記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/2/6
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ピロリ菌は、胃・十二指腸潰瘍を始め、胃炎や胃がんなどの原因となりうる菌です。そこで、これら消化器系の疾患を発症するリスクを防ぐため、または疾患の治療中にピロリ菌を除菌する処置を行うことがあります。
では、このピロリ菌の除菌はどのように行うのでしょうか?また、除菌したのにピロリ菌が再発することはあるのでしょうか?
ピロリ菌の除菌治療には、2種類の抗生物質と、1種類の胃酸分泌抑制剤(プロトンポンプ阻害剤)を使用します。抗生物質は「アモキシシリン(ペニシリン系抗生物質)」に「クラリスロマイシン(マクロライド系抗生物質)」を組み合わせて使用することが多いです。プロトンポンプ阻害剤(PPI)は「ランソプラゾール」「オメプラゾール」「ラベプラゾール」「エソメプラゾール」のいずれかが使用されます。
これら3種類の薬を1日2回、7日間続けて服用します。これを1次除菌といい、以前は80〜90%の成功率を誇っていましたが、近年クラリスロマイシンへの薬剤耐性菌が増加してきているため、1次除菌でクラリスロマイシンを用いた場合の成功率は70%程度に低下しています。
ただし、2015年に新たなPPIとして「ボノプラザン」という薬剤が発売され、ボノプラザンとクラリスロマイシンを組み合わせて使った場合は1次除菌の成功率が90%以上に再び上がったため、現在はボノプラザンを用いた除菌療法が主流となっています。
1次除菌の治療として薬剤を7日間服用した後、4週間以上あけてから再度検査を行い、本当に除菌ができたかどうかを確認します。治療に使用したPPIは、服用を終えた後も4週間程度はピロリ菌を抑える作用が働いているため、4週間以前だと除菌ができたのか、薬剤による一時的な静菌状態なのかが判別できません。そこで、1次除菌終了後4週間以上あけてから検査を実施することになっています。
検査を行った結果、除菌の効果が認められなかった場合、クラリスロマイシンを「メトロニダゾール(ニトロイミダゾール系抗生物質)」に変更し、同様に1日2回7日間服用し、除菌を行います(2次除菌)。2次除菌まで行った場合、全体の90%以上の患者さんで除菌に成功できています。
1次除菌または2次除菌後、4週間経って除菌が確認できた場合、再発の可能性は極めて低いといえます。しかし全くないとは言い切れず、頻度は0.2〜2%程度とごくまれではありますが再発することもあります。ただし、再発した例に関してはそもそも1次除菌または2次除菌後の検査の段階で、除菌しきれていなかったピロリ菌を見落としていた可能性が指摘されています。
また、気をつけなくてはならないのは、除菌後にも胃がんが発見されることがあるということです。確かにピロリ菌を除菌すれば胃がんのリスクを減らすことはできるのですが、除菌前にピロリ菌が胃の中に「胃がんの芽」を作ってしまっていることがあります。この「芽」は胃カメラなどで発見ができないほど小さいため、のちに胃がんとなって発見されるまでわからないのです。
ピロリ菌の除菌後に胃がんが発見される頻度は1〜2%と決して高くはありませんが、除菌後に胃カメラによる経過観察をしなくて良いということではありません。また、「胃がんの芽」を作っていない場合でも、除菌後にもピロリ菌が原因の「萎縮性胃炎」は続くため、胃炎が高じて胃がんに進行することもあります。いずれにしても、定期的に胃カメラによる経過観察が必要です。
ピロリ菌の診断方法は、内視鏡を利用するものとしないものを含めて6種類があります。しかし、いずれの診断も100%正確ではありません。そこで、除菌できたかどうかの判定には異なる2つの方法を用いてできるだけ正確性を追求します。とはいえ、全ての検査が100%正確とは言い切れないため、この2つの検査の両方をすり抜けてしまう可能性も否定はできないのです。
その理由の一つに、胃酸の分泌を抑えるPPIを服用していると、検査の際にもピロリ菌が実際には除菌できていないのに、静菌された状態となっていることがあります。ピロリ菌の活動が抑制されている状態で検査されてしまうと、間違って除菌されたと判断されてしまうのです。また、逆に血液や尿を用いた抗体検査では、除菌が成功しても抗体が検出されなくなるまでに数年を要するため、除菌が成功した後であってもピロリ菌がまだ存在すると診断されることがよくあるのです。
これらのことから、ピロリ菌が完全に除菌されたかどうかの判断は非常に難しいことがわかります。除菌の検査後しばらくしてもピロリ菌が本当に除菌されたかどうかが気になる場合は、ピロリ菌に詳しい消化器内科医などを受診し、ピロリ菌にまだ感染しているかどうかをもう一度検査してもらうと良いでしょう。
ピロリ菌を除菌した後も、まれに再発が認められる場合があります。これは、除菌は完全に成功したけれどもう一度菌は増殖してしまったということではなく、除菌処置後の検査において、診断が難しかったのではないかといわれています。
再発頻度の0.2〜2%のうち、どれくらいが検査で判別できなかったピロリ菌によるものかはわかっていませんが、気になるようなら再検査を受けると良いでしょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。
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