心臓リハビリテーションってどんなことをするの?

2019/1/11

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

心臓リハビリテーションというプログラムをご存知ですか?これは、心臓疾患を患った人が治療とともに行うべきプログラムで、心身ともに健康に社会復帰や職場復帰を目指すリハビリテーションです。

では、心臓リハビリテーションでは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?また、リハビリテーションの適応や時期はどのようになっているのでしょうか?

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心臓リハビリテーションとは

心臓リハビリテーションとは、心臓疾患の患者さんが自分の疾患について理解することのサポートから始まり、個々の患者さんに合わせた運動管理、安全指導、リスク管理、心のケアなどを含めた総合的なリハビリプログラムを行うことです。医師だけでなく、理学療法士、看護師、薬剤師、臨床心理士など多くの専門医療職が関わってリハビリプログラムを提案・実施します。

たとえば、心筋梗塞や狭心症、心臓手術直後の患者さんは心臓の働きが低下しています。また、心臓を労るために安静に生活を送っていた結果、運動能力や体の調節などの働きも低下してしまっています。そのため、退院してすぐに入院前と同様の生活はできません。また、どの程度なら自分は生活ができるのか不安に感じる患者さんもいます。

そこで、社会復帰や職場復帰などの前に、低下してしまった体力を安全に回復させ、精神面からも「日常生活が送れる」という自信をつけてもらう必要があるのです。また、社会復帰や職場復帰だけでなく、心臓疾患の再発を予防し、快適で質の良い(=QOLの高い)生活を維持できるよう、生活指導やカウンセリングなども含めて総合的にプログラムを行います。

心臓リハビリテーションを行うと、以下のような効果があることがわかっています。

  • 運動能力が回復し、楽に動けるようになる
  • 狭心症や心不全の症状が軽くなる
  • 不安や抑うつ状態が回復し、快適に社会生活を送れるようになる
  • 動脈硬化のリスク因子である血管の老化が改善されたり、血栓ができにくくなる
  • 心臓疾患の再発や突然死が減少することで、死亡率も減少する

心筋梗塞や手術後の患者さんが心臓リハビリテーションを行うと、所作が楽になり、快適な生活を長く続けることができるようになります。リハビリは地味な努力により運動能力や日常生活の所作を回復するだけのものと思われがちですが、実はもっと多面的に効果が期待できるのです。

安静にしていなくて大丈夫?

以前は心臓疾患を発症したら、できるだけ安静にして動かないようにすることが常識であったため、そう思い込んでしまっている人も少なくありません。しかし、現在では、そうしてベッドや布団で寝たきりの生活を送っていると、次第に体中の筋肉が衰え、運動能力が低下するだけでなく、抑うつ状態から双極性障害などを発症してしまうケースも少なくないことがわかっています。

つまり、疾患から回復した後も日常生活に復帰できず、疾患にかかる前のように活動的で健康的な生活を送るところまでは回復できないこともあったのです。そこで、現在では心臓疾患にかかったとしても、筋力が低下しないようある程度は体を動かしながら治療を行っていくことが重要だと考えられるようになりました。

心臓も筋肉の一つですから、鍛えることである程度強くすることができます。とはいえ、たとえ健康な人であったとしても、自分のできる範囲を超えていきなり無茶なトレーニングをしてはいけません。そこで、心臓疾患にかかった人は特に、自分の「できる範囲」を医学的に測定し、可能な運動を医師や理学療法士などから指導してもらい、リハビリテーションとして取り組む必要があるのです。

こうしたリハビリテーションプログラムに積極的に取り組むことで、心臓疾患にかかる前よりも元気になることも夢ではないのです。

心臓リハビリテーションを受けられるのはどんな人?

心臓疾患にかかったすべての人が心臓リハビリテーションを受けられるというわけではありません。特に、心臓リハビリテーションが健康保険の適応となるのは以下の心臓疾患にかかった場合です。

  • 急性心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心臓手術後(冠動脈バイパス術・弁膜症手術など)
  • 慢性心不全
  • 大血管疾患(大動脈瘤・大動脈解離など)
  • 末梢動脈閉鎖性疾患

保険適応の期間は150日間で、通常は1回60分です。1単位とされるのは20分(約2,000円)ですから、1回当たり60分実施すると、自己負担は3割で約1,800円、1割で約600円となります。

心臓リハビリテーションはどんなふうに行うの?

心臓リハビリテーションには、大きく分けて3つの時期があります。

急性期
発症から1~2週間
入院中に治療を行いながら、身のまわりの活動をできるようにする
集中治療室や一般病棟で洗面や排便、シャワー浴、廊下の歩行など
治療と同時に行うため、段階的にできることを増やしていく
同時に心臓機能の検査、生活指導、禁煙指導なども行う
回復期
急性期リハビリ後、発症から2~3カ月間
退院し、社会復帰や職場復帰を目指す
外来通院や、在宅でリハビリテーションを行う
運動負荷試験などの検査、積極的な運動療法、カウンセリング、食事療法の指導など
維持期
回復期リハビリテーション後、生涯にわたって行う
在宅あるいは地域の運動施設などで運動療法を行いながら、再発予防のための食事療法や禁煙を続ける
生涯にわたり、再発を防止しながら快適な生活を維持していくことが目的

急性期は、発症から入院して治療を行っている最中に行います。発症して間もないこと、入院中であることからまずは身のまわりのことを自分で行えるように指導していきます。退院後は、回復期として社会復帰や職場復帰を目指し、在宅や通院でリハビリテーションを続けていきます。

社会復帰した後も、リハビリテーションは生涯続けていく必要がありますが、これは疾患の治療の延長というだけではなく、再発防止とよりよい生活のため、QOLの回復や向上のためのリハビリテーションであると考えると捉えやすいでしょう。

また、これらのリハビリテーションを行う上で大切なのは以下のようなことです。

運動療法は安全に行う
水分補給などに気をつけ、疲れたら無理をせず休む
運動療法は正しい方法で、確実に行う
指示された運動の強度や時間を守る
食事療法や禁煙を実行する
医師に指導された食事療法や禁煙を守る
継続すること
すぐに結果が出る療法ではないため、長期間継続して行う

まず、運動療法を行う場合はウォーミングアップやクールダウンなどに気をつけ、安全に行いましょう。運動する際には水分補給を忘れずに、疲れや異常を感じたら決して無理をせずに休みましょう。また、逆に疲れや異常がないのに運動の強さや時間を勝手に変更しないようにしましょう。せっかくの運動療法も、軽すぎたり少なすぎたりすると十分な効果が期待できないことがあります。

運動療法以外にも、食事療法や禁煙を合わせて指導されますので、こちらもきちんと実行しましょう。運動療法だけでは効果が不十分となるばかりか、不健康な食生活や喫煙で効果が相殺されてしまうことがあります。指示されたことは必ず守りましょう。また、これらの療法は一朝一夕に効果が出るものではありません。決して無理はせず、細く長く続けることが健康への近道です。

おわりに:心臓リハビリテーションでQOLを向上しよう

心臓リハビリテーションは、単純に疾患を治療するだけでなく、患者さん自身のQOLも向上することが目的です。すなわち、疾患の再発を防ぐとともに、ある程度は心臓を「鍛える」ような生活を行うのが理想です。

しかし、健康な人であっても無茶なトレーニングはかえって健康を損なうもとになってしまいます。そこで、心臓リハビリテーションプログラムにより、適度な運動療法や食事療法を指導してもらう必要があるのです。

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