記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
心臓は、私たちの生命を維持するうえで重要な役割を果たしています。その心臓に起こる心筋炎は、誰でもかかる可能性のある怖い病気です。適切な処置が遅れてしまうと、最悪の場合死に至るケースもあります。
心筋炎とはどのような病気か、症状や治療方法について、詳しく学んでいきましょう。
心筋炎は、心臓の筋肉(心筋)に炎症が生じた状態です。
心臓は全身に血液を行き渡らせるためのポンプの役割をしており、休むことなく収縮と拡張を繰り返しています。しかし何らかの原因によって心筋炎が生じると、心臓のポンプ機能が低下したり、不整脈が起こったりして、命の危険に関わることもあります。
心筋炎の原因の多くは感染症で、風邪や胃腸炎を引き起こすウイルスと同じものにより発症します。まれに、細菌、真菌、寄生虫などが原因で引き起こされることもありますが、薬剤による副作用、放射線治療による影響、自己免疫疾患、原因不明の場合もあります。
心筋炎は、慢性・急性・劇症型などに分類され、急性心筋炎が最も多くみられます。
急性心筋炎の中でも、死に至るほど急激な病状変化を表すものを、劇症型心筋炎と呼びます。急性心筋年になりやすい人の傾向ははっきりしていませんが、人口10万人に対して100名程度発症するとのデータがあります。
心筋炎になったことに気づかず、症状がないまま自然治癒することもありますが、心筋炎の症状には寒気や発熱、咽頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など、風邪によく似たものがあらわれます。ほかにも、鼻水や咳、下痢や嘔吐などの症状があり、これは心筋炎の主な原因となるウイルスが、風邪や胃腸炎を引き起こすウイルスと同じことから、症状も似てくるのだと考えられています。
しかし、このような症状があらわれた数日後、胸の痛みや動悸、呼吸困難や失神が起こります。熱や咳、喉の痛みの段階では風邪と勘違いしがちですが、胸の痛みや動悸など胸部の症状がともなっている場合には、心筋炎の可能性が疑われます。風邪のような症状でも、胸に異常を感じたら、医療機関での検査をおすすめします。
心筋炎が進行すると、心不全の症状があらわれ、呼吸困難や手足の冷たさ、尿の量が低下するといったことがあげられます。炎症によって不整脈が起こり、致死的な不整脈が生じると、ふらつきや失神があらわれ、突然死に至るなど危険なケースもあります。
心筋炎は誰にでも起こりうる病気です。とくに健康な人だと、心筋炎による症状を風邪やそのほかの体調不良によるものだと決めつけがちで、発見が遅れてしまう傾向にあります。心筋炎の予後を決めるのは初期治療だといわれるほど、早期発見・治療が大切です。
心筋炎の症状は、急激な変化を起こすことも多いので、様々な治療法を組み合わせた治療(集学的な治療)が必要とされます。
原因に対する治療、炎症をおさえる治療、合併する心不全や不整脈に対する治療が必要とされますが、原因として最も多いウイルスによって引き起こされる心筋炎では、ウイルスに対する特効薬がありません。心不全や不整脈に対する治療を基本とし、基本的には入院治療で安静にする必要があります。
軽症の場合、入院期間は比較的短期間です。しかし、ある程度炎症が起こっている場合には心不全の治療薬を用いることがあり、若い人ではこのような薬を使うことに時間がかかるため、入院期間を要します。
心筋炎は命に関わる病気であり、初期の治療が肝心です。回復して長く生きていくためには、入院期間を前向きに捉えていく必要があるでしょう。
また、以前では救命できなかった劇症型心筋炎ですが、心臓の働きを助ける大動脈バルーンパンピング、経皮的心肺補助装置、人工心臓などの、心肺補助循環装置を装着することで、救命できる症例が増えています。
心筋炎は、風邪や胃腸炎などと勘違いされやすいのに、発見が遅れると命に関わる危険な状態を招く可能性があります。風邪に似た症状とともに胸に異常を感じたら、医療機関を受診するようにしましょう。
この記事の続きはこちら