率についても解説します。
体外受精とは、正式にはIVF-ETという治療法で、体外受精から胚移植までの一連の流れを含みます。卵子と精子を採取し、体外で受精・培養し、ある程度まで育った時点で女性の子宮内に戻す治療法です。
不妊治療のうち、体外受精の適応となるのは以下のような場合です。
受精の過程で何らかのトラブルがあって卵子と精子が出会うことができない(精子に運動能力がない、数が少ない、卵管が閉塞している)、もしくは出会ったとしても、受精できない(受精障害)、受精卵が着床するレベルまで育ちにくいなどの場合、体外で卵子と精子を受精させ、ある程度育ててから体内に戻す必要があります。
また、女性の年齢が比較的若く、自然妊娠が見込める場合には、まずタイミング法や人工授精にチャレンジし、数周期治療しても妊娠に至らない場合は体外受精へと進むのが一般的です。しかし、女性の年齢が40歳以上の場合は自然妊娠の確率が非常に低くなるため、タイミング法や人工授精は飛ばして初めから体外受精を勧めるところが多いです。
不妊治療で胚を移植するまでの流れを簡単に示すと以下のようになります。
それでは、それぞれの過程について詳しく見ていきましょう。
まず、診察の際に患者さんの同意を得て体外受精を行うことが決定した場合、月経周期に合わせて採卵の日程のスケジュールを立てます。採卵の前に調節卵巣刺激を行いますが、できるだけ患者さんの希望または体に合った刺激方法を選択し、それによって来院の日程を立てます。
調節卵巣刺激には、以下のような方法があります。
排卵誘発剤と呼ばれる卵子を育てる薬と、排卵を抑える薬、そして希望する時期に排卵を促す薬を組み合わせて使い、患者さんにもっとも負担にならず、かつ高い妊娠率を期待できる治療法を提案し、採卵までのスケジュールを決定します。
調節卵巣刺激によって卵胞が育ってきたら、採卵の約2日前に採卵日を決定します。これは、排卵を促す薬を点鼻または注射した後、約36時間で卵子が成熟し、採卵に適した状態になるからです。
採卵当日は、女性は採卵、男性は採精を行い、調整後、体外受精が行われます。受精後、受精卵=胚は専用の培養液の中で、移植できる状態になるまで培養されます。初期胚といわれる細胞の数が数えられる状態であれば2〜3日目、胚盤胞と言われる着床直前の状態であれば5〜6日目に成長します。
いずれの場合も、採卵した周期にすぐ胚を子宮に戻さず、いったん凍結保存しておいて後日、融解して移植する場合もあります。特に、胚盤胞の場合は新鮮胚の周期で移植するよりも後日、凍結胚を融解して移植する方が妊娠率が高いというデータが出ていますので、凍結保存を勧めるところが多いです。
凍結胚、新鮮胚いずれの場合も、初期胚であれば採卵または排卵後2〜3日目、胚盤胞であれば5日目に移植します。初期胚よりも胚盤胞の方が妊娠率が高く、また、胚盤胞の中でも新鮮胚よりも凍結胚の移植の方が妊娠率が高いことから、凍結胚盤胞移植を選択することが多いです。
また、凍結技術などの向上で高い妊娠率を得ることができるようになったため、多胎を防ぐために戻す胚は1つのみとしているのが一般的です。しかし、凍結胚盤胞移植を何度か行っていても妊娠しない人や、高齢の人には1周期で初期胚と胚盤胞の2つを戻す2段階移植という胚移植を行うこともあります。
2段階移植は、胚を2つ戻すことから当然双胎以上の多胎のリスクが高まりますので、女性の年齢が若く妊孕性が高い場合や、初回の方には推奨されていません。
胚移植で妊娠する確率は、日本産婦人科学会が体外受精を行う施設から集めたデータから見ることができます。これらのデータは、日本産婦人科学会の登録施設であれば必ず調査に協力する義務があり、全国からデータが集まっていますので、平均的なデータということができるでしょう。
新鮮胚移植の妊娠率は、体外受精・顕微授精・Splitの場合で3つに分けられます。Splitとは、採卵個数が2個以上のときに、受精障害などで卵子が全て受精できないという状態を防ぐために、採卵した卵子を半分ずつに分け、1周期で体外受精と顕微授精を両方行う方法です。
データは日本産婦人科学会 登録・調査小委員会の2015年度のデータの報告に基づくものです。一見、体外受精よりも顕微授精の方が妊娠率が悪いように見えますが、もともと顕微授精は乏精子症や卵子の受精障害など、そもそも非常に条件が悪い人に対して行われることが多いため、妊娠率が低くなる一面はあると考えられます。
さて、これを見ると妊娠率は2割程度、生産=挙児率は1.5割程度であることがわかります。後の凍結胚移植のデータと比較すると、やはりやや低いことがわかります。
また、単一胚移植率とは2段階移植や、複数の胚を同時に移植するなど、1周期に2つ以上の胚を移植する治療法を行わず、初期胚または胚盤胞胚を1つのみ移植した人の率を表しています。これによると、約8割の人が胚を1つのみ移植していることがわかります。
全胚凍結とは、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の危険や子宮内膜が薄いなどの問題があり、新鮮胚周期での移植をキャンセルする場合や、もともと全ての胚で凍結胚盤胞移植を希望する場合に行われます。特に希望がなければ、全ての胚を胚盤胞まで培養し、胚盤胞まで育ったものだけを凍結保存します。
それでは、凍結胚移植の場合はどうなっているのでしょうか。
同じく、2015年度のデータに基づいています。これを見ると、新鮮胚移植と比較して妊娠率は3割程度、生産率は2割程度に上がっていることがわかります。また、こちらもやはり1つだけ胚を移植する人の率は8割程度と、非常に多くなっています。
胚移植が終わったら、どのようなことに気をつけて過ごせば良いのでしょうか。とはいえ、自然妊娠の場合はほとんどの人が妊娠したことに気づかずその後数ヶ月過ごしていることを考えても、それほど神経質になりすぎる必要はありません。具体的には、以下のようなことに気をつけて過ごすと良いでしょう。
総じて推奨されているのは、血流を良くするための工夫です。軽い散歩やストレッチなど、体に負担のない範囲で毎日少し運動すると、健康にも良くおすすめです。また、喫煙・受動喫煙を避ける必要があるのも血流のためで、タバコの煙は血流を著しく悪くしてしまうのです。そのため、ホルモンがうまく行き渡らず、着床できない、または妊娠を維持できないリスクが高くなってしまいます。
また、血流が悪くなる最も大きな要因はストレスです。不妊治療中は、通院のストレスや、治療の結果に対するストレスなど、とにかくストレスが溜まりやすくなっています。こまめにストレスを発散できる方法を、自分なりにたくさん見つけておきましょう。
アルコールや夫婦生活については、時期によって気をつける必要があります。アルコールが影響を及ぼすのは、胎児の神経系が発達してくる時期です。つまり、妊娠が成立したことがはっきりする臨床妊娠ごろからということになります。ですから、アルコールは妊娠が確定するまでの間であれば、少しなら飲んでも構いません。具体的には、1日1杯程度軽く飲むくらいです。
夫婦生活は、移植前日までは行って構いません。しかし、移植当日から臨床妊娠の確認できる5週目くらいまでは避けておくのが良いでしょう。特に、移植直後(当日〜数日後)に夫婦生活を行うと、妊娠率が下がるというデータも出ていますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。
胚移植は、体外受精の最終段階として行われます。そのため、胚移植の対象となるのはそもそも受精の機能に何らかのトラブルがあったり、女性の年齢が高齢であったりして、自然妊娠が望めない、あるいは望みにくい場合に適用されます。
また、胚移植の生産率は2〜3割と、自然妊娠とほぼ同等の生産率を挙げられていますが、より確率を上げるために気をつけられるポイントは、胚移植後に血流を悪くしないことです。不妊治療は、ストレスをためすぎないように行いましょう!
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