フレイルやサルコペニアを漢方で改善! おすすめの漢方薬を紹介

2019/1/19

三上 貴浩 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 医学博士

三上 貴浩 先生

「フレイル」や「サルコペニア」という言葉を聞いたことはありますか?これらは疾患とは異なり、老化におけるある状態を示します。しかし、老化の過程は、漢方によってある程度改善することができます。

では、フレイルやサルコペニアを東洋医学的に解釈するとどのような状態なのでしょうか?また、おすすめの漢方薬にはどんなものがあるのでしょうか?

冷凍宅配食の「ナッシュ」
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東洋医学からみたフレイル、サルコペニアって?

「フレイル」とは、2014年に日本老年学会が提唱した概念で、健常な状態と日常生活でサポートが必要な「要介護」の中間の状態のことを指します。

また、「サルコペニア」は「フレイル」に至るさらに少し前の状態で、健常な状態から筋力が衰えた状態のことを指します。これにより、「サルコペニア」は「フレイル」の一要素として考えられることもあります。

「フレイル」には身体的要素・精神的要素・社会的要素の3つの要素が関わっていると考えられます。身体的要素とは動作が遅くなったり、転倒しやすくなったりするなどの状態で、この状態に「サルコペニア」や「ロコモーティブ・シンドローム(運動器の障害や衰え)」を含みます。精神的要素はうつや認知機能の障害のことで、社会的要素は一人住まいによる孤立や経済的な困窮からの閉じこもりなどがあります。

これらを東洋医学的な立場から解釈した場合、「腎虚」「血虚」「脾虚」などと置き換えて解釈することができます。すなわち、フレイル全般≒腎虚、筋肉量の現象≒血虚、サルコペニア≒脾虚と考えられるのです。

「腎虚」とは、西洋医学・解剖学的に見た「腎」とは別のもので、老化に伴うさまざまな症状や病態を指します。骨の異常や腰痛、思考力低下、物忘れ、耳鳴り、聴力低下、生殖能力の低下、排尿や排便の異常、白髪、脱毛などが主な症状です。

「血虚」とは、これも西洋医学的な「血が足りない=貧血」の状態とは別のもので、西洋医学的にいえばタンパクやビタミン、微量元素などの物質的欠乏や末梢部位の循環障害などを指します。中枢神経系から末梢の皮膚や爪などにさまざまな症状が現れ、その中には筋肉のやせや認知機能の低下も含まれます。

「脾虚」も、「脾臓」には関係がなく、「消化吸収機能=脾」の低下を指します。つまり、脾虚は胃腸虚弱と概ね同義と考えて構いません。老衰による食欲低下や、夏場に食欲が低下する症状も脾虚の一つであると言えます。これら食欲不振のほか、唾液過多、腹痛、下痢、空腹感消失、食べても太らない、などの症状が見られます。

フレイル、サルコペニアに有効な漢方薬は?

上記のことから、フレイル・サルコペニアには「腎虚」「血虚」「脾虚」への漢方薬が有効と考えられます。それぞれの症状に必要な漢方薬と効能について詳しく見ていきましょう。

腎虚に有効な漢方薬は?

腎虚に有効な漢方薬としては、「八味地黄丸」「牛車腎気丸」が挙げられます。

八味地黄丸
体を温め、冷えに伴う痛みをとる
体を温め、中高年によくみられる足腰の慢性的な痛みやしびれを改善する
高血圧による肩こりや頭重・耳鳴りなどを緩和する
牛車腎気丸
体力が低下して疲れやすく、腰から下が冷えやすい人に使われる
しびれや下肢・腰の痛み、むくみをとる
排尿障害を改善する

「牛車腎気丸」は、「八味地黄丸」に「牛膝」と「車前子」という生薬を加え、腎虚の症状のほとんどをカバーできる漢方薬です。そのため、高齢者によく処方される漢方で、高齢者の頻尿などの排尿障害、腰痛や下肢痛などの改善をはじめ、糖尿病の合併症としての神経障害から起こるしびれなどにも使用されます。

血虚に有効な漢方薬は?

血虚に有効な漢方薬としては、「四物湯」「当帰芍薬散」が挙げられます。

四物湯
体力が低下して冷え症、皮膚がカサカサと乾燥している人や色つやが悪い人に使われる
産後・流産後の疲労回復や月経不順、ホルモンバランスの乱れなどを改善する効果が期待されるため、女性によく使われる
乾燥した皮膚を潤す効果や、しもやけ・しみなども改善できる
当帰芍薬散
血行障害やうっ血を改善し、血液の巡りをよくして体を温める
月経不順・月経異常・月経痛・更年期障害、産前産後の不調緩和などによく使われる
めまい・立ちくらみ・頭重・肩こり・腰痛・足の冷えなどの改善にも

「血虚」はそもそも生理や出産などで出血することの多い女性に比較的よく見られる症状で、全身の血の巡りが悪くなっている状態です。血色が悪い、冷え性、皮膚が乾燥してかさついている、などの人は血虚と考えられます。

「四物湯」には血液の巡りを良くするほか、乾燥した皮膚を潤す効果があるため、乾燥からくる肌荒れや皮膚炎などの治療にも用いられることがあります。冷え性を改善する効果もあり、貧血から来る手足の冷えにはとくに効果を発揮します。

「当帰芍薬散」は、産婦人科の三大漢方薬とも呼ばれるほど、産婦人科的な疾患・症状に対して大きく効果を発揮します。血液の巡りを良くし、体を温める「駆瘀血剤(くおけつざい)」の一つで、月経にまつわる不調や更年期障害、産前産後の不調の解消に使われます。

脾虚に有効な漢方薬は?

脾虚に有効な漢方薬としては、「人参湯」「六君子湯」が挙げられます。

人参湯
胃腸全般の調子を良くする
痩せて体力がなく、冷え性の人に使われる
胃腸が弱い・下痢・嘔吐・胃の痛み・腹痛・胃炎などの症状を改善する
六君子湯
体力があまりなく、痩せて顔色が悪く、冷えやみぞおちのつかえなどの症状がある人に使われる
食欲不振・胃もたれ・胃痛・嘔吐などの症状を改善する
胃下垂や消化不良に対して処方されることも

東洋医学では、脾=消化吸収機能の全般と考えます。そのため、胃腸のある部位に働きかけるような西洋医学的な薬剤とは少し異なり、消化吸収機能のバランスを整えるような治療を行います。このバランスを整える働きをするのが「人参湯」や「六君子湯」です。「人参湯」は、日本人にも古くから馴染みのある生薬である薬用人参の働きで、消化吸収機能全体を整えてくれます

「六君子湯」は、胃腸の働きを整える「四君子湯」にさらに「二陳湯」という生薬を加え、働きを整えるとともに胃に溜まった「水」を流して巡らせる効果があります。これらの効果によって、消化器系の全体の働きを高めてくれる漢方です。

おわりに:フレイルやサルコペニアに漢方が効く可能性が!

フレイルやサルコペニアは比較的新しい言葉ですが、これらは加齢に伴う老化の一つの状態を示していて、西洋医学だけでなく漢方薬によってある程度緩和効果が期待できます。

体のどこに主だった症状が現れているかによって「八味地黄丸」「牛車腎気丸」「四物湯」「当帰芍薬散」「人参湯」「六君子湯」などの漢方を使い分け、健康寿命を伸ばしていきましょう!

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