記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
脳挫傷の中には、「軽度外傷性脳挫傷」と呼ばれるものがあります。軽度外傷性脳挫傷はその語感からついつい「軽症」と思ってしまいがちですが、本当にそうなのでしょうか?
軽度脳挫傷の概要や症状、発症しないための予防法について解説します。
軽度外傷性脳挫傷はMTBIとも呼ばれ、スポーツや事故などで脳を強く揺さぶられた際に起こる脳挫傷(TBI)のうち、傷を受けたときの意識障害の程度が比較的軽いものを言います。MTBIはごくありふれた病気ですが、日本ではあまり知られておらず、まだ明確な診断基準がありません。そのため、適切に診断できる医師は限られています。
外傷性脳挫傷と診断された人のうち、ほとんどが軽度外傷性脳挫傷に当てはまります。脳挫傷を引き起こす原因は交通事故のほか、転倒・転落事故・暴力、乳児の揺さぶり、喧嘩・DVなどの暴力、スポーツによる外傷など多岐に渡ります。
軽度外傷性脳挫傷は、病名に軽度とついているために症状の度合いが軽いと思ってしまうことが多いのですが、この「軽度」は脳挫傷が起こった際の意識障害が軽い、という意味です。そのため、症状の程度としては軽いとは限りません。
軽度外傷性脳挫傷の症状には、以下のようなものがあります。
これらの症状は、傷を受けた直後に現れるとは限りません。数時間後、もしくは数日から数週間後に現れることもあります。そのため、なかなか脳挫傷由来の症状であると診断しにくい症状です。動物実験においては、脳の神経細胞の軸索が、衝撃を受けたその瞬間ではなく、その後ゆっくりと時間をかけて衝撃の影響を受け、断裂することがわかっています。
一度退院してから数時間から数週間後でも、次のような症状が出るようであれば、もう一度医療機関を受診しましょう。
軽度外傷性脳挫傷には、全身にさまざまな症状が現れます。そのため、一つの診療科だけでなく、神経眼科・神経外科・リハビリテーション科・精神科・脳神経外科・整形外科など、複数の診療科をまたいで、全身を診断することが必要です。また、この疾患はMRI検査で異常が見つかりにくいことが特徴であり、海外の報告によればMRI検査で異常が見つかる確率は50%前後といわれています。
国内では京都大学の報告がありますが、CT検査で異常が見つかる確率は20%程度とさらに低くなっています。これらの画像診断で異常が現れることが少ないこともあって、この病気についてはまだまだ認知度も理解度も低いものとなっています。そのため、交通事故などで労災申請や自動車損害賠償責任保険などの請求をしても、補償対象から外されてしまうことも少なくありません。
また、軽度外傷性脳挫傷には、現在のところ確立された治療法がありません。そこで、頸椎をできるだけ安静にし、頭部への負荷を避けながら、現れた症状に対する治療を行うという対症療法を行うことになります。
めまいや手足の麻痺がある場合は、治療中にさらに脳に損傷を受けないよう、交通事故はもちろんのこと、転倒や転落・暴力なども避ける必要があります。半年から1年程度でほとんど回復する人もいれば、症状が慢性化して障害が残る場合もあり、人によって後遺症の程度はさまざまです。
軽度外傷性脳挫傷を予防するためには、頭をダメージから守る必要があります。具体的には、年代によって次のようなことに気をつけましょう。
乳幼児では、一緒に過ごす、または外出する大人が気をつける必要があります。特に、まだ頭蓋骨が柔らかい乳幼児は、大人ならたいしたことはないふとした瞬間に大きなダメージを受けることがあります。抱っこや「たかいたかい」などをするときには、十分に注意しましょう。
青少年期から働く世代が気をつける必要があるのは、自転車やバイクによる転倒や、スポーツによるダメージです。そのため、自転車やバイクに乗るときは必ずヘルメットを着用するようにしましょう。また、スポーツをするときは防具を適切に使用し、頭部に思わぬ大きなダメージが加わらないように気をつけましょう。
高齢者の場合は、足腰の筋肉の衰えによる転倒・転落が大きな原因の一つです。そのため、足腰を鍛えて筋力をつけるとともに、家の中を整理して床にぶつかるものを置かない、階段に手すりをつける、絨毯やマットに滑り止めをつける、できるだけ段差を減らすなどの工夫が必要となります。
軽度外傷性脳挫傷の「軽度」とは、症状の軽さではなく意識障害の軽さです。つまり、意識はあっても症状は重いということもありますので、十分に注意が必要です。ところが、この疾患はまだあまり知られていないこと、MRIやCTなどの画像診断にはっきりと現れてこないことなどから、まだ確立した診断方法や治療方法がない状態です。
まずは脳にダメージを受けないよう、頭をダメージから守る予防をしっかり行いましょう。
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