記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/6
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
人工透析とは、腎臓の働きが低下して体に溜まってしまう老廃物を人工的に体外に排出しようとする治療法です。では、人工透析が必要と診断されるのはどのような場合なのでしょうか?また、人工透析の種類にはどんなものがあるのでしょうか?
腎臓とは、腰の高さの背中側に位置する左右一対の臓器で、にぎりこぶし大の大きさを持っています。主な働きは、血液中の不要物・老廃物をろ過して尿を作り、膀胱に送り出すことです。心臓の1回の拍動で、全身に送り出される血液の量の約1/4が送り込まれ、その総量は1日で約150〜180Lです。これを尿になる前の「原尿」といい、腎臓でろ過を繰り返し、最終的に尿として体外に排出されるのは1日に約1.5Lほどです。
そのほか、血圧の上げ下げに関わる物質を産生し血圧の調整を行う、赤血球を作る、カルシウムの吸収を増やすビタミンDを活性化する、などの役割を持っています。
人工透析とは、腎臓の機能のうち、ろ過の働きを人工的に行う治療法です。腎臓の働きが正常な状態の約1割以下になると、血液のろ過が十分に行えなくなり、体内に不要物・老廃物が溜まっていきます。尿の異常のほか、部分的にむくみが起こったり、高血圧を引き起こしたりすることもあります。
また、この状態が慢性化すると、慢性腎不全と呼ばれ、尿毒症という状態になることもあります。尿毒症とは、腎機能の著しい低下によって不要物・老廃物が体内に溜まり、倦怠感や食欲低下、悪心・嘔吐、頭痛などの症状が現れてきた状態を指します。重篤化すると心臓や消化器・脳神経などに障害が起こり、全身けいれんや心不全、肺水腫などにつながるおそれもあります。
そこで、体内に溜まっていく老廃物を適切に処理し、血液を浄化するために行うのが透析療法です。透析療法は腎臓そのものの機能を回復させるわけではなく、機能を人工的に補助するものですから、赤血球を作るための造血ホルモンの注射や内服薬など、透析で代替できない腎機能については別に補充する必要があります。
慢性腎不全と診断され、人工透析を行う必要があると診断されるためには、いくつかの基準があります。
これらの点数に加え、10歳未満の年少者または65歳以上の高齢者、あるいは糖尿病・膠原病・動脈硬化疾患など全身性の血管の合併症を有する場合は10点が加算されます。以上の点数の合計が60点以上となった場合、人工透析の導入が必要な状態であると判断されます。
人工透析には、血液透析と腹膜透析の2種類があります。血液透析は、血液を循環させながら機械を使ってろ過を行います。医療機関で行われることが多く、通院治療が主です。腹膜透析は、血液透析と比較して通院回数が少ないことがメリットですが、腹膜の働きには限りがあるため、いずれは血液透析や腎移植など、他の治療法を検討する必要があります。
血液透析の場合、通院治療は週3回、1回4時間程度が一般的です。血液検査や体重の増減など、個々の患者さんに合わせて日数や時間が決められるため、週に2度や1回3時間の人もいます。しかし、時間をかけてゆっくりと十分に老廃物や水分を取り除いた方が、体内に老廃物が溜まりにくくなるため、その後の体への負担も少なくなります。
腹膜透析の場合、1日2〜4回、患者さん自身で腹部のカテーテルから透析液の交換を行います。1回の交換は30分程度で、透析液は4〜8時間入れたままにしておきます。自宅や外出先でも行えるため、通院は月に1〜2回程度で済みます。
血液透析は人工腎臓とも呼ばれるように、腎臓のろ過機能を体外にある機械を通じて行う透析療法です。腕の血管に針を刺し、血管と透析液を2本のチューブでつなぎ、ポンプを使って血液をダイアライザーに送ります。ダイアライザー内で老廃物や余分な水分は透析液に移動され、浄化された血液は再び体内に戻ります。
ダイアライザーとは、実際に透析を行う機械のことで、透析器とも呼ばれます。筒のようなケースの中に、細いストロー状の透析膜の束が入っていて、透析膜の内側を血液が、外側を透析液が流れています。透析膜には非常に小さな無数の穴があいていて、血液中に含まれる老廃物や余分な水分、塩分などの電解質がこの穴を通り抜けて透析液側へ移動します。
これは、物質の濃度が均一になろうとする「拡散」という現象を利用したもので、透析液から血液に陰圧をかけることで、より老廃物や余分な水分・塩分をろ過する「限外ろ過」という方法が取られることもあります。また、穴の大きさや除去できる老廃物の種類によって、いろいろなダイアライザーがあります。
ダイアライザーを使用するためには、ダイアライザーに多くの血液を送り込む必要があります。具体的には、1分あたり約200mLの血液を送り込まなくてはならず、このため非常に太い血管が必要となります。そこで、ダイアライザーによる透析療法を始める前に、あらかじめ手首に太い血管を作っておく必要があります。
この太い血管を、内シャントと呼びます。内シャントは、利き腕でない方の手首付近の動脈と静脈をつなぎ合わせ、静脈を太く発達させることで作ります。自分の血管で内シャントを作るのが難しい場合は、人工血管を使うこともあります。手術を行ってから、透析で使用できるようになるまでは約2〜4週間を必要としますので、前もって計画的に手術を行う必要があります。
血液透析は通常、医療機関に通院して行います。しかし、最近では自宅に透析機器を置き、自分で血液透析を行う「在宅血液透析」を選択する患者さんも増えています。生活スケジュールに合わせて好きな時間に透析が行なえ、回数も自由に決められるため、頻回透析やオーバーナイト透析など、通院透析では行いづらい治療も選択できることが大きなメリットです。
通院透析と比べて社会復帰に有利であることや、QOLが高いことに加え、急いで行う必要がないためゆっくりと時間をかけて十分な透析が行えるため、生命予後も良いことがわかっています。
反面、透析前に機器の準備を自己負担で行う初期費用や、水道・光熱費などの維持費用がかかること、透析機器の操作の知識や技術の習得が必要なことなどがデメリットとして挙げられます。また、透析中に医療スタッフが不在であることから、何らかのイレギュラーが起こった場合に対処が遅れる危険性があります。
このことから、在宅血液透析は自己管理がしっかりしていて、ご家族など介助者の知識や強力が得られる患者さんに向いている治療法です。また、在宅血液透析を行う際に以下の基準が定められており、これを満たすことができない場合は在宅血液透析を選択することができません。
血液透析のうち、最近注目を集めているのが血液ろ過透析と呼ばれる治療法です。血液ろ過透析とは、通常の血液透析で行われる拡散によるろ過に加え、ダイアライザーの膜にさらに圧力をかけて、毒素の除去効率を高めることが目的の治療法です。透析中に低血圧が起こりにくいことや、通常の血液透析よりも心臓への負担が小さいというメリットもあります。
また、通常の血液透析では除去されにくい大きな老廃物も取り除くことができます。これらの老廃物の中には関節痛やかゆみの原因になるものもあり、こうした症状に悩まされている患者さんは、血液ろ過透析を行うことで症状が改善される可能性があります。
腹膜透析とは、腹部にある腹膜の機能を利用して血液をろ過する治療法です。血液透析のように代替機能を体外の機械に頼ることなく、残された腎臓の機能も活かしながら緩やかに透析を行います。専用の機械を使い、夜眠っている間に透析を行うこともできます。また、夜間のみの透析では尿毒素の除去が不十分な場合は、日中に透析液を入れたままにしておく方法と併用することもあります。
腹膜透析を始める前に、透析液を入れるためのカテーテルを腹部に埋め込む手術が必要です。術後はこのカテーテルが常に体外に出た状態となるため、カテーテルの開口部やその周囲を清潔に保ち、雑菌が体内に入らないよう気をつける必要があります。
腹膜透析は、患者さん本人の腎臓の機能を活かしながら透析を行うため、血液透析に比べて心臓や血管に負担が少ないといわれています。また、カリウムの除去に優れているだめ、果物やイモ類などの摂取制限はほとんど不要です。しかし、カテーテルを清潔に保ち、入浴に少し気をつける必要があること、腹膜の働きは開始後数年間で衰えるため、その後は血液透析や腎移植などを行う必要があることがデメリットとして挙げられます。
人工透析をする場合、とくに血液透析を行う場合は、一般的に週に3回、1日4時間の透析を行うため、透析のサイクルを日常生活に組み込むよう、ライフスタイルを調整する必要があります。仕事をしている人は、通院による透析治療を始めるまでに約1ヶ月の入院期間があること、透析の時間調整など、会社や上司とよく相談することが大切です。
しかし、透析を行っている時間以外は健常者とほぼ変わらない生活を送ることができるため、仕事を続けている人も少なくありません。ただし、体の中に老廃物や水分が溜まりすぎないよう、食事などの自己管理は必要です。とくに、体に入る水分量と排出される水分量のバランスが崩れるため、飲水量はしっかりと制限する必要があります。
食事に関しては、絶対に摂ってはいけないというものがあるわけではありません。しかし、栄養のバランスや、タンパク質・塩分・水分などの摂取量はある程度制限する必要があります。特定の栄養分が過剰になりすぎると、腎機能に負担をかけることになるためです。食事はなるべく細かく記録し、栄養士のアドバイスを受けることが重要です。
透析を行う患者さんが学生である場合、学校生活は非常に重要です。透析治療を受けている時間以外はもちろん学校に通うこともできますし、運動をすることも可能です。学校側の理解を得られるよう、医師や看護師と教師、家庭など周囲が連携しながらサポートを行うことが大切です。
ただし、血液透析の場合、内シャントという手首内側の太い血管が必要ですから、ここからの出血や閉塞は避ける必要があります。具体的には、バレーボールなど、直接手首にボールが当たる球技や、手首に大きな負担がかかる運動はしないようにしましょう。そのほか、行ってもよい運動や透析後に行ってもいい運動の目安など、主治医とよく相談し、体の調子によって無理のない範囲で運動を行うことが重要です。
人工透析は、腎臓の「老廃物や水分を体内に排出する」という機能を代替してくれる非常に重要な治療法です。体内の老廃物は、溜まっていくと尿毒症という重篤な疾患を引き起こす可能性があるため、定期的に排出する必要があるのです。
人工透析を行っていても、透析の時間以外は健常者と変わらず日常生活を過ごすことができます。透析の手法や通院時間などを主治医とよく相談し、自分に合った治療法を選択しましょう。
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