記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
未だ記憶に新しい、2016年の熊本地震、2018年の北海道地震。土砂崩れや建物の倒壊などで多くの犠牲者を出しましたが、災害に付随した「エコノミークラス症候群」の死者や発症者も多かったことをご存知でしょうか。
以降では災害時にエコノミークラス症候群を発症してしまう理由や、対策についてお伝えしていきます。
「災害関連死」という言葉をご存知でしょうか。火災や水難、土砂崩れ、建物の倒壊といった災害による直接的な死ではなく、避難中の環境、疲労などが原因で病気にかかったり、持病が悪化したりしたことによる死という意味です(地震の場合は「震災関連死」という言い方をする場合もあります)。
そしてこの災害関連死の原因のひとつとして問題になっているのが、「エコノミークラス症候群」です。2018年の北海道地震ではおよそ8人が発症、2016年の熊本地震では50人以上が発症・入院し、死者も出たことが報じられました。
では、なぜこれらの震災でエコノミークラス症候群の発症者が相次いだのでしょうか。
その主な理由とされるのが、「車中泊」「避難所生活中のトイレの我慢」です。
「被災者は避難所生活をする」というイメージが強いかと思いますが、避難所での集団生活は落ち着けないこと、何かあっても車ならすぐに逃げられることなどから、車中泊を選ぶ人も実は少なくありません。しかし特に熊本地震で多かったのが、「車中泊をした翌朝に倒れて亡くなる」という事例でした。
そもそもエコノミークラス症候群とは、長時間同じ姿勢で足を動かさなかったことで血流が悪化し、発生した血栓が足や肺の血管を詰まらせる病態です。つまり、車の中で座ったまま過ごしたり寝たりする車中泊は、「長時間足を動かさない」状況そのものであり、エコノミークラス症候群を起こす代表的なシチュエーションといえるのです。
では、避難所生活を送っていればエコノミークラス症候群の心配はないのかというと、そうともいいきれません。災害時はトイレが故障し、生活水も足りなくなるので、「トイレに行けないから水を飲まない」という状況に陥りがちです。また「共同の簡易トイレが不衛生だから使いたくない」と感じる方も少なくありません。
そのため、「トイレを長く我慢したい→水を飲まない→脱水状態→血液が濃くなり、血栓ができやすくなる」という、エコノミークラス症候群につながる状況を招きやすいのです。
血栓が肺の血管に詰まると呼吸困難を招き、死に至ることもあるエコノミークラス症候群。災害時の発症を予防するには、どうすればいいのでしょうか。
座席に4時間以上座ったまま動かずにいると、血栓ができる確率が2倍になるといわれています。そのため、車中泊はしないようにしてください。
車中泊をせざるを得ないという場合は、弾性ソックスを着用しましょう。ふくらはぎに圧力をかけることで血流が改善し、血栓ができにくくなります。
なお、ひざ下までのハイソックスタイプのものを必ず使用してください。車中泊の場合、ひざ上までのタイプの使用はかえって危険とされています。
避難生活中は閉じこもりがちですが、できる範囲で軽く歩いたりして、足を動かすようにしてください。もし歩くのが難しいときは、ふくらはぎを軽くもむ、足指のグーパー運動、つま先とかかとの上げ下ろし運動も有効です。
水分が不足すると血栓ができやすくなるので、こまめな水分補給も必要です。少なくとも1日0.8L以上の水分摂取を心がけましょう。また、お米やフルーツなどにも水分は含まれるので、水分の供給が足りないときはひとまず水分量の多い食べ物でしのぐようにしてください。
震災や豪雨といった災害のニュースでは、土砂崩れや建物の倒壊によるケガ人や死者にフォーカスが当てられがちですが、その後もエコノミークラス症候群などの二次災害が起こるのが災害の恐ろしい点です。しかしきちんと対策をすれば、少なくともエコノミークラスによる死は防げるようになります。弾性ストッキングの用意などは災害が起こってからだと難しいので、災害が起こる前からできる準備を進めておきましょう。
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