記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
胃がんのリスクを上げることで知られる「ピロリ菌」。発見されたら除菌することが重要ですが、ピロリ菌の除菌後に胸焼けなど胃の不調が起こることはあるのでしょうか?以降で解説していきます。
「ピロリ菌」(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の中でも特殊な酵素で身を守って生き続ける菌です。感染するとほぼ全員が「ピロリ菌感染胃炎」となりますが自覚症状はほとんどなく、長い間感染し続けることによって胃がんをはじめとするさまざまな病気を引き起こします。
ピロリ菌の除菌治療は、まず除菌療法の対象となる病気があるかどうかを検査し、必要性について医師とよく相談した上で開始されます。治療は、1日2回服用する3種類の薬(胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗菌薬)を1週間服薬します。自己判断で服用を中止すると除菌に失敗して、治療薬に耐性を持ったピロリ菌があらわれることがあるので注意が必要です。1回目の除菌治療の成功率は約75%といわれ、最近では新薬の開発により90%以上に向上したともいわれています。
治療が終了したら、4週間以上経過してから除菌ができたか再検査を行い、成功しなかった場合は薬の種類を変えて2回目の除菌治療が行われます。この除菌治療をきちんと行えば、ほとんどの場合除菌は成功すると報告されています。
ピロリ菌の除菌により、胃がんになるリスクは約3分の1に減少するといわれています。ただし、除菌が成功した後もピロリ菌感染によって引き起こされた胃粘膜の委縮は完全には元に戻りません。つまり、感染の持続期間が長ければ長いほど、胃の病気の発生リスクは上がります。
40~50歳代での除菌も一定の効果が期待でき、高齢者では限定的であるものの少しでもリスクを下げられると考えられていますが、若いほどその効果は高く、30歳代までに行えば大きな予防効果が期待できます。
ピロリ菌の除菌は胃の病気の発生リスクを下げますが、完全に予防するものではありません。除菌後も1年に1回程度、定期的な胃の検査が必要です。
ピロリ菌除菌治療の主な副作用として、軟便、下痢、味覚障害などが報告されていますが、ほとんどは軽いもので、除菌治療が終了すれば改善します。また、胃もたれや、少数の人には胸焼けなどを起こす「逆流性食道炎」が発生する場合があります。
逆流性食道炎とは、胃酸が頻繁に食道に逆流して食道の粘膜に炎症を引き起こす病気で、みぞおちの辺りから胸の下の方にかけて、焼けつくような不快感が出たり、口の中まで酸っぱい水が上がる感じ(呑酸)などがあり、痛みをともなう場合もあります。
これは、ピロリ菌の除菌によって低下していた胃酸の分泌が正常に戻ったために一時的に起こるものと考えられています。症状は軽いか無症状の場合が多く治療が必要となるケースはまれですが、症状がひどい場合や改善しない場合は、医師に相談しましょう。
ピロリ菌を除菌することで胃がんなどのリスクは減少しますが、それ以前に引き起こされた胃粘膜の委縮などは完全には元に戻りません。除菌の成功後も定期的な検査は必要です。また、一時的な副作用としてまれに逆流性食道炎などが発生する場合があります。改善しない場合は医師に相談しましょう。
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