記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
狭心症は心臓に酸素や栄養を送る冠動脈という血管が狭くなって流れが悪くなる病気です。
狭心症と診断されたら、どのような治療が行われるのでしょうか?また、食事制限や定期検査は必要なのでしょうか?
この記事で詳しく見ていきましょう。
狭心症は冠動脈という血管の内部が部分的に狭くなることで血流が悪くなり、心臓に必要な酸素や栄養を送れなくなってしまう病気です。
原因のほとんどは動脈硬化であり、これは血管内にコレステロールや中性脂肪などでできたプラークという物質が沈着することで起こると考えられています。
また、狭心症は心筋梗塞(血管に血栓ができて血液が完全に塞がってしまい、細胞の一部が壊死している状態)の前段階でもあるので、できるだけ早い段階で治療することが望ましいです。
治療薬には発作を抑えるものと血栓(けっせん:血管内にできる血の固まり)ができないようにするものがあり、投薬はPCI(冠動脈ステント治療)と冠動脈バイパス手術と組み合わせて行われる場合もあります。
発作を抑える薬の代表的なものは、硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬です。
その他、血栓を防ぐ抗血小板薬や抗凝固薬などが用いられます。
硝酸薬は狭心症の発作に最もよく使われる薬です。
冠動脈はNO作動性血管と呼ばれる血管の一種で、NO(一酸化窒素)の働きによってcGMPという酵素が盛んに分泌され、血管が広げられます。
硝酸薬は冠動脈に直接作用してNOを産生し、狭くなった冠動脈を広げて心臓の血流を改善する効果があるのです。
硝酸薬は主に胸痛が生じたときに使われ、内服薬や舌下錠、注射、スプレータイプのものなど様々な薬型があります。
大部分は使用してから1~2分ほどで胸痛が改善しますが、副作用として急激に血圧低下が生じることがあるので注意が必要です。
心臓にはβ1受容体があり、心拍数や心臓の収縮力を上昇させる働きがあります。β遮断薬は、このβ1受容体をブロックし、心拍数や心臓の収縮力を低下させることで心臓の負担を軽減する効果を持ちます。
β遮断薬は、狭心症の中でもとくに運動によって胸痛が起こるタイプのものに使用されます。
運動を行うと、心臓に通常より多くの酸素が必要になるため、血流が増加する現象が生じます。冠動脈に細くなっている部分があると、その分血流が増加しにくく胸痛発作の原因となります。
β遮断薬は、このような狭心症に対して、心臓の負荷を軽減することで発作を予防する効果があるのです。
血管が収縮するには、血管の平滑筋にカルシウムイオンが流入する必要がありますが、カルシウム拮抗薬は、このカルシウムイオンの流入をブロックすることで、冠動脈の収縮を防ぐ働きがあります。
カルシウム拮抗薬は狭心症の中でも、冠動脈に器質的な詰まりがないものの、明け方などに冠動脈が痙攣することで胸痛発作が生じるタイプのものに使用されます。副作用が少なく、患者の予後を改善するとの報告もあり、日本では積極的に取り入れられています。
PCI(冠動脈ステント治療)はステントと呼ばれる金属でできた網目状の医療器具を血管壁に着けること(ステント留置)で、冠動脈の血管の内部を押し広げる治療法です。これによって冠動脈の血流が増えるため、心臓に必要な栄養素が送られやすくなります。
現在日本で使用できるステントは、通常の金属ステントと金属を薬剤でコーティングした薬剤溶出性ステントの2種類です。
また、体への負担が少なく、およそ3~4日の入院で血流が改善することが可能とされています。
以下にステント留置の手順を説明します。
上記のステント留置での治療が難しい場合は、冠動脈バイパス手術が選択されることがあります。
冠動脈バイパス手術では、冠動脈内のプラークで狭くなった部分より先にメスで穴を開け、そこにグラフトという患者自身から採取した血管を移植して、心筋まで血液が流れるように迂回路(バイパス)を形成します。この手術は、狭心症だけでなく心筋梗塞を起こしにくくする効果も期待できます。
グラフトとなる血管は、足の静脈(大伏在静脈)、心臓の近い胸の動脈(左右内胸動脈)、胃のそばにある右胃大網動脈などを使うことが多いです。
また、一般的には狭くなった部分は手を付けずに残しておきます。
狭心症の手術は、胸の真ん中にある胸骨を大きく「開胸手術」によって行われます。開胸手術は術後の痛みが強く、身体への負担が大きいため様々な合併症を引き起こすリスクがあります。
手術の合併症としては、以下のようなものが挙げられます。
この中でも最も問題となる合併症は、脳梗塞であり、3%ほどの確率で発症するとされており、死に至ることもあります。また、人工心肺を用いて手術を行うため、腎機能低下を引き起こすことがあり、悪化すると人工透析が必要になるケースも少なくありません。
手術後の後遺症としては、心臓の機能が悪化することによる心不全や、脚の血管を切除することによるむくみなどが生じることがあります。
このように、狭心症の手術では手術直後や長期的に様々な合併症や後遺症を遺すことがあります。術後も定期的に検査を受けて全身の状態を管理していくようにしましょう。
狭心症の原因は冠動脈の詰まりですが、大部分は動脈硬化が原因となります。このため、薬による治療だけでなく、高血圧や糖尿病、高脂血症、肥満などを防ぐ食生活が必要になります。
明確な基準のある食事制限は行われませんが、減塩を心がけ、適正なカロリーを遵守した食事が勧められます。
狭心症の代表的な症状は胸痛です。
明け方や運動、食事の後に突然胸が痛くなり、数分で治まるのが特徴です。共通の程度には個人差があり、汗をかくほどの痛みを感じることもあれば、違和感を覚える程度の人もいます。ズキズキ痛むのではなく、胸を強く押されるような痛みを感じる人が多く、呼吸苦を感じることもあります。
また、左胸が痛むだけでなく、肩や首、腹部が痛むことがありますが、これは放散痛と呼ばれるものです。中には、歯の痛みを感じて歯科医院にいったところ詳しい検査をして狭心症と診断されることもあります。狭心症は必ずしも痛みが胸にだけ生じるわけでないことを覚えておきましょう。
痛みは数分で治まるため、そのまま未治療の人も多いですが、狭心症は放置するとさらに冠動脈が詰まって心筋梗塞を発症する危険が高まります。
狭心症が疑われる症状がある場合には、放置せずになるべく早く病院を受診し、適切な検査・治療を受けることとおすすめします。
狭心症の診断は基本的に心電図や超音波検査(心エコー)などによって行われます。より詳細な観察が必要な場合は、冠動脈のCT検査や、カテーテルを体内に挿入し心臓や冠動脈の状態を観察・撮影するという手段が取られます。
狭心症は進行すると心筋梗塞につながる可能性が高いので早めの治療が必要ですが、治療法は患者の体質や病状、医師の判断などによって異なります。気になる体の変化や症状があるときは早めに検査を受け、主治医とよく相談しながら自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
この記事の続きはこちら