記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
突然発症し、対処次第では命にかかわる状況にあることも多いくも膜下出血。どんな病気で、早期発見のためにどのような検査や治療法がとられているのでしょうか。くも膜下出血という病気の特徴を、検査と治療方法とあわせて解説します。
脳は、その外側を脳脊髄液という透明な液体と、くも膜と呼ばれる薄い膜状の組織で覆われていて、脳本体とくも膜との隙間にはくも膜下腔という空間があります。このくも膜下腔に出血が起こって血が溜まっていくのが、くも膜下出血という病気です。
ある日突然、頭をバットで殴られたような激しい頭痛とともに発症し、吐き気や嘔吐、意識の混濁、認知症様の症状、視力の異常などの症状が現れます。この病気は、主に脳の血管にできた脳動脈瘤の破裂によって発症するとされ、出血の量や起こる位置によって、症状の出方や深刻度は大きく変わります。たとえば、くも膜下出血を発症しても、出血が少なければ風邪のような症状で済みますが、出血が多いと急速に意識を失ってそのまま死に至ることも少なくありません。
診断と処置が遅れると出血量や範囲が広がり、致死率や再出血、脳梗塞、水頭症などの合併症を起こすリスクも高くなるのも特徴です。
突然発生した頭痛や、吐き気と嘔吐、激しいめまいなど、くも膜下出血が疑われる症状がある場合、CTを使って脳の状態を確認します。
CTは、レントゲンと同じように放射線の一種であるX線を体に照射し、体内を撮影して骨の影響や変形、脳の出血などを確認することのできる検査機器です。骨を含めた脳の周辺、頭部を全体的に診る際に特に有用な機器だといわれています。5分ほどの撮影で、くも膜下出血を起こしているかの診断に十分な画像を取得できるため、CTはくも膜下出血かどうかの診断に積極的に利用されているのです。
CTが放射線を照射して体の様子を撮影するのに対し、MRIは強力な磁力を体に当てて水素原子と反応させることで、体内の画像を取得する医療機器です。
CTに比べ、体の細かい異常や疾患を見つけるのに向いた医療機器といわれ、主に急性脳梗塞や脳幹部の梗塞、奇形の脳動脈瘤などの状態と位置特定に使用されています。放射線を使わないため、CTの撮影が推奨されない妊娠中の女性でも使用できますが、撮影に30分程度の時間がかかり、少しの動きで画像がぶれやすいという欠点もあります。
くも膜下出血では、CTでは判別しきれなかった出血の範囲や量、出血位置の特定や再出血の予備軍となる脳動脈瘤の有無の確認のためなどに使われます。
くも膜下出血を起こしているとわかった場合、再出血予防のためにまずは「開頭クリッピング術」「瘤内コイル塞栓術」いずれかの手術療法を行います。
破裂しそう、または破裂した脳動脈瘤が新たな破裂や再出血を起こさないよう、頭部を開けてクリップで脳動脈瘤を物理的に止めて、止血する手術療法です。確実性と根治性は高いですが、動脈瘤ができている場所によっては行えないほか、開頭手術に耐えられない患者には不向きだといえます。
太ももや腕などの太い血管からカテーテルを脳動脈瘤まで誘導し、カテーテルから細い針金状の医療用コイルを動脈瘤内部にまで詰め込み、血流を止めて破裂を防ぎます。開頭手術に比べて患者への負担が少ないのが特徴ですが、高度な技術が必要なため、動脈瘤の位置や形状によっては、実施できないケースもあります。
手術後は、服薬と生活習慣の改善を行って、脳からの再出血を防いだり、合併症で脳梗塞を起こしてしまわないよう、長期的に治療していきます。
脳動脈瘤などの破裂によりくも膜と脳の間に出血が起こり、突然の激しい頭痛や吐き気、嘔吐や視力異常、意識の混濁などの症状が現れるくも膜下出血。発症後に少しでも適切な処置が遅れると、死に至るケースも多い恐ろしい病気です。診断にはCTが用いられるのが一般的で、治療は患者の状態にあわせて手術で再出血・合併症予防のために処置をするのが一般的です。いざというときのために、知識として知っておきましょう。
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