記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2021/1/9
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
四十肩・五十肩は加齢が要因のひとつなので、なってしまうことはある程度仕方がないことです。しかし、適切な体操やリハビリを行うことで、発症や再発を防げる可能性があります。
今回は、四十肩や五十肩の原因や治療法、予防に役立つ体操や運動方法をご紹介します。肩こりの人にも役立つ体操なので、職場や自宅でのケアにぜひとも取り入れてください。
四十肩・五十肩の医学的な診断名は「肩関節周囲炎」と言います。肩関節周囲炎は、40〜60歳頃の年代に起こりやすいことから「四十肩・五十肩」と呼ばれています。年齢が上がるにつれて起こりやすくなりますが、若い人にも起きる可能性はあります。
肩を上げると痛む、手を後ろに回すと痛む、痛みで腕を水平に保てなくなるなどが代表的な症状です。日常生活では、以下のような困りごとの原因になります。
このような症状・困りごとは自然に軽減していきますが、対策をとらずに放置すれば、再発を繰り返すことになります。
肩関節は、関節のなかでもとくに可動性に秀でています。これは、人間の肩関節が、可動域の広さと安定性を兼ね備えているからです。
肩関節の関節窩(関節を作る骨のくぼみ)は、股関節のように深くできていません。自由な可動性がある反面、股関節のように深くはまり込んでいないので、安定力が乏しく外れやすい構造になっています。この不安定さを補き、肩関節の動きをスムーズにしているのが「回旋筋腱板(腱板:ローテーターカフ)」です。
炎症や組織変性、血行不良などで腱板がうまく機能しなくなると、肩の動きが悪くなったり、不安定になってしまい、筋肉や腱板、関節包、滑液包に炎症が起こり、四十肩・五十肩を引き起こすと考えられています(詳しい原因・メカニズムはわかっていません)。
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)には、急性期・慢性期・回復期の3つの段階があります。
一般的に言う急性期とは、病気のなり始めのことです。四十肩・五十肩で言えば、痛みが出始め、日常生活に支障が出る時期になります。急性期は症状がどんどん変化していく時期であり、適切な処置しなければ痛みはどんどんひどくなっていきます。
急性期は約2〜9カ月続くこともあり、安静時や夜間時の激しい痛みに悩まされることも少なくありません。この時期は安静が必要であり、三角帯(三角巾)での固定が必要になることもあります。
急性期の代表的な症状は、以下の通りです。
慢性期は4カ月〜12カ月ほど続くことが多く、急性期の激しかった痛みがだんだん治まり、鋭い痛みから鈍い痛みへと変化していき、動かしたときにつっぱり感が出ることもあります。
慢性期に入ると、夜間時痛や安静時痛が治まり「動かさなければ痛くない」状態になりますが、この時期に肩を動かさないままでいると、可動域が狭くなって「拘縮(こうしゅく)」が起こってしまうので、徐々に運動範囲を広げるリハビリが必要になります。拘縮で肩が動かなくなると、組織の癒着が始まり回復も長引いてしまうので注意が必要です。
回復期に入ると痛みはほとんど治まり、動かしても痛みが出なくなるので動かせる可動域も広くなります。積極的に運動で筋力と柔軟性を高め、可動域を広げるトレーニングが推奨されます。
腱板断裂や石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節性など、四十肩・五十肩と似た症状が出る肩の病気もありますし、頸椎の異常や内臓疾患、痛風、偽痛風で肩の痛みが出ることもあります。四十肩・五十肩の症状に気づいたときは、まず整形外科を受診し、四十肩・五十肩以外の深刻な病気が原因ではないか調べてもらいましょう。
四十肩・五十肩であれば基本的には保存療法で治療が行われ、急性期・慢性期・回復期それぞれに合わせた方法で治療が進められます。
急性期には、まず安静が指示され、痛みへの対症療法(痛み止めの注射や服薬)が行われます。必要に応じてアイシングや温熱療法が指示されることもあるでしょう。
また、「夜間痛」がひどいと、睡眠時間と睡眠の質が大幅に低下するため回復も遅くなってしまいます。寝ているときの肩や腕のポジショニングを工夫することで、夜間痛を軽減できることがあります。
肘を曲げ、肘が肩よりも下がった位置にならないようにするのが、ポジショニングのポイントです。できるだけ痛みが小さくなる姿勢を探りながら調整してください。
慢性期に入ると、温熱療法で血行を促したり、可動域を広げるリハビリを始めます。リハビリには、マッサージ、関節可動域訓練、筋力訓練、腱板機能訓練などがありますが、慢性期に無理をすると痛みがぶり返すことがあるので、医師や理学療法士の指示に従い、適切な方法でリハビリを行いましょう。
基本的には、他動運動や他動的ストレッチから始めて筋肉の回復を促し、少しずつ負荷を高めていきます。
回復期には可動域が大幅に広がり、日常生活の動きでは痛みがほとんど出なくなります。ただ、最終可動域では痛みや違和感が出ることがあるので、ストレッチ、筋力訓練、腱板機能訓練で筋力や柔軟性をさらに高めて最終可動域の痛みや違和感の回復を目指します。
回復期には自主トレーニングができるようになっていますので、ホームケアを積極的に行いましょう。ただし、回復期であっても、無理をすると筋肉や靭帯を痛める可能性があります。間違ったフォームになっていないかなど、医師や理学療法士に定期的にチェックしてもらいましょう。
最終可動域の痛みは回復しにくく、改善するまで数カ月以上かかることもあります。焦らず、気長に取り組むように心がけてください。
四十肩・五十肩を予防するためには、肩関節の柔軟性を高めることが重要です。肩関節の柔軟性のカギを握るのは「肩甲骨まわり」で、肩甲骨まわりにアプローチする体操やストレッチを行うことで、腱板や筋肉の筋力や柔軟性を高め、肩全体の安定性を向上し、可動域を広げることもできます。
簡単にできることを習慣化して少しずつ負荷を高めていくことが大切なので、まずは手軽にできる運動・体操からはじめしょう。
簡単な運動で筋力や柔軟性がある程度高まったら、より腱板にアプローチできる運動・体操を行い、肩関節の安定性と柔軟性をさらに高めましょう。
振り子体操は、腕の重みによる牽引が働きますし、重みによる反動を使うことで自分ひとりで他動運動に近い運動が行えます。前後の動きができるようになったら、円を描く動きにもチャレンジしてみましょう。痛みが出ないようなら、ペットボトルを持ちながら行うことで負荷を上げられます。
四つん這いになると手首が痛む場合は、手を握ってグーで身体を支えるか、手の下に柔らかいタオルなどを敷きましょう。
上記の運動は、姿勢のリセットにもなりますので、四十肩・五十肩だけでなく、肩こりの予防にも役立ちます。デスクワークや同じ姿勢が続く人、運動不足の人は、積極的に取り入れてください。
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の原因ははっきりわかっていませんが、加齢や運動不足による肩の動きの悪さが関係していることがわかっています。日頃から肩を動かす体操を取り組むことも大切ですし、慢性期から回復期のリハビリも重要になってきます。
痛みがある場合は医師や理学療法士の指示に従いながらリハビリに取り組み、痛みがない人は積極的に肩を動かすようにしましょう。