くも膜下出血のリハビリはすぐに始めたほうがいい?リハビリ内容は?

2018/12/26

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

くも膜下出血を発症した場合、脳の細胞が損傷するため、運動機能などの一部が損なわれる可能性があります。そこで、失われた運動機能などを回復するためにリハビリテーションという訓練を行う必要があります。

このリハビリテーションは、いつ頃から始めるのが良いのでしょうか?具体的なリハビリの内容と併せ、ご紹介していきます。

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くも膜下出血のリハビリは、早く始めたほうがいいの?

くも膜下出血とは、脳の動脈にできたこぶ(脳動脈瘤)が破裂して出血する疾患です。現れる症状は出血の程度や起こった部位によって異なりますが、脳の細胞が壊死してしまうため後遺症が残ることも多く、日常生活を送るための身体能力や機能を取り戻すためにはリハビリテーションが非常に重要です。

リハビリテーションの目的は、「脳や体の機能を回復する」ことだけでなく、「残った機能を開発・強化する」ことも含まれています。例えば、右手に麻痺が残った場合、まずは右手の機能を運動や訓練によって回復することを目指します。しかし、機能の回復が難しい場合は無事な左手の機能を開発・強化し、右手の分を補ってよりよい生活が送れるようにサポートを行います。

脳細胞の壊死・損傷は残念ながら治療することはできません。しかし、訓練によって脳内の別の部分に運動の指令を出す回路を作ることができる可能性があります。脳の神経回路は何歳になっても学習や訓練によって新しい回路を作ることができる可能性があるため、リハビリは継続して行うこと、諦めずに長期間取り組むことが大切です。

また、こうした「脳の機能の回復」や「新しい回路」を獲得する「神経可逆性」が得られるのは、発症後約3ヶ月の間とされています。そこで、くも膜下出血を発症した後、できるだけ早期にリハビリテーションを開始することが必要です。これを急性期リハビリテーションと言い、くも膜下出血を発症して搬送された病院で、症状の治療と並行して行われます。

病状が安定するまで、ベッドからは起き上がれない場合もあります。しかし、起き上がれないからといってそのまま寝たきりでいると筋力が低下したり、関節が固まったり、骨がもろくなってしまったりします。精神的にも落ち込んで気力が失われ、抑うつ状態や認知症などを発症することもあります。

そこで、起き上がれなくてもベッドの上で姿勢を整えたり、手足を動かしたりして、筋力をつける訓練を行うことが大切です。理学療法士などに体を動かしてもらうことも、機能を回復したり新たな神経回路を獲得したりすることにつながります。

急性期リハビリテーションってどんなことをするの?

急性期リハビリテーションは、発症直後から数週間程度の間で、主に以下のようなことを行います。

  • 廃用症候群の予防…ストレッチ
  • 離床訓練…座る、立つ、ベッドから車椅子に乗り移るなど
  • ADL訓練…食事、着替え、入浴、トイレなど
  • 摂食・嚥下訓練…食べる、飲み込むなど
  • 機能回復訓練…運動麻痺、高次脳機能障害、言語障害など

急性期のリハビリテーションは、発症から48時間以内に始めるのが望ましいとされています。そのため、くも膜下出血で搬送された先で治療と同時並行で始める必要があります。寝たきりの期間が長くなると、筋肉が弱くなったり(萎縮)関節が固まって動きが悪くなったり(拘縮)します。骨がもろくなったり、体力の低下や認知機能の低下などが起こったりすることもあります。

このような状態を廃用症候群と呼び、ストレッチを始めとして座る・立つ・ベッドから車椅子に乗り移るなどの離床訓練などがリハビリテーションとして行われます。これらの訓練が一通りできるようになると、食事や着替え、トイレなど、日常生活に必要な動作をできるようになるためのADL訓練が行われます。

食事の際に噛めない、ものを飲み込むことができない場合、自分で食事を摂れるようにするための摂食・嚥下訓練が行われます。機能回復障害は、これらの生活に必要な訓練とは多少異なり、手が動かせないなどの運動麻痺があったり、喋れない・言葉が思い浮かばないなどの言語障害があったり、集中力や記憶力が低下する高次脳機能障害があったりする場合に、それぞれの症状に合わせた訓練を行います。

急性期でも、脳の血流は改善しむくみがとれてきています。そのため、ある程度麻痺は回復していて、適切なリハビリを行えば脳が新たに学習をして神経回路を回復させたり、新たな回路をつないだりすることができる可能性が出てきます。

症状が落ち着いたら、どんなリハビリをするの?

症状が落ち着いたころのリハビリテーションは、「回復期リハビリテーション」と呼ばれています。発症から数週間〜数ヶ月程度で、急性期を過ぎてある程度体を動かせるようになったら行われるリハビリテーションです。症状の改善とともに、ベッドから一人で車椅子に乗る、復職のための訓練を行うなど、生活機能を高めるための訓練を行うのがこの時期のリハビリテーションです。

この時期になると、急性期リハビリテーションを行った病院からは退院し、回復期のリハビリテーションを行える専門病院や病棟に転院することになります。くも膜下出血の場合、発症または手術後2ヶ月以内でなければ回復期リハビリテーションの専門病院や病棟に入院できないという制度があるためです。

さらに、回復期リハビリテーションを行える医療施設に入院できる期間は150日以内(高次脳機能障害を伴った重症のくも膜下出血の場合は180日以内)と定められています。こうして期間が定められていることからも、できるだけ早くリハビリテーションを開始することが大切です。

回復期リハビリテーションでは、機能が低下している部分の回復に重点が置かれます。

  • 運動機能の回復…ベッドから起き上がる、車椅子、立つ、歩行など
  • 作業療法…箸の練習、着替え、トイレ、入浴訓練など
  • その他…言語機能や嚥下障害がある人にはオリジナルメニューを組んでリハビリテーションを行う

後遺症の程度によりますが、急性期のリハビリテーションから少し進んで日常生活で不自由が起こらないよう、全ての動作を一人で行えるように訓練を行っていきます

退院後は、もうリハビリしなくていい?

退院した後も、身体機能の維持やさらなる回復のために、リハビリテーションは継続していきます。この時期のリハビリテーションは「維持期リハビリテーション」と呼ばれています。自宅などに戻って日常生活を送りながら社会復帰を目指すことが目的なので「生活期リハビリテーション」と呼ばれることもあります。

入院していた時期と異なるのは、受動的に行っていたリハビリテーションを能動的に行う必要があるという点です。維持期のリハビリテーションに終わりはなく、日常生活・社会生活を送る中で、障害が起こる前の生活をできるだけ取り戻そうとする試みを患者さん本人が積極的に行うことが求められます

また、自ら積極的・主体的に動くことで、機能の維持・拡大はもちろんのこと、QOL(生活の質・生命の質)の改善や向上にもつながります。自宅に手すりやスロープ・踏み台などを設置することで転倒を防ぎ、杖や車椅子などを使って積極的に一人で動き、自立した生活を送れるようにすることが大切です。

おわりに:くも膜下出血のリハビリテーションは発症から48時間以内に開始する

くも膜下出血を発症した場合のリハビリテーションは、急性期・回復期・維持期の順に行います。始めに行う急性期リハビリテーションは発症から48時間以内に行うことが望ましいとされており、脳機能の回復や新しい回路を作る「神経可逆性」の獲得の可能性が高くなることがわかっています。

段階的なリハビリテーションや制度をうまく利用し、自立した生活を送れるような訓練を行っていきましょう。

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