記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
現在、日本人の死因の第一位を占める「がん」。がんといえば大腸がんや肺がん、乳がんなどがぱっと思い浮かびますが、そういえば心臓のがんは聞いたことがないのでは?
そこで今回は、心臓にがんができることはあるのかや、心臓に腫瘍ができたときの症状などを紹介していきます。
細胞が異常に増殖したり、何らかの組織や液体が溜まったりしてできる腫瘍のうち、悪性のものを「がん」と呼びます。生涯でがんと診断される人は日本人の約半数ともいわれます。それだけ身近ながんは、身体のあちこちでできる可能性がありますが、心臓にできることは少ないとされています。その理由は明確には証明されておらず、いくつかの仮説があります。
まず、心臓を構成する細胞が分裂をしないためという説があります。心臓の筋肉(心筋)は、休むことなく常に動いている特殊な筋肉です。他の臓器の細胞は、細胞分裂をして数を増やしたり、作り変えられたりしていますが、心筋を構成している横紋筋は細胞分裂を起こしません。がんは、細胞が異常に増えてしまう病気です。細胞分裂を起こさない心筋細胞から構成される心臓では、がんが生じないという説です。
次に、がんの細胞は高温に弱いためという説があります。がんの細胞は39℃以上になると増殖が止まり、体温が42℃を超えるとほぼ死滅してしまうといいます。心臓内は、体の中でも最も体温が高く、平熱時でも40℃近くあります。そのため、たとえがんの細胞が存在しても、熱によって死滅してしまうのではないかという説です。
最後に近年、心臓からもホルモンが分泌されていることがわかってきました。中には、肺がんの手術後の転移に関わるものもあるとされており、研究が続けられています。心臓から分泌されるホルモンは、心筋が大きくなったり組織が壊れたりすることを防ぐほかに、がんが生じることも抑制しているのではないかという説があります。
心臓の腫瘍は珍しいとはいえ、全くないというわけではありません。がんだけではなく、良性の腫瘍も生じることもあります。
粘液腫とよばれる良性の腫瘍は、腫瘍そのものが心臓に悪さをすることはありませんが、生じた場所によって血液の流れを邪魔したり、腫瘍のかけらが血流にのって大きな血管をつまらせてしまうことがあります。脳の血管が詰まれば、脳梗塞が生じることもあります。そのため、たとえ良性の腫瘍であっても手術によって摘出することになります。
悪性腫瘍であるがんには、心臓にできた原発性のものと、他の臓器にできたがんから、血流にのってがん細胞が心臓にたどり着いて生じる転移性のものがあります。心臓に転移したがんは、予後が不良といわれています。がんの治療には、外科的な手術、放射線治療、抗がん剤による化学療法を組み合わせて行いますが、残念ながらあまり効果が得られていません。
心臓に腫瘍ができると、腫瘍によって血流が悪くなることで、めまいや息切れといった自覚症状があります。また、気を失ってしまうということもあります。腫瘍の位置や大きさによっては、血液の流れを止めてしまうことで突然死を引き起こす危険もあります。
腫瘍のかけらが血管内にこぼれ出してしまい、脳梗塞につながったり、心臓につながる大きな血管である冠動脈をつまらせて心筋梗塞を招くということもあります。
心臓の腫瘍を小さくするための薬はなく、悪性や良性に関わらず手術で取り除くことが原則となります。心臓は、全身の血流を担うポンプです。そのため、心臓の手術を行うためには、心臓の動きを人工心肺に代わってもらってから、腫瘍を摘出することになります。手術には脳梗塞、肺の障害、多臓器機能低下などのいくつかの合併症のリスクが伴います。
良性腫瘍であれば、手術によって全ての腫瘍が取り除かれれば生活や運動に制限がないまでに回復するでしょう。ただし、良性腫瘍の粘液腫では、再発の可能性があるため経過観察のための受診は必要となります。悪性腫瘍の場合は、合わせて化学療法や放射線治療といった方法や、生活方針の検討などが行われていくことになります。
腫瘍は、心臓にもできる可能性があります。心臓にできる腫瘍は珍しく、良性と悪性では良性腫瘍の方が多くみられます。しかし腫瘍があることで血流がさまたげられたり、血管が詰まったりすることで、命にかかわることもあります。そのため、どんな腫瘍も外科的な手術で取り出すことが大切です。手術にはリスクもあり、手術後も症状に合わせた治療の検討や経過観察が必要となるでしょう。
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