記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/11
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腎臓には、血液中の老廃物や余分な水分をろ過して尿を作る機能があります。腎機能が低下するとこれらの機能も低下するため、体外に老廃物や毒素を排出できず、尿毒症という全身の臓器に機能障害を起こす疾患に進行する危険性があります。
では、腎機能が低下する原因に、高血圧や糖尿病は関係しているのでしょうか?また、影響があるとすればどのように病態が進行するのでしょうか?
高血圧は、食生活の偏りや運動不足が続くなどして、生活習慣が乱れると起こりやすくなります。高血圧の目安は上の血圧(収縮期血圧)が130mmHg以上、下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上です。
腎臓の機能が低下すると、余分な塩分や水分を排泄しにくくなり、血液の量が増えます。すると、血圧が上がり、高血圧の状態になります。血圧が上がるとますます腎臓に負担がかかり、機能が低下する、という悪循環に陥ってしまうのです。腎臓の機能を守るためにも、高血圧にならないよう、日頃の生活習慣が大切です。
腎臓の働きは主に「末梢血管での血液内老廃物の除去」「塩分(ナトリウム)と水分(尿)の調節」「血圧を調節するホルモンの分泌」があります。
高血圧になると、まず腎臓内に無数に張り巡らされているごく細い末梢血管に影響があります。血圧が上がると末梢血管が硬くなり、血液が流れにくくなります。血液が流れにくくなった血管にはさらに大量の血液が押し寄せるため、どんどん血圧が上がってしまいます。
末梢血管が硬くなり、腎臓のろ過機能が低下すると、余分な塩分や水分を体外に排出できにくくなります。さらに、血圧を調節するホルモンの分泌機能も低下することで、上がった血圧を下げられなくなります。こうした一連の悪循環により、高血圧はなかなか治りにくく、腎臓の働きも元に戻りにくくなってしまうのです。
高血圧が続くと、腎臓内に張り巡らされた末梢血管の細胞が増殖し、血管の壁が硬くなります。すると、血管の内腔が狭くなり、血液の流れる量が減ってしまいます。これは動脈硬化の一つで、細動脈硬化と呼ばれる現象です。血液が腎臓の血管内を十分に流れることができなくなると、血液中の老廃物を十分にろ過することができなくなり、腎臓の働きが悪くなります。
この状態を腎硬化症と呼びます。腎硬化症は、高血圧が続いた場合ほか、年齢を重ねて血圧が高くなっていくことで進行していきます。腎硬化症が進行すると、慢性腎不全に陥ることがあります。腎硬化症から慢性腎不全を発症した場合、腎臓以外にも動脈硬化が進行しているため、心筋梗塞や脳卒中など、生命に関わる疾患につながるリスクが高いと考えられます。
腎硬化症は、従来はほとんど高齢者でしか発症しない疾患でしたが、最近では、メタボリック症候群などで早ければ30代でも発症する人が増えてきています。
初期症状は、高血圧による肩こり・めまい・頭痛などです。しかし、腎臓の働きが低下することによる自覚症状はほとんどないため、気づかれないまま腎臓の症状が進んでしまうことが多いです。健康診断で尿検査を行うと、尿蛋白が検出されることで腎機能の低下が発見されることもありますが、尿蛋白の反応が陰性であることも少なくありません。また、血尿は認められません。
眼底検査では、高血圧や動脈硬化の程度がある程度判定できます。眼底検査で高血圧の傾向が認められれば、腎機能検査として血液検査でクレアチニンの濃度を測定することが推奨されます。クレアチニンの濃度に異常があれば、高血圧からの腎機能低下と診断されます。
糖尿病とは、血液中のブドウ糖の濃度が高い、すなわち血糖値が高い高血糖状態が続く疾患です。慢性的な高血糖状態となると、血液が常に砂糖水のようにドロドロな状態となり、血管内を流れにくくなるため、血管の壁を傷つけてしまいます。血管の傷害は細い血管から順に起こりやすいため、眼底や腎臓などにある末梢血管は初めに傷害されやすいのです。
腎臓内の血管が傷害されると、通常は尿中に出てこないタンパク質が尿中に漏れ出し、逆にろ過されて排出されるべき老廃物や余分な水分などがろ過されにくくなります。この状態を、糖尿病性腎症と呼びます。糖尿病性腎症が進行したまま治療せずに放置してしまうと、腎機能が悪化し続け、高血圧と同様に最終的には慢性腎不全になってしまいます。
最近の報告では、慢性腎不全から透析を受ける患者さんの原因疾患は糖尿病性腎症が最も多く、4割以上を占めています。糖尿病性腎症の発症や進行を防ぐために、生活習慣や食生活などの血糖コントロールを行いながら、糖尿病の治療をしていくことが大切です。
糖尿病性腎症は、疾患の進行具合によって1〜5期の病期に分類されます。
第1〜2期では、自覚症状はほとんどないため、尿検査で微量の尿蛋白が漏れ出しているのを検出することでしか疾患を発見できません。つまり、見つかるのは第2期の状態であることがほとんどですが、この段階で疾患を発見することができれば、適切な治療を行うことでタンパク質が漏れ出ることのない健康な状態にまで回復することができます。
第3期では、むくみや息切れ・胸苦しさ、食欲不振、膨満感などの自覚症状が出てきます。この段階では、尿中に漏れ出てくるタンパク質の量が増えてくるため、タンパク尿と呼ばれる状態になります。第4期・5期では、顔色が悪い、吐き気・嘔吐、筋肉の痛みやつり、手のしびれや痛み、腹痛や発熱などの症状が見られます。これらは腎不全の症状であり、この状態まで病態が進行すると、人工透析や腎移植が必要となります。
第3期以降では、健康な状態にまで回復することはできず、病態の進行を遅らせる治療を行うことになります。ですから、できるだけ第2期の段階までに腎症を見つける必要があります。ただし、全ての患者さんで同じように病態が進行するわけではなく、漏れ出るタンパク質が少なくても濾過機能が低下する場合などもあります。
高血圧や糖尿病は、全身の血管に対して傷害を及ぼす動脈硬化という疾患を引き起こします。動脈硬化によって腎臓の機能が低下すると、血圧を下げることができなくなったり正常にろ過機能が働かなくなったりするため、悪循環に陥ってしまいます。
慢性腎不全の状態にまで病態が進行する前に、腎機能低下を早期発見することはもちろん、高血圧や糖尿病そのものを放置せず、適切に治療をしていくことが重要です。
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