記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/2/9
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
コレステロールが悪いものであるというイメージは根強く、低ければ低いほど良いと思われています。しかし、コレステロール値が低すぎる場合も体に良くないという意見も見かけます。
コレステロール値が低いことは良くないことなのでしょうか?また、疾患が隠れている可能性があるというのは本当なのでしょうか?
コレステロールは、細胞の外壁である細胞膜に硬さやハリを与えたり、水を弾く性質によって細胞内部を外部の環境の変化などから守る役割を果たしています。また、ステロイドホルモンやビタミンDなどの材料にもなることがわかっています。コレステロールは食物から吸収されるものと、体内で合成されるものがあり、食物から吸収されたコレステロールは小腸で分解されて肝臓に運ばれ、その3倍くらいのコレステロールが体内で合成されています。
肝臓に集められたこれらのコレステロールのうち、必要な分は血液中に送り出され、不必要なものは胆汁酸という成分に作り変えられて胆汁とともに十二指腸に分泌され、体の外へと排出されます。食物から摂取する量と、体外に排出される量のバランスがうまく取れていれば、コレステロール値はが正常に保たれている状態と言えます。
ですから、コレステロール値は高すぎるのはもちろん良くありませんが、低ければ低いほどいいというわけでもありません。また、最近ではLDLコレステロール(悪玉コレステロール)やHDLコレステロール(善玉コレステロール)など、コレステロールの種類ごとに数値が問題とされることが多くなってきました。
コレステロール値が低い場合、検査で異常を指摘されなければ特に心配する必要はありません。コレステロールの値は、基準より少し低い程度では問題がないことがほとんどです。食事を見直したりする必要もありません。しかし、コレステロール値が極端に低い場合は以下のような疾患の可能性がありますので、検査で指摘された場合は注意する必要があります。
また、LDLコレステロールは悪玉コレステロールと言われていて、比較的低い方が良いとされていますが、低すぎる場合は上記の何らかの疾患が隠れている可能性があります。たとえば、「甲状腺機能亢進症」の場合はLDLコレステロールを過剰に消費するため、不足しやすくなります。また、肝硬変や肝炎などの肝臓疾患の場合も、LDLコレステロールを肝臓で産生できなくなるため、数値が低下します。
HDLコレステロールは善玉コレステロールとも呼ばれ、動脈硬化などを引き起こすLDL(悪玉)コレステロールを減らしてくれる働きがあります。ですから、HDLコレステロールは少なすぎると脂質異常症と診断されます。具体的には血中濃度が40mg/dLを下回った場合は注意する必要があり、血中濃度が20mg/dLを下回ると生活習慣以外に原因がある場合がほとんどです。
HDLコレステロールの値が低い場合、生まれつき低い場合と、HDLコレステロールが著しく低下する肝臓・腎臓などの疾患を発症している場合の2つの場合が考えられます。特に、生まれつきHDLコレステロール値が低い場合、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーぜ(LCAT)欠損症やタンジール病などの難病指定を受けている遺伝的疾患であることも考えられます。
レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)とは、HDLの働きで細胞から回収された遊離コレステロールをエステル化し、コレステロールエステルに変換する酵素です。LCATが遺伝子異常によって欠損または機能異常を起こすと、血中のHDLコレステロールが著しく減少するだけでなく、余分なコレステロールが腎臓や目に蓄積するため、腎機能障害や角膜の混濁、溶血性の貧血などの障害を引き起こします。
このため、HDLコレステロールが著しく低いことに加えて尿にタンパクが認められる場合、黒目に濁りが認められる場合、貧血がある場合のいずれかの症状をしてきされた場合、LCAT欠損症である可能性が高いと考えられます。
タンジール病とは、ATP binding cassette transporter A1(ABCA1)というタンパク質が遺伝子異常によって欠損や機能異常を起こす疾患です。ABCA1は、HDLが細胞からコレステロールを回収する際に必要なタンパク質ですから、これが遺伝子異常によって欠損したり機能異常を起こすとHDLコレステロールが生成されなくなります。
HDLコレステロールが生成されなくなると、細胞からコレステロールが回収されなくなり、骨髄や肝臓、脾臓、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞というコレステロールを過剰に取り込んで蓄積したマクロファージができてしまいます。泡沫細胞は血管に慢性の炎症を起こすため、動脈硬化などの原因になることもあります。
コレステロールが高すぎると動脈硬化を初めとした生活習慣病の原因となり、良くないとされますが、逆に低すぎても自殺率が上がったり、攻撃的な言動や精神不安定につながるという報告もあります。これは、セロトニンが細胞に取り込まれる際に善玉コレステロール(HDLコレステロール)が関連していることに加え、善玉コレステロールの値が低く悪玉コレステロールの値が高いと動脈硬化を起こして血流が悪くなることに関係しています。
セロトニンは別名「幸せホルモン」などの名前で呼ばれるホルモンで、精神の安定を保つのに重要な働きをしていることがわかっています。特に、うつ病を発症した人ではセロトニンの値が発症していない人と比べて低いことも知られています。また、これらのホルモンは血液を介して全身に巡るため、血流が悪くなることでも精神が不安定になったり攻撃的になったりしやすいのです。
また、ホルモンを作る原料にもなりますので、コレステロールの値が低すぎると全身のホルモンバランスが乱れたり、臓器の働きが低下することもあります。悪玉コレステロールと称されているLDLコレステロールもある程度は体に必要不可欠な物質で、あまりにLDLコレステロールの値が低すぎても、血管が細く弱くなるなどの悪影響が出ることがあります。
HDLコレステロールの数値が低いことはさまざまなリスクがあることはここまででも多くご紹介してきましたが、脂質異常症と診断される40mg/dL未満の場合、冠動脈疾患の発症リスクが急激に上がることがわかっています。コレステロールは極端な摂りすぎも不足も体に悪影響を及ぼします。食事はあくまでもバランスよく摂取しましょう。
コレステロール値は、長い間、低ければ低いほど良いというイメージでした。原因の一つには、2006年までの血液検査の診断基準では、血中の総コレステロール値が高すぎる場合だけが指摘されていたことがあります。
しかし、コレステロールにはいくつかの種類があって働きが異なることや、ホルモンやセロトニンなどの人体に必要不可欠な成分に欠かせない物質であることがわかってきています。バランスのよい食事を心がけましょう。
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