記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/9/12 記事改定日: 2019/8/8
記事改定回数:2回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
赤ちゃんによく見られる運動として、背中をピンと反らせてつっぱる「反り返り」があります。反り返りながら泣く赤ちゃんは、抱っこするのにも一苦労です。
この反り返りは脳性麻痺や自閉症のサインともいわれていますが、それは本当なのでしょうか?また、脳性麻痺の疑いがある場合はどんな検査をするのでしょうか?
脳性麻痺は、運動に関する筋肉に異常が出る疾患です。赤ちゃんの頃には、母乳を吸ったり飲み込んだりする力が弱いほか、特におすわりやハイハイなどの運動機能の発達の遅れとしてあらわれることが多いです。早産(妊娠37週未満)や低体重児(2500g未満)で生まれた場合、正期産(妊娠37~41週)で生まれた赤ちゃんと比べて脳性麻痺のリスクが高くなります。
これらの症状が頻繁で継続的に起こる場合、脳性麻痺が疑われます。しかし、1~2歳ごろまでは、健常児であっても骨格や筋肉の発達が不十分でこれらの症状が起こることはありえます。このため、症状だけで脳性麻痺の赤ちゃんとそれ以外を見分けることは、専門家でも難しいことがあります。
関連記事:脳性麻痺の症状っていつ頃出てくるの?症状・治療法は?
反り返り自体は、脳性麻痺の赤ちゃんに限らず、全ての赤ちゃんでよく見られる現象なので不安がる必要はありません。反り返りの原因はまだ明らかになっていませんが、主に以下のような原因で反り返りをすると考えられています。
これらは、全て正常な発達過程で起こることです。特に、寝返りの練習は4~5カ月ごろに頻繁に起こります。抱き上げている時ではなく、寝ている時に多いのであれば心配の必要はありません。
また、これらの症状は多くは生後半年程度で首がすわり、上半身の筋肉が発達していくことで減っていきます。概ね1歳くらいまでには、反り返りがなくなるのが一般的です。
関連記事:赤ちゃんが寝返りをしだす時期とおすすめの練習方法とは?
反り返りは、脳性麻痺の赤ちゃんに特有の現象ではないため、反り返りをするかしないかで脳性麻痺かどうかを判断することはできません。反り返りが多いことと、脳性麻痺であることはイコールではないことに注意しましょう。
脳性麻痺が疑われる場合、反り返りの多さに加え、先の項目で紹介した脳性麻痺児の特徴がみられるかどうか、また、運動機能の発達が月齢相応か、などで総合的に判断されます。反り返り以外の症状がない場合は、脳性麻痺の可能性は低いと考えて良いでしょう。
赤ちゃんに脳性麻痺の疑いが強いと考えられる場合、以下のようなテストや検査を行います。
脳性麻痺の場合、運動機能の障害であることから、年齢相応の発達をしているかを検査する運動機能テストが第一に選択されます。その後、視覚検査・聴覚検査・知能テストなどは特に症状が疑われる場合に必要に応じて行われます。
症状とこれらのテストを照らし合わせ、脳性麻痺の疑いが強まった場合は、血液検査・髄液検査、脳電図検査、MRIやCTなどの画像診断によって確定診断をします。
赤ちゃんの場合、検査やテストは非常に慎重に行われます。特に、MRIやCTなどは長時間であったり、X線を使用することから、赤ちゃんにとっては負担が大きい検査になります。よって、まずは非侵襲的な運動機能テストや知能テストなどから順に行い、特に脳性麻痺の疑いの強い赤ちゃんにのみ画像診断を行うことになります。
赤ちゃんが重度の脳性麻痺であると診断された場合、「産科医療補償制度」という家庭の経済的負担を補助してくれる制度があります。これは、重度の脳性麻痺の赤ちゃんには継続的な看護・介護が必要であり、家族に経済的な負担が大きくなることから、安心して分娩・出産ができるよう国から支払われるお金です。
また、脳性麻痺の赤ちゃんを素早く発見・把握し、情報提供を得て原因分析を行うことで、産科医療の質を上げ、再発防止をはかる目的もあります。分娩機関に過失がなくても支払われ、公正な第三者として日本医療機能評価機構が運営しています。
産科医療補償制度の対象となるのは、重度の脳性麻痺の赤ちゃんです。この基準は2015年に改められ、産科医療補償制度の始まった2009年から2014年末までに出生した場合と、2015年1月1日以降に出生した場合で対象が変わります。
また、いずれの場合も生後6カ月未満で死亡した場合は補償の対象外です。また、補償申請の時点での障害者手帳の有無は審査に関係しません。
2009年1月1日から2014年12月31日までに出生した赤ちゃんには、出生体重が2,000g以上で在胎週数が33週以上という規定があります。ここが2015年1月1日以降との大きな違いです。
2015年1月1日以降に出生の赤ちゃんの場合、出生体重が2,000g以上で在胎週数が33週以上という規定があります。ここが2009年1月1日から2014年12月31日までとの大きな違いです。
専門の医師による専用の診断書を書いてもらい、必要書類と合わせて分娩機関に提出、補償認定を依頼します。
申請可能な期間は満1歳の誕生日から満5歳の誕生日までの間です。これは、生後間もない新生児では脳性麻痺の判断が難しいためで、明らかな障害が認められ、脳性麻痺と診断される場合は生後6ヶ月以降でも依頼が可能です。
補償の対象として認定されると、一時金600万円、分割金2,400万円の総額3,000万円が補償されます。分割金の2,400万円は年間120万円を20年間に渡って給付されます。
脳性麻痺では、首や関節などに過剰な負担がかかることによって、頚椎症や変形性関節症などの二次障害を引き起こすことがあります。これらの二次障害は、痛みを引き起こすだけでなく、進行すると歩行障害や神経麻痺などを発症することもあります。特に頚椎症では病変が生じる部位によっては呼吸を司る脊髄神経にダメージが加わって呼吸不全を引き起こすこともあるため、決して看過することはできない症状と言えます。
このため、脳性麻痺を診断された場合には、なるべく早くから歩行訓練や筋力トレーニング、ストレッチなどを行って二次障害の発症を防ぐことが大切です。療育は診断が下されると同時に行うのがよく、乳児の場合には筋肉のストレッチやマッサージ、関節可動域訓練などが行われ、立位や歩行が可能な年齢ではこれらの他に歩行訓練や姿勢を維持するための訓練が行われるのが一般的です。
反り返り以外の他の症状がみられなければ、脳性麻痺の可能性は低くなります。ただし、ほかの症状も多くみられる場合は脳性麻痺の可能性が高くなりますので、病院で診てもらいましょう。
この記事の続きはこちら