記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/9/24 記事改定日: 2020/9/21
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腎臓に慢性的な障害が起きた状態を「慢性腎不全(CKD)」といい、患者さんに合わせた食事療法が必要になります。食事療法では、蛋白、カリウム、リンの制限が必要です。今回は慢性腎不全の方が気をつけるべき「食事のポイント」をご紹介するので、治療のために役立ててください。
慢性腎不全を発症したら、「たんぱく質を制限する」、「エネルギーを十分に摂る」、「カリウム・リンを制限する」など食事に気をつける必要があります。この理由は、腎不全になると腎機能が低下してしまうので、腎臓への負担を減らす必要があるからです。
食事療法は、腎不全の初期段階から始めます。患者さんの年齢などによっても異なりますが、目安としては「クレアチンクリアランス(腎臓が老廃物を排泄する能力のこと)が70ml/分以下」になった頃から、主治医の指示に従って治療を開始します。
食事療法は、医師の指示に従って行うことが重要だといえます。なぜなら、その患者さんの年齢・病状などによって治療内容が異なり、自己判断で食事制限すると病状を悪化させる危険性があるからです。
また、必要に応じて管理栄養士に相談し、個別の食事メニューなども考える必要があります。正しい食事療法に取り組んで、大切な腎臓を守るようにしましょう。
慢性腎不全の食事療法では「蛋白制限」が必要になります。これは、腎不全になると腎臓の働きの一つである「不要なたんぱく質を排泄する機能」が弱ってしまうからです。
たんぱく質を過剰に摂取してしまうと、「尿毒症(血液内に老廃物が溜まってしまう状態)」を起こしたり、さらに腎機能を弱めたりする可能性もあります。そのため、患者さんの病期(ステージ)に応じた蛋白制限を行わなければなりません。
実際の食事制限では、病期ごとに摂取基準が設けられています。その具体的な摂取基準は以下のとおりです。
このときの体重には「標準体重」が使われます。標準体重とは統計学上もっとも病気を発症しにくいとされる体重のことで、「身長(m)×身長(m)×22」で計算できます。
蛋白制限を行うと、それに伴ってエネルギーの摂取量も少なくなります。しかし、エネルギーが不足している状態は良くないので、十分なエネルギー量を確保しなければなりません。
仮に摂取するエネルギー量が減ってしまうと、自分の筋肉をエネルギーとして使おうとします。結果として、たんぱく質を多く摂取しているような状態になってしまうのです。
慢性腎不全の場合は患者さんの年齢、性別、生活習慣などに応じて、基本的には「25~35kcal/kg 体重/日」の範囲内で摂取エネルギー量を決定します。ただし、体重や検査結果などの変化に伴って、定期的にエネルギー量の見直しを実施します。
実際の食事においては、「糖質」と「脂質」でエネルギーを確保することになります。しかし、米やパンなどを摂取するとたんぱく質も摂取してしまい、脂質で補おうとすると脂質異常症などの心配もでてきます。
蛋白制限が必要な場合も、主治医や管理栄養士に相談しながら取り組むことが大切です。そして、動物性たんぱく質(肉、魚、たまご類など)を多く摂ったり、必要に応じて栄養食品を使ったりしながら、上手にたんぱく質の摂取量をコントロールします。
たんぱく質は人体にとって重要な栄養素なので、不足しないようにしつつ蛋白制限を行うようにしましょう。
腎臓には「カリウムやリンなどを排泄する働き」があり、腎機能が弱っている場合は上手に排泄できなくなってしまいます。それにも関わらず摂取制限を行わないでいると、病気を引き起こすおそれがあります。
カリウムには細胞の浸透圧を調整する働きがあり、人体にとって重要な栄養素の1つとなっています。ただ、腎機能が落ちてしまうと十分にカリウムを排泄できず、「高カリウム血症」を引き起こしてしまいます。
この高カリウム血症は「命に関わる不整脈」の原因にもなるので、リスクを回避するためにも以下のようにカリウムの摂取制限を行います。
カリウムはたんぱく質が豊富な食品に多く含まれているほか、生野菜、果物、海草類、芋類、豆類などにも多く含まれています。そのため、患者さんの病期に応じてこれらの食品も制限されます。
なお、服薬歴や病歴などがカリウム値に影響する場合もあるので、実際にはこれらも踏まえてカリウムの摂取量を決定する必要があります。
リンには骨を形成したり、エネルギー運搬したりする働きなどがあり、とても大切な栄養素だといえます。しかし、腎機能が弱ってしまうとリンの排泄が難しくなってしまい、「高リン血症」を起こしてしまいます。高リン血症になると、骨折しやすくなったり、血管などで石灰化を起こしたりします。そのため、腎不全の治療ではリンの摂取制限も必要です。
リンの摂取量は「2.5~4.5mg/dL程度」とされており、ステージ3以降の患者さんは注意しなければなりません。
リンはたんぱく質を多く含む食品に沢山含まれているため、蛋白制限を行っていれば自然とリンの過剰摂取も防げます。ただし、乳製品類や小魚類にもリンが多く含まれているので、これらを食べる際には注意をした方がいいでしょう。
慢性腎不全の場合、腎機能の程度などによって異なりますが、基本的には水分補給を控える必要はありません。むしろ、腎不全では水分を保持する能力も落ちてしまうため、水分制限をすると「脱水症状」になってしまう可能性も高まります。また、老廃物を排出する能力も落ちてしまうので、水分を沢山摂って、尿量を多くすることも大切になります。
ただし、排泄障害をわずらっている場合、むくみが見られる場合には、水分の摂取量を調整した方がいいです。もし水分摂取について気になることがあれば、主治医に確認してみるといいでしょう。
一度に多量の水分を摂取すると腎臓に負担をかけてしまうことになります。水分は「こまめに」摂取するようにしましょう。基本的には、喉の渇きに応じて摂取量を過度に制限する必要はないとされています。
一方で、腎機能が非常に悪化している「末期腎不全」の人、心不全を合併している人は、水分量を厳密に管理しなければなりません。一日に摂取できる水分量はそれぞれの腎機能によって異なりますので、医師の指導に従って水分摂取をするようにしましょう。
慢性腎不全を発症してしまった場合は、これ以上腎臓に負担を与えないためにも「食事療法」が大切になります。とくに、たんぱく質の制限をしっかりと行いつつ、十分なエネルギー量を確保することが重要です。ただ、自己判断で治療に取り組むのは危険なので、主治医や管理栄養士などに相談して治療を進めるようにしてください。
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