記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/6/4
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
「心臓が破裂する」と聞けば、誰でもゾッとしてしまうかと思います。その心臓が破裂した状態を「心破裂」というのですが、この心破裂は外傷や病気などを原因として起こる場合があります。今回は心破裂の一つである「左室自由壁破裂」について解説したいと思います。
心臓の心室壁または心房壁が裂けてしまう状態を「心破裂」といいます。
この心破裂の原因には交通事故などに伴う外傷や、急性心筋梗塞や心膜炎といった病気などがあります。その他にも、食道がんや肺がんによる「心膜転移」が原因になる場合もあります。なお、この中で最も多い原因は「急性心筋梗塞」であり、心破裂は重大な合併症として知られています。
関連記事:急性心筋梗塞とは ~ 陳旧性心筋梗塞とはどう違うの?~
心筋梗塞に伴う心筋梗塞は、「機械的合併症」とも呼ばれています。その種類は「破裂の起こる部位」によって、大きく以下の3つに分けることができます。
このように心筋梗塞に伴う心破裂にはいくつかの種類がありますが、その大部分は「左室自由壁破裂」となっています。本記事では「左室自由壁破裂」について詳しく解説します。
左室自由壁破裂とは、左心室の自由壁(外壁)が破裂してしまう病気のことです。一般的には急性心筋梗塞後の3~10%程度の割合で合併し、心筋梗塞の発症後24時間以内に合併する可能性が高いと知られています。また、左室自由壁破裂を発症した場合の致死率は高く、実際、心筋梗塞の死因のうち10~15%程度がこの心破裂となっています。
急性心筋梗塞後、約3~10%の確率で発症する左室自由壁破裂ですが、どういった方に発症しやすいのでしょうか。疫学的に見ると、以下のような特徴があるとわかっています。
なお、最近では心筋梗塞に対する「再灌流療法」が登場したことにより、心筋梗塞に伴う心破裂は減少傾向にあります。しかし、中には「血栓溶解療法や経皮的冠動脈形成術が盛んに行われるようになったことで、左室自由壁破裂が増加した」という意見もあります。
左室自由壁破裂の程度はさまざまですが、その破裂や進行の仕方などによって大きく2種類に分けることができます。どのような種類があるのかを、以下で確認しておきましょう。
また、中にはすぐに破裂せず、血栓や心膜組織が穿孔部を覆うことで「仮性心室瘤(false aneurysm)」を形成することもあります。心室瘤には「真性心室瘤」と「仮性心室瘤」の2種類がありますが、仮性心室瘤は真性瘤に比べて破裂の危険性が高いと知られています。
心タンポナーデとは、心のう液(心膜の間にある液体)が大量・急速に増加・貯留したために、心のう内圧が上昇して心臓が十分に拡張できなくなった状態をいいます。心タンポナーデの原因はさまざまですが、「左室自由壁破裂」が原因になる場合もあります。なお、この場合は血液が心のうに貯留したために、心タンポナーデが起きてしまっています。
心タンポナーデが起きると、心臓は十分に血液を送り出すことができなくなります。そのため、発症後はショック状態を起こす可能性が高いです。また、そのままの状態が続いてしまうと、死に至る危険性もあるため、迅速にショック状態を取り除くことが必要になります。
関連記事:心タンポナーデとは ― この病気になると心臓はどうなるの?
左室自由壁破裂の主な症状には、突然の血圧低下、呼吸困難、意識不明などがあります。ただし、出血が少ない場合は、自覚症状を伴わない場合もあります。また、左室自由壁破裂の種類によっても異なるので、以下にそれぞれの主な症状をまとめておきます。
急性心筋梗塞後に上記のような症状が起きた場合、左室自由壁破裂が疑われます。そのため、心臓超音波検査(心エコー検査)などを行い、診断を付けていくことになります。
左室自由壁破裂の治療の可否は、その病状によって異なります。一般的には「blow-out型」の場合は突然死を招く恐れが高いですが、「oozing型」の場合は手術可能なケースも多いです。なお、いずれの場合も発症後、すぐに治療を始めることが重要となっています。
左室自由壁破裂を発症した場合、まずは心タンポナーデの解除が必要になります。具体的には、心のうドレナージや経皮的心配補助装置による循環維持などを行います。
その上で、穿孔部を修復するための「手術」を行っていきます。ただし、破裂や出血の程度、血管の状態などによっては、手術が難航する場合もあります。出血が少ない場合は止血剤などで対応できることもありますが、出血がひどい場合は縫合が必要になります。
手術に成功した場合は、徐々にショック状態から回復していきます。ただし、仮に破裂部が修復できたとしても、術後に縦隔炎や脳障害などを合併する確率が高いです。そのため、必ずしも「予後が良いとはいえない」というのが実情となっています。
心破裂の一つである「左室自由壁破裂」は、急性心筋梗塞の合併症として起こることが多い病気です。そのため、左室自由壁破裂を予防するには、心筋梗塞の予防に努めることが肝心だといえます。心筋梗塞の原因はさまざまですが、良くない生活習慣なども関係しているので、日ごろの生活習慣も見直しましょう。