記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/31
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
風邪かな?と思っていたら、咳ばかり長引いてしまったということはありませんか?実はその咳、マイコプラズマ肺炎かもしれません。マイコプラズマ肺炎の症状はほとんどが風邪と酷似しているため、症状でマイコプラズマ肺炎と気づかないことも多いのです。
また、咳が長引いている場合の原因となる疾患は、マイコプラズマ肺炎だけなのでしょうか?そのほかにはどのような疾患の可能性があるのでしょうか?
咳が出ると、つい「風邪かな?」と思ってしまうことは多いものです。しかし、咳や熱など風邪に似た症状が出たときでも、風邪以外の疾患が隠れていることは少なくありません。そのひとつが、風邪が治っても咳が止まらないという「マイコプラズマ肺炎」です。
マイコプラズマ肺炎の初期症状は風邪に似ていて、熱や咳、全身倦怠感などの症状から始まります。熱や全身倦怠感は通常の風邪と同じように数日~1週間程度でおさまりますが、咳だけはこれらの症状が落ち着いたあと、3~4週間ほど続くことがあります。このため、「風邪が治ったのに咳だけがおさまらない」という場合、そもそもの症状は風邪から来たものではなく、マイコプラズマ肺炎を発症している可能性が考えられます。
マイコプラズマ肺炎は、咳が長引くタイプの代表的な疾患です。珍しい疾患ではなく、「肺炎マイコプラズマ」という細菌によって引き起こされる感染症の一種です。マイコプラズマ肺炎は季節に関係なく、家庭や学校などの狭い範囲で流行することが多いのが特徴です。また、感染経路は咳などで飛散する飛沫感染と、感染者が触ったもの、口をつけたものなどに触れることによる接触感染の2つがあります。ただし、感染力の強い細菌ではないため、ノロウイルスやインフルエンザなどのように、爆発的な流行にまで発展することはあまりありません。
肺炎マイコプラズマも他の細菌と同様、感染後は特異抗体という免疫機能が作られます。しかし、抗体は年月が経つにつれて徐々に減っていくため、一度かかれば二度とかからないものではなく、再感染する人もよくみられます。また、発症する年齡はさまざまですが、幼児期~青年期が中心であることがわかっています。また、病原体である細菌を確認できた例では7~8歳に罹患のピークがあります。
マイコプラズマ肺炎の症状で特徴的なのは、咳が非常に長く続くことです。通常の風邪の場合、熱や全身倦怠感が落ち着くとともに咳も落ち着いてきますので、だいたい数日~1週間程度で症状は全ておさまることが多いです。ただ、約25%の方には吐き気や下痢などの消化器系や、筋肉痛や関節痛などの症状がみられることもあり、その場合は風邪との見分けがつきにくくなってしまいます。
しかし、マイコプラズマ肺炎の場合、熱や倦怠感その他の症状は数日~1週間程度でおさまりますが、その後に咳が残り、何週間も続くことが多いです。そのため、「風邪が治ったのに咳が続いている」という人が多い学校のクラスや職場では、小規模ながらマイコプラズマ肺炎が流行している可能性があります。近くにこうした人が多い場合、マスクや手洗い・うがいなど、感染予防を徹底することが大切です。
ちなみに、マイコプラズマ肺炎は通常の「肺炎」とも少し違うところがあります。通常の肺炎では、空気の通り道である気管支や肺胞が傷害されるため、聴診器で聴いたときにゼロゼロとした音が聞こえるのが特徴です。しかし、マイコプラズマ肺炎の場合、気管支や肺胞などの直接空気が通る場所ではなく、それらの外部にある間質という組織で炎症を引き起こすため、肺炎のようなゼロゼロと痰がからむような音は聞こえません。
ただし、マイコプラズマ肺炎が長引くと痰がからんだ咳に移行する場合があり、まれに血痰が出ることもあります。このような状態にまで進行すると、聴診器で聴いた際にゼロゼロとした音が聞こえるようになります。
咳が止まらない、という症状はマイコプラズマ肺炎以外にも多くみられます。生命に関わるかどうかという意味で比較的軽度な疾患には「百日咳」「クラミジア肺炎」が、生命を脅かす危険性のある疾患には「肺結核」「肺癌」があります。これらの疾患の詳細や、主だった症状についても詳しく見ていきましょう。
百日咳は、2019年現在では「4種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオに対するワクチン)」という定期予防接種の対象となっている感染症の一つに含まれています。「定期予防接種」とは、一定の年齢までに摂取を受けることと定められている予防接種で、個人の感染予防や重症化の防止だけでなく、多くの人が摂取することで感染症が広まることを防ぐという集団免疫の考え方に基づいています。
4種混合ワクチン(2012年11月まではポリオワクチンを除く3種混合ワクチン)が広まり、百日咳にかかる人が非常に少なくなったため、日常生活で百日咳を意識することはあまりありません。そのため、咳が長引いていても百日咳かもしれないと気づきにくいため、注意が必要です。また、ワクチンを受けている人が百日咳を発症すると症状が特異的である場合も多く、診断の難しい疾患です。そこで、百日咳かどうかを正確に診断するには抗体の検査によって行います。
クラミジア肺炎は、性感染症のクラミジアとは異なる細菌によって起こります。かつては両者ともクラミジア属に含まれる細菌でしたが、1999年に大幅な分類の変更がなされ、現在では性器クラミジア感染症を引き起こす「クラミジア・トラコマチス」以外の細菌は「クラミドフィラ属」という属に分類されました。このうち、クラミジア肺炎を引き起こすのは「クラミドフィラ・ニューモニエ」という細菌です。
クラミジア肺炎は、肺炎という名前ではありますが、肺炎と同様の症状を引き起こす場合だけでなく、風邪症候群や急性気管支炎の症状を引き起こす場合もあります。罹患者は小児と高齢者の両方に多く見られ、流行性の肺炎の約1割を占めます。また、慢性的に感染すると動脈硬化や心疾患、アルツハイマーなどを発症または憎悪する危険性が示唆されているため、感染初期に抗生物質などで確実に殺菌・除菌を行うことが大切です。
マイコプラズマ肺炎同様、百日咳も初期症状は風邪と非常によく似通っていて、症状から判断することは困難です。その他の症状もマイコプラズマ肺炎とも似ていて、疾患名のとおり咳が長く続くことが大きな特徴です。また、ワクチンの摂取対象年齢が生後3カ月からに引き下げられたことからもわかるように、生後半年ごろの乳児が感染するととくに重症化し、最悪の場合は死に至ることが知られています。成人が発症した場合は生命に関わることはあまりありませんが、やはり長く続く咳が特徴的な疾患です。
百日咳は、鼻水やせきによる飛沫感染や接触感染が主な感染経路で、感染力が強く、感染が拡大しやすい疾患です。約1週間~10日程度の潜伏期を経て、以下のようなステージで進行していきます。
痙咳期で混同しやすいのが喘息の咳で、百日咳の痙咳期は「吸うとき」にヒューヒューという音が生じますが、喘息では「吐くとき」にヒューヒューと音が生じます。喘息かどうかが気になるときには一つの目安として「ヒューヒュー」という音が息を吸うときに起こっているのか、吐くときに起こっているのか確認するのが良いでしょう。
カタル期から回復期まで、全経過は約2~3カ月かかることが多いです。成人では症状が重症化せず、軽症のまま咳だけが残る(=菌の排出はされる)状態で放置されてしまいがちですから、新生児や乳幼児が家庭内にいる場合、または新生児・乳幼児に近づく場合には感染源となってしまう場合があり、とくに注意が必要です。
クラミジア肺炎は、風邪症候群や気管支炎を起こしている場合、すなわち感染が上気道や気管支にとどまっている場合は乾いた咳が特徴で、肺に至り肺で炎症を起こすと咳に痰がからむのが特徴です。いずれの場合も咳は長引きますが、38℃以上の高熱などの激しい症状を引き起こすことは少ないため、自然に治ってしまうことも多く、罹患者が気づかないうちに感染から治癒までが終わってしまうことも多いです。
ただし、高齢者であったり、クラミジア肺炎にかかる前に既に何らかの疾患を発症している場合は重症化することもあります。咳の他に見られる症状はのどの痛み、鼻水、声が嗄れる、呼吸困難などですが、いずれも風邪を始めとしたその他の疾患にも共通した症状であるため、症状からクラミジア肺炎を特定することは困難です。
肺結核や肺がんなど、発症すると生命を脅かす疾患で長引く咳が出る場合もあります。とくに肺癌は現在、死亡に至ったがんのうちトップの割合を占める疾患です。日本では男性で4万人、女性で3万人を超える死亡者を出す疾患であり、非喫煙者の女性でも発症することがありますので楽観視はできません。
肺結核は、第二次世界大戦前は日本中で国民病として恐れられていた疾患ですが、戦後はワクチンの普及やレントゲンによる早期発見、結核治療薬などによって罹患者・発症者は激減しました。そのため、過去の病気と思い込んでしまうことが多いのですが、2016年には1万8千人が新たに結核に罹患したことがわかるなど、結核は決して過去の病気とは言い難い疾患です。
長引く咳がこうした生命を脅かす疾患である場合、一刻も早く発見し治療を開始することが、疾患の治療だけでなく予後を良くするために必須です。咳が2〜3週間程度続くようであれば、咳の程度が軽くても医療機関を受診し、原因をはっきりさせておくのが良いでしょう。
肺結核は、咳が長引くほかは痰や多少の倦怠感程度と風邪と酷似しているため、症状から結核と判断することはまずできません。そのため、結核と気づかずに放置してしまい、診断が遅れてしまうこともあります。診断が遅れてしまうと本人の病状が進行してしまうだけでなく、咳や痰を介して空気感染・飛沫感染・接触感染などを通じ、結核菌の感染を拡大させてしまう可能性があります。
そのほか、「体重が減る」「倦怠感が続く」「血痰が出る」「寝汗がひどい」「発熱が続く」などの症状が出る場合もあります。
肺がんは、早期の状態では症状が出にくく、したがってCTなどの検査の際に発見されることがほとんどです。症状が出る場合には、長引く咳を始め、「息切れや息苦しさ」「体重が減る」「痰(血痰)が出る」「胸が痛い」などの症状が生じます。
マイコプラズマ肺炎が疑われる場合、まず胸部レントゲン検査を行います。胸部レントゲン検査によって肺炎の像を確認し、症状を問診や聴診器でよく聞いた後、やはりマイコプラズマ肺炎の可能性が高いと判断される場合は、「迅速診断法」「核酸増幅法」「血清抗体価測定法」などの検査が行われます。
一般的には、まず迅速診断法を行い、並行して核酸増幅法や血清抗体価測定法を行う場合が多いです。また、肺炎マイコプラズマ細菌に特異的なDNAを検出するLAMP法という遺伝子検査を行うとかなり正確に肺炎マイコプラズマ細菌の特定もできますが、検査装置のある病院は限られています。
マイコプラズマ肺炎の検査には、迅速診断法を除き数日~数週間の時間がかかります。そのため、胸部レントゲン検査と聴診器などによりマイコプラズマ肺炎の可能性が高いと判断された場合、診断が確定する前に治療を開始する場合がほとんどです。
治療には、抗生物質であるマクロライド系抗生物質の「エリスロマイシン」などが主に使用されます。これらの抗生物質を約10〜14日間内服すると、徐々に熱や咳などの症状が軽減していきます。また、熱や咳などの症状が強い場合は、抗生物質だけでなく解熱剤や鎮咳薬が同時に処方されることもあります。
ただし、2000年ごろからこれらの薬剤が効きにくい「薬剤耐性菌」による「マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎」が徐々に増えてきています。これらの耐性菌には、ニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗生物質を使用することになります。薬を服用しても症状がおさまらない場合は、耐性菌である可能性も考えられますので、医師に相談しましょう。
肺炎マイコプラズマ細菌は、抗生物質を飲み始めてすぐに死滅するわけではなく、数週間にわたって体内に存在しながら徐々に数を減らしていきます。この間は咳などの飛沫感染や接触感染によって周囲の人に感染する可能性がありますので、マスクや手洗い・うがいをしっかり行うようにしましょう。
咳が長引いている場合、もっとも多いのはマイコプラズマ肺炎です。しかし、長引く咳の全てがマイコプラズマ肺炎というわけではなく、中には肺結核や肺癌を発症している場合も考えられます。咳が約2〜3週間続いた場合は、自己判断せず医療機関を受診しましょう。
また、マイコプラズマ肺炎と診断された場合は投薬治療が行われます。薬が効かない場合は耐性菌の可能性もありますが、その場合は別の薬剤で治療を行うことができます。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。
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