記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
廃用症候群とは、ケガや病気などで長期間安静にしていたり寝たきりになったりしたことで起こる体や心のトラブルのことです。本人や周囲にとって大きな弊害になる可能性があるため、問題が起こる前に対処する必要があります。
廃用症候群で起こりやすい病気やトラブルを紹介していくので参考にしてください。
廃用症候群とは、過度の安静や長期臥床(長く寝たきりでいること)によって心身に生じる、さまざまな機能低下の総称です。
長期間ベッド上だけで寝たきりの生活を送っていると筋肉を使わないため、筋肉の機能低下により、骨や関節、皮膚、心臓、呼吸器、消化器、尿路など身体全体の不調の原因になる可能性があります。
廃用症候群は、1つの病気を指すのではなく、その中には後述するような様々な病気や症状を含むものです。
廃用症候群によって生じる病気として、身体的には、まず筋骨格系の症状が挙げられます。筋肉がやせおとろえる筋萎縮、関節の動きが悪くなる関節拘縮、骨がもろくなり折れやすくなる骨萎縮などが典型的です。
心臓からの血液の排出量が減少する心機能低下、急に立ち上がるとふらつく起立性低血圧、血管に血のかたまりがつまる血栓塞栓症など、心血管系の病気になる可能性があります。また、飲み込む力が低下し、食べ物が誤って肺に入ることによって引き起こされる誤嚥性肺炎などが起こる可能性もあるため、呼吸器系のトラブルにも注意する必要があるでしょう。
腎臓、尿管、膀胱に石ができる尿路結石や、細菌感染によって尿路感染症などを発症しやすくなるといわれています。
また、自律神経の乱れによる、便秘、尿失禁、便失禁、低体温症なども指摘されています。
ベッドに臥す時間が長いために褥瘡(床ずれ)が生じやすくなります。
精神面での症状として、うつ状態やせん妄が現れることがあります。その他、やる気の減退、食欲不振、不眠、仮性痴呆や認知症の悪化などの原因になる可能性があります。
廃用症候群の特徴は、1つの症状が引き金となり、雪だるま式に様々な症状が派生していくことにあります。
例えば、認知症が進むことで抑うつになり、段々と動く意欲が低下し身体を動かさなくなってしまい、さらに筋力の低下が進むといった状況に陥ることもあるのです。このままさらに進行すると、褥瘡(床ずれ)になりやすくなり、関節拘縮も一層進行するといった悪循環が起こってしまいます。
1週間の寝たきり状態でも筋力は10~15%程度低下するといわれており、特に高齢者の場合はより顕著に筋肉の低下が現れます。廃用症候群にかかることで、筋力低下を皮切りにさまざまな病気の発症リスクが高まります。
これは行動の制限や身体機能の衰えなどによりQOL(Quality of Life:生活の質)も著しく低下することにつながり、精神的にも落ち込み、前向きに生きていく意欲を失い一気に衰弱してしまうことにもなりかねません。廃用症候群は、軽視できない問題といえるでしょう。
廃用症候群は薬などで予防することができず、身体を定期的に動かして寝たきり状態を避けるしかありません。
歩行ができる人は、転倒に注意しながらなるべく歩く機会を増やし、座位が可能な人では腕や脚の関節を動かす運動を行います。また、寝たきりの人でもできる限り動かせる部位は動かすようにし、関節の拘縮を防ぐためにも麻痺などがある部位には介助者が他動的な運動を取り入れる必要があります。
また、これらの訓練は毎日続ける必要があり、骨粗鬆症などで骨折が生じやすい高齢者では転倒や椅子からの転落を防がなければなりません。このため、家族や周囲の人の注意が不可欠となります。周囲の人が廃用症候群を防ぐことの大切さをよく理解し、協力できる環境を整えるようにしましょう。
廃用症候群は、いったん寝たきりになると、筋力低下をはじめ、身体・精神両面でさまざまな症状が連鎖して負のスパイラルを招くおそれがあります。悪循環を断ち切るためには、予防とリハビリを意識し、長期臥床にひそむ危険性をできるかぎり取り除くことが重要です。そのためには、周囲の理解と支えが求められます。
周囲の人は、積極的にコミュニケーションを取るようにしながら、サポートしてあげるようにしてください。
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