お酒でリラックスできる理由と健康的に楽しく飲むためのヒント

2021/8/30

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

お酒の適量と節度を守った楽しいリモート飲み会

お酒を飲むことは円滑なコミュニケーションにも役立ちますし、軽いストレスであれば発散できます。このことから、昔ほどではありませんが、お酒の席は社会生活において重要視されることも多いです。
最近は、社会情勢の影響によるストレスから、ネガティブな飲酒習慣も増えているといわれています。今回は、お酒を飲むとリラックスできる理由と、より健康的に楽しく飲むためのヒントを解説します。ポジティブなお酒を楽しむ参考にしてください。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
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お酒を飲むとリラックスしたり楽しい気分になる理由は?

お酒を飲むと、リラックスした気分になったり、楽しく「ハイ」な気分になったりします。これは、アルコールの作用で「大脳新皮質」の機能が低下することが関係しています。

大脳新皮質は理性を司っていて、アルコールで大脳新皮質の働きが弱まると大脳旧皮質や大脳辺縁系の働きが活発になります。大脳旧皮質や大脳辺縁系は、感情・衝動・食欲・性欲などの「本能的な情動」を司る部位です。

アルコールで大脳新皮質の機能が低下すると、それまで理性でコントロールされていた「本能的な情動」が前に出てきます。すると、精神的に高揚して元気が出てきたり、心身の緊張がゆるんでリラックスした状態になったりします。

神経伝達物質も関係している

お酒を飲むと、ドーパミンの分泌が促されます。ドーパミンは、脳内報酬系の活性化に大きく関係している神経伝達物質で、楽しい気持ちや嬉しい気持ち、やる気や集中力に関係しています。
(脳内報酬系:欲求が満たされたとき、満たされると感じたときに活性化して、幸福感や喜びなどのポジティブな感情を引き起こすシステム)

お酒を飲むと、アルコールの作用でドーパミンの分泌量が一時的に増え、脳内がポジティブモードに変化して幸せな感情が表に現れやすくなり、楽しくハイな状態になったり、気分が大きくなったりします。心にも余裕が出てくるので、心身もリラックスした状態になりやすい、ということです。

また、完全に解明されたわけではありませんが、アルコールの刺激でGABA受容体が活性化することや、「好きなお酒の香り」やサワーやカクテルなどに使われる「フルーツの香り」が脳を刺激することなども、お酒のリラックス作用に関係していると考えられています。

お酒の「良い影響」と「悪い影響」

節度持って、適量の範囲内で楽しむのであれば、お酒には下記で挙げるような「良い影響」が期待できます。ただし、お酒には「悪い影響」もあります。良い影響ばかりに目を向けず、悪い影響も意識しながら、適量と飲み方のルールをきちんと守って楽しむようにしてください。

心理面、精神面への影響

良い影響

お酒を飲んでリラックスすることは、円滑なコミュニケーションに役立ち、一時的なストレスの解消にもつながります。普段緊張しやすく、力が入りすぎてしまう人にとっては、お酒による一時的な緊張の緩和が、貴重な休息の機会になることもあるでしょう。

悪い影響

飲酒によるドーパミンの分泌促進作用は、短時間しか持続しません。飲酒によるストレス解消効果はあくまで一時的なものです。また、飲酒でドーパミンの分泌を促す回数が増えると、ドーパミンが効きにくくなってしまい、飲酒量が増えるきっかけにもなります。

そして、過度な飲酒はセロトニンの分泌低下を引き起こすこともわかっています。
セロトニンは、心を安定させる働きがある神経伝達物質です。ストレスを解消しようとお酒を飲み続けると、セロトニンの分泌量が低下していき、精神状態も不安定になっていきます。飲酒量や飲酒回数がさらに多くなると、深刻な心の不調を引き起こすこともあるので注意しましょう。

また、円滑なコミュニケーションに役立つのは、気分晴れやかで快活になる「ほろ酔い状態」までです。アルコールの影響には個人差がありますが、ほろ酔い状態の血中アルコール濃度は「0.2〜0.5mg/ml程度」とされています。

たとえば、体重65kgの人が、アルコール度数5%のビールのロング缶(500ml)を飲むと、血中アルコール濃度は0.46mg/mlになります。これは、ほろ酔いのリミットギリギリの状態であり、これ以上飲むと、馴れ馴れしくなったり、気が大きくなって言動が過激になったりします。これは「ちょっと面倒くさい、楽しくない酔い方」です。

この状態になると、心拍数や呼吸数が増加して体にも負担がかかりますし、記憶力や集中力、判断力も低下するので、ケガなどのトラブルの原因にもなります。

体への影響

良い影響

少量の飲酒であることが前提ですが、アルコールの血管拡張作用と利尿作用は、疲労回復の助けになる場合があります。また、同じく少量であることが前提ですが、お酒を飲む人のほうが、まったくお酒を飲まない人よりも循環器疾患による死亡率が低くなるという研究結果があります(Jカーブ)。

このことには、少量の飲酒によってHDLコレステロール(善玉コレステロール)が増加すること、血小板の凝集が抑制されることが関係していると考えられていますが、まだはっきりわかっていません。
なお、飲酒による血小板凝集の抑制作用は、飲酒1時間後には消失し、4時間後にはリバウンドするという研究結果もあります。

ただし、Jカーブは、すべての人に当てはまるわけではありません。年齢、性別、体質、持病の有無などで変わってきますし、がんや脳卒中、脂質異常症、認知症については、Jカーブは当てはまらないことがわかっています。

毎日の体調の変化、血圧の変化、定期的な健康診断などで自分の健康状態を把握し、必要に応じて医師と相談しながら「自分の適量」を見つけることが大切です。

悪い影響

お酒の飲み過ぎによる短期的な悪影響としては、悪酔いや二日酔いなどの体調不良が挙げられるでしょう。また、血中アルコール濃度が1.5mg/ml以上になるまで飲むと、嘔吐をするようになり、ろれつがまわらなくなったり、突拍子もない行動を起こしたりするようになります。

血中アルコール濃度がさらに高くなると「急性アルコール中毒」で深刻な状態に陥ることもあり、酩酊状態や泥酔状態になるまで飲酒すれば、転倒、転落、交通事故などで大ケガをしたり、命を落としたりする危険もあるので注意が必要です。

長期的な悪影響としては、生活習慣病を引き起こすなどの「健康リスク」が挙げられます。
飲酒により発症リスクが上昇する病気は、下記のとおりです。

飲酒で発症リスクが上昇する病気の例
  • 肥満、メタボリックシンドローム
  • 脂質異常症
  • 痛風、高尿酸血症
  • 胃腸障害、消化器疾患
  • 糖尿病
  • 肝機能障害、肝臓疾患
  • 心筋梗塞、不整脈などの循環器疾患
  • 脳卒中
  • 膵炎
  • がん
  • 睡眠障害
  • 認知症 など

お酒を健康的に楽しむために守ったほうがいいルール

健康を維持しながら、まわりに迷惑をかけずにお酒を美味しく楽しむには、いくつかの「ルール」を守る必要があります。

適量を守る

お酒を健康的に楽しむためには、「節度持って、適量の範囲内で楽しむ」ことが大切です。
厚生労働省は、「健康日本21」のなかで、「節度ある適度な飲酒」を下記のように定義しています。

「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である。」

健康日本21

「純アルコールで20g程度」の目安は、ビールや発泡酒(アルコール度数5%)では「500ml缶 1本」、ハイボール(アルコール度数7%)では「350ml缶 1本」です。

健康状態に問題がなく、人並みにお酒が飲めるという人は、下記の表を参考に、適量を守ってお酒を楽しみましょう適量を守ってゆっくり飲むことで、酔い方を「ほろ酔い」状態までに留めることもできるので、まわりに迷惑をかけない「楽しいお酒」にしやすくなるはずです。

ただし、アルコールの作用や血中アルコール濃度による変化には、個人差があります。繰り返しになりますが、自分の体調をこまめに確認し、必要に応じて医師と相談しながら、「自分の適量」をきちんと把握するようにしましょう。

お酒の種類別で見る1日の飲酒量の目安
お酒の種類 適量の目安
ビール、酎ハイ(アルコール度数5%) 中ビン 1本、500ml缶 1本
ハイボール(アルコール度数7%) 350ml缶 1本
ワイン(アルコール度数12%) グラス2杯弱(200ml)
日本酒(アルコール度数15%) 1合(180ml)
焼酎 ロック(アルコール度数25%) グラス1杯(100ml)
ウイスキー(アルコール度数40%) グラス シングル 2杯(60ml)
ブランデー(アルコール度数40%) グラス シングル 2杯(60ml)

※女性や高齢者は、中年男性に比べてアルコールによる健康リスクが高いとされています。上記よりも少なめが適量と考えましょう。

休肝日を作る

休肝日とは、定期的に肝臓を休ませるために作られた言葉です。休肝日については医学的なエビデンスが不十分な面もありますが、飲酒総量を減少できるため、肝障害の予防とアルコール依存の予防には有効と考えられています。
1週間に1日〜2日以上はお酒を飲まない休肝日を設けましょう。

寝酒をしない

お酒を飲むと眠くなるのは、アルコールの作用が脳の興奮を抑制することが関係しています。しかし、お酒を飲むと寝つきは良くなりますが、浅い眠りになりやすいです。アルコールには利尿作用もあることから、中途覚醒や早朝覚醒といった睡眠障害が起こりやすくなります。
これは、寝酒のような「ごく少量の飲酒」でも起こります。

寝酒が習慣化すると、お酒がないと眠りにつけない体質になってしまい、飲酒量がさらに増える原因にもなります。寝酒は極力しないようにしましょう。

ひさしぶりのお酒だからと、大量に飲まない

ひさしぶりに飲むからと大量にお酒を飲むと、ケガや事故につながります。また、自分に合ったお酒のペースがわからず、想像以上に酔っ払ってしまい、まわりに迷惑をかけてしまう可能性もあるでしょう。

どんなに飲酒回数が少なくても、一度に大量にお酒を飲めば、体に大きな負担がかかります。ひさしぶりのお酒であっても、必ず適量を守りましょう

水と食事といっしょにゆっくり楽しむ

アルコールの代謝には、タンパク質やアミノ酸、ビタミン類、水分などが必要であり、水分が不足すると二日酔いの原因にもなります。また、空腹時にお酒を飲むと血中アルコール濃度が急激に上がるため悪酔いしやすく、アルコールによる利尿作用の影響で飲酒時は脱水になりやすいです。

お酒を飲むときは、きちんと食事を摂り、チェイサーなどでこまめに水分を補給しましょう。

ネガティブな言動を控えて、明るく楽しい会話を心がける

お酒を飲むと理性が働きにくくなるので、普段溜まった愚痴やストレスを吐き出そうと、ネガティブな言葉が増えやすいです。軽い愚痴くらいであれば問題ありませんが、悪口雑言を何度も繰り返すようになると、まわりにも迷惑がかかります。

ネガティブな言動を繰り返すことは、ネガティブな感情のスパイラルを引き起こし、自分自身の心の健康を損なう原因にもなります。お酒を飲むときは、お互いが笑顔になれるような「明るい話題」を楽しむことを心がけましょう。

ひとり酒は控える

適量や休肝日をきちんと守れる人であれば問題ありませんが、ひとり酒が習慣化すると、タガが外れやすく、飲酒量や飲酒回数がどんどん増えていきやすいです。また、ストレスが溜まった状態でひとり酒をすると、ネガティブな感情や出来事が頭から離れにくくなるため、ストレスも解消しにくくなります。

複数人で飲酒する機会を作りにくい社会情勢ではありますが、リモート飲み会を開く、ディスタンスを守った少人数、短時間の飲み会を開くなど、工夫をしましょう。

定期的に健康診断や人間ドックを受ける

アルコールによる健康リスクの多くは、自覚しないうちにゆっくりと進行していきます。自覚症状が現れたときには、すでに治療が難しい状態になっている場合もあります。

定期的に健康診断や人間ドックを受けることは、病気を早期発見できるだけでなく、「病気の原因になる生活習慣」の改善にも役立ちます。飲酒量や飲酒回数の見直しの機会にもなりますので、必ず定期的に受けるようにしましょう。

おわりに:お酒によるリラックス作用は社会生活に役立つこともある。適量を守って健康的に楽しもう

お酒を飲んでリラックスしたり、楽しい気分になったりするのは、ドーパミンの分泌量が増加してポジティブな感情になることと、大脳への影響で本能的な情動が前面に出やすくなることが原因です。適量を守り「ほろ酔い」になる程度の飲み方をしている限りは、お酒は楽しく円滑なコミュニケーションに役立ちますし、ストレス発散やリフレッシュにもつながります。

ただし、お酒の力に頼りすぎることは、飲酒量や飲酒回数の増加を引き起こし、心身の健康リスクを高めることになるので注意が必要です。厚生労働省が定義する目安を参考にしながら「自分の適量」を把握し、お酒をできるだけ長く楽しめるように「お酒のルール」をきちんと守るようにしましょう。

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