心筋梗塞から回復するために、どんな手術をするの?

2019/1/17

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

心筋梗塞という、心臓の筋肉に血液が行き届かなくなる症状が起こった場合、回復のためにはどのような治療を行うのでしょうか?また、心筋梗塞に対して手術による治療を行う場合は、治療の流れや内容としてはどのように行うのでしょうか?

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心筋梗塞のときに行うカテーテル治療とは

突然起こる心筋梗塞を、「急性心筋梗塞」といいます。急性心筋梗塞では、冠動脈が突然詰まって心臓そのものを動かすための血液が停止してしまうため、放っておくと心臓の細胞が壊死してしまいます。そこで、詰まった冠動脈に対し、できるだけ早くもう一度血液が流れるようにする「再灌流療法」という治療が行われます

「再灌流療法」には薬剤によるもの(血栓溶解療法ともいう)とカテーテルによるものの二種類があり、メインとなる治療法はカテーテルによる治療法です。そこで、カテーテルによる治療ができる病院が近くにある場合は、すぐに搬送しカテーテル治療を行います。カテーテル治療のうちでも、とくにステント治療を行うことで予後が良いことがわかっています。

しかし、カテーテル治療を行える病院が近くになく病院へたどり着くまでに時間がかかる場合は、まず近くの病院で薬剤による再灌流療法を受けます。冠動脈が詰まったままにしておくことが最も危険なことですから、先に薬剤で血栓を溶かし冠動脈の詰まりを少しでも解消して血液を流れるようにしてから、カテーテル治療を行える病院に再度移動してステント治療を行うのです。

再灌流療法を行う場合は、スピードが非常に大切です。発症してから6時間以内がゴールデンアワーと呼ばれる時間帯であり、この時間内、それも1〜2時間以内に処置を行った場合が最も治療の予後が良いことがわかっています。そのため、カテーテル療法をすぐに実施できない場合はまず薬剤からでも良いので1〜2時間以内に初めの処置を行うことが大切なのです。

カテーテル治療の流れって?

カテーテル治療は、以下のような流れで行われます。

  • 患者を検査台の上に仰向けにし、清潔な布で覆う
  • 局所麻酔を行い、足の付け根の動脈からカテーテルを入れていく
  • カテーテルを冠動脈まで到達させ、造影剤を注入して狭窄の場所を撮影する
  • 狭い部位をバルーンで膨らませるなどして確認する(ステント治療を同時に行う場合、閉じた状態でステントを挿入した後、ステント内でバルーンを膨らませて血管の内腔の広さを確保する)
  • バルーンを収縮させ、ステントを留置する
  • 冠動脈の検査・ステント治療が終わったら、カテーテルを入れた穴からの出血を止める

カテーテル治療は局所麻酔で行うため、痛みはほとんど感じません。造影剤が入る際に体が熱くなったり、冠動脈の狭い部位を膨らませる、ステント治療を行うなどの場合に狭心症のような症状を感じたりする場合がありますが、異常ではなくしばらくすると消えますので、心配はいりません。

カテーテルを入れた穴の止血は、通常医師の手による圧迫で行います。そして、出血が止まった後に再出血が起こらないよう、しばらくは安静にしている必要があります。ただし、長時間の安静に耐えられない場合は安静時間を短くする目的で特殊な器具による止血を行うこともあります。また、ステント治療を行った場合は冠動脈に入れたステントの中で血液が固まらないよう、チクロビシンなどの抗血小板剤を服用し、血液を固まりにくくする必要があります。

心臓のバイパス手術ってどんなことをするの?

冠動脈が詰まった、あるいは狭窄している場合、血液を流れやすくするため、狭窄部を迂回するように血管のバイパスを作ることもあります。これを冠動脈バイパス手術と言い、狭窄部を迂回してその先の血管や組織へ十分な血液が流れるようにする目的で行われます。バイパス部分に使われる血管は「内胸動脈」「胃大網動脈」「大伏在静脈」などの血管を採取して利用します。

内胸動脈を接続した場合、その後冠動脈疾患をまた発症することはまれで、90%以上が移植後10年以上経過しても適切に機能することがわかっています。手術は全身麻酔によって行われ、人工心肺によって一時的に心臓を停止させ、機械に心臓の働きを代行させながら行う方法と、心臓を動かしたまま行う方法の2種類の手術方法があります。

カテーテル治療とバイパス手術の選択基準って?

基本的に、カテーテル治療とバイパス手術で治療効果や生存率などの大きな差はありません。そこで、個々の患者さんに合った治療法を医師と相談しながら適切に選択する必要があります。ただし、突如として起こる「急性心筋梗塞」の場合、手術時間のかかるバイパス手術は通常第一選択としては行われません。

カテーテル治療はバイパス手術と比較して侵襲性が低く、患者さんへの体の負担が軽いため入院期間が短く、局所麻酔で行える点がメリットです。反面、バイパス手術は全身麻酔で、最低でも約2週間ほどの入院期間を必要とします。その代わり、病変部位が複数にわたる場合でも一度に治療可能なのがバイパス手術のメリットです。

また、カテーテル治療はステントを通す都合上、ステントの直径である2mmよりも狭い血管には行えません。しかし、バイパス手術であれば直径1mmの血管から行うことができます。また、ステントが再狭窄してしまったり、ステント治療後に抗血小板薬を長期間飲む必要もありません。

これらのことをよく検討しながら、医師と患者さんがよく話し合い、適切な治療を選択することが大切です。

おわりに:心筋梗塞の治療にはカテーテル治療またはバイパス手術が行われる

心筋梗塞の治療には、カテーテル治療またはバイパス手術のどちらかが行われます。特にカテーテル治療は侵襲性が低く、局所麻酔下で簡便にそして迅速に行えることから、急性心筋梗塞で主に使われる治療法です。

一方、バイパス手術は時間と手間を必要とし、侵襲性も高い反面、細い血管の詰まりにも対応できます。また、治療後に抗血小板薬を長時間飲む必要もありません。これらのどちらを選択するかは、医師とよく相談しましょう。

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