ダイエット目的で胃のバイパス手術をするのはどんなとき?リスクは?

2018/10/7

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

肥満が深刻な人の治療法として、胃のバイパス手術という外科的手法が使われることがあります。食事療法や運動療法をしなくてもよいというわけではありませんが、病的な肥満の人には非常に効果的な治療法として知られています。
では、実際にバイパス手術が適応となるのはどのようなときなのでしょうか?また、どのようなリスクがあるのでしょうか?

ダイエット目的で行われるのバイパス手術とは

ダイエットを目的として行われる胃の手術には、胃バイパス術・スリーブ胃切除術・胃バンディング術・胃内バルーン挿入術の4種類があります。

胃バイパス術
ルーワイバイパス術とも呼ばれ、アメリカなどではゴールドスタンダード=効果や術式の精度が高いものと広く容認されており、最も多く行われている手術です。
胃を上部の20〜30ccの小袋と下部の残り部分に分け、上部に小腸をつなげて消化・吸収を調節します。分けた後の胃は取り除かず残したままにしておきます。
スリーブ胃切除術
胃の外側部分を大きく切除し、胃の容量を少なくする方法です。
現在日本では最も多く行われている術式ですが、胃を切り取ってしまうため、元には戻せません。
胃バンディング術
胃の上部にバンドを巻いて締めつけることで、食事の摂取量を調節する方法です。
バンドを取り外せば元の状態に戻せるため最も侵襲性が低い方法ですが、効果もバイパス手術やスリーブ切除術と比較すると低い傾向にあります。
胃内バルーン挿入術
胃の中に入れたバルーンを膨らませ、食事の摂取量を少なくする方法です。
バルーンは最大6ヶ月(最新タイプで12ヶ月)の留置となり、2回目以降の挿入はできません。

この他、胃バイパス術とスリーブ胃切除術の2つを組み合わせたスリーブバイパス術という手法もあります。

バイパス手術の詳しい手法とは?

バイパス手術(腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術)は、以下のような手法で行われます。

  • 胃を「上部の20〜30ccの小袋」と、「下部の残り」に切り分ける
  • 上部の小袋に小腸をつなぐ。このとき、つなぐ小腸の長さを調節し、栄養の吸収の程度を調節する
  • つないだ小腸の途中に、残りの胃から繋がっていた小腸をつなぎ、消化・吸収に必要な胆汁と膵液の分泌経路を確保する

胃の下部には十二指腸という小腸の一部があり、この部位に胆汁と膵液が流れ込みます。胆汁や膵液にはさまざまな消化液が含まれているので、術後の消化・吸収のプロセスに支障をきたさないために分泌経路を確保する必要があります。

バイパス手術のメリット・デメリットは?

バイパス手術(腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術)のメリット・デメリットは以下のようになっています。

メリット
  • 平均で1年後には増えすぎた体重の77%を減量、さらに10年以上経っても60%減量を維持
  • 腰痛や関節痛、糖尿病、高血圧など、肥満に関連する合併症の90%以上が改善
  • 米国の減量手術の約8割を占める、最も古くから最も多く行われている手術
デメリット
  • 消化・吸収を制限するため、鉄・カルシウム・ビタミンサプリの内服が必須
  • 食事が通る部分が狭くなるため、吐き気や嘔吐が生じることがある
  • 残してある部分の胃に病変が生じた場合、内視鏡やバリウムでの検査ができなくなる
  • 飲食後、ダンピング症候群を起こすことがある
  • 小袋部分が元の胃同様大きくなり、効果が充分得られないことがある
  • 外科的手術での一般的なリスク(感染・出血・縫合不全・心臓発作など)がある

バイパス手術(腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術)は、胃を小さくして物理的に食事の許容量を減らし、少しの食事で満腹感を得られるようにする方法です。また、小腸の長さを調節することで吸収する栄養分も少なくするため、減量の効果を長期間維持することができます。肥満を解消することで合併症の改善・予防ができます。さらに、最も古くから、そして多く行われてきた実績があるため、イレギュラーにも対応しやすいことが大きなメリットです。

反面、糖質や脂質以外の鉄分やビタミン・ミネラルといった体に必須な栄養素の吸収も制限されてしまうため、術後は必要に応じてサプリメントを内服する必要が生じます。また、食事の摂り方にも工夫が必要で、固形物を大量に流し込むとダンピング症候群という症状を引き起こす場合があります。

メリット・デメリットをよく理解し、術後は食事量や摂り方に気をつけて過ごしましょう。

ダイエットで胃のバイパス手術をするのはどんなとき?

ダイエット目的で胃のバイパス手術を行う必要があるのは、「BMI値が40kg/㎡以上、または35kg/㎡以上かつ肥満が原因の合併症を発症していて、内科的な治療が効果をなさなかった(アメリカ肥満代謝外科学会)」人とされています。

しかし、これはアメリカでの基準であり、アジア人は欧米人と比較してBMI値が低くても糖尿病などの合併症を発症しやすい「隠れ肥満」(※内臓脂肪蓄積型肥満)の人が多いため、日本では「BMI値が30kg/㎡以上で、肥満に関する合併症を発症していて、内科的な治療が効果をなさなかった」人を治療の対象としている病院もあります。

外科的手術は侵襲性の高い治療法であるため、デメリットの項目でもご紹介したとおり、感染や出血によるリスクがゼロではありません。最悪、心臓発作や肺炎などを起こして死亡する可能性もあります。ですから、あくまでも美容の目的ではなく、肥満や関連する合併症によって生活に支障がある場合や、生命が脅かされる場合に手術を考慮すべきであると考えられています。

また、胃のバイパス手術ができない人もいます。主に以下のような場合は、バイパス手術を行うことができません。

  • 肥満の原因が内分泌疾患や薬物によるものである場合
  • 全身麻酔が行えない場合
  • 術後の食事療法が難しいような精神疾患がある場合
  • 薬物依存・アルコール依存の場合
  • ご家族の理解が得られていない場合

肥満の原因が内分泌疾患や薬物によるものである場合、薬の変更を行うことや、疾患の治療を行うことで肥満が解消できる可能性が高いです。そのため、手術というリスクを背負うことなく肥満を解消する方法が優先されます。また、合併症が進行しているなどの理由で全身麻酔が行えない場合は、まず内科的な治療である程度状態が良くなってから手術をすることもあります。

術後の食事療法や、生活習慣の改善ができないような精神疾患や、薬物・アルコール依存の人は、手術をしても十分な効果が得られると見込めないだけでなく、合併症を生じる可能性が高いため、手術を行うことができません。また、手術への同意が必要ですから、家族の理解がない人も手術を受けることはできません。

バイパス手術後の食事で気をつけることは?

胃のバイパス手術後は、食事療法や運動療法を行う必要があります。胃の容量が少なくなるため、食事の量を減らすことはできますが、術前と同じような食生活を続けていると小袋の胃が大きくなってしまい、一時的に体重が減少してもリバウンドによって元に戻ってしまう可能性があります。ですから、術後は食事量や食事の内容の見直しとともに、運動療法も行っていくことが大切です。

食生活で気をつけることは、以下の3つです。

  • 食べ方を工夫する
  • 必要な栄養素を補う
  • ダンピング症候群を起こさないようにする

まず、食事の摂り方に注意する必要があります。術後は流動食から始め、1ヶ月ほどかけて徐々に固形物に慣らしていきます。また、食べ方もスプーン1杯ずつゆっくりとよく噛んで飲み込み、1口終わったら3分程度休む、などして胃に負担をかけないようにしましょう。

また、小腸を短くすることで消化・吸収を制限しているため、必要な栄養素も不足しがちになります。サプリメントなどで鉄分やカルシウム・ビタミンを補うほか、タンパク質や水分もしっかり摂取しましょう。水分は1日2Lを目標に摂取すると良いでしょう。

ダンピング症候群とは?起こさないようにはどうすればいいの?

ダンピング症候群とは、バイパス手術によって胃液の分泌が少なくなり、食物が十分に消化されないまま小腸に流れ込んでしまうことで起こる症状です。自覚症状は、冷や汗・動悸・めまい・全身のだるさ・顔面紅潮などがあります。

ダンピング症候群には2種類あり、それぞれの原因・症状・対処法は以下のとおりです。

種類 原因 症状 対処法
早期ダンピング症候群 食後30分以内に起こる。

食物が胃から小腸へ急速に流れ込むことで起こる

食物を吸収しようと全身の血液が一気に小腸に集まることで、他の臓器の血液が少なくなる 横になってしばらく休む
後期ダンピング症候群 食後2〜3時間後に起こる。

食物が急速に流れ込むことで、血糖値が急激に上がることで起こる

血糖値を下げようとインスリンが大量に分泌されるため、低血糖状態になる 砂糖湯やガムシロップなどを適量摂取する

早期ダンピング症候群は、勢いよく流れ込んできた食物を急いで消化しようと起こる現象で、後期ダンピング症候群は、急速に流れ込んできた食物によって血糖値が急激に上がり、血糖値を下げようとインスリンが大量に分泌されてしまうことで起こる現象です。

どちらも、対処法で最も重要なのは食べるときに急がず、ゆっくりとよく噛んで食べることです。また、後期ダンピング症候群を起こしやすい、すなわち食後の血糖値を急激に上げてしまいやすい砂糖の摂取はなるべく控えるようにしましょう。

おわりに:バイパス手術は美容目的ではなく、生命が脅かされる可能性があるときに行われる

ダイエット目的とは言っても、バイパス手術は外科的な手法であるため、感染症や出血などのリスクがゼロではありません。ですから、美容のためではなく、あくまでも肥満によって生命が脅かされる、日常生活に支障が出るなどの場合に手術が行われます。

また、手術したからと言って、食事療法や運動療法をしなくてもいいわけではありません。適度な運動と食事療法を継続的に行うことが、健康への第一歩です。

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