記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
「なんとなく食事したくない」という食欲不振は、ついつい消化器系の不調かな?と思ってしまいがちです。消化器系の不調であることも多いのですが、特に女性の場合、消化器系のどこにも異常がないのに食欲がわかないということも少なくありません。
胃腸のどこも異常がないのに食欲不振になる原因とは?考えられる疾患の詳細や検査についても解説します。
食欲不振とは、「なんとなく食事が食べたくない」「以前のように食べられない」といった症状のことをいいます。
このような症状があったら、食欲不振の症状かもしれません。食欲不振の原因はさまざまですが、胃や消化器系に症状が現れるため、ついつい消化器系のトラブルを真っ先に思い浮かべてしまう人が多いと思います。もちろん、実際に以下のような消化器系のトラブルが食欲不振の原因になっていることもあり得ます。
これらの消化器系のトラブルがある場合、食欲不振の症状が出ることがあります。しかし、消化器系以外にも食欲不振を起こす疾患があります。
拒食症やうつ病・がんは比較的気づきやすい病気ですが、気づきにくいものに甲状腺機能低下症があります。甲状腺機能低下症はホルモンの分泌量が低下する疾患であり、女性は男性の10倍の発症頻度がある疾患です。そのため、女性で食欲不振があるけれど、他にこれと言って思い当たる症状がないという人は、甲状腺機能低下症かもしれません。
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌が低下してしまい、体の各部で不足している状態です。甲状腺ホルモンは新陳代謝を司るホルモンであり、老若男女を問わず人間が体内の新陳代謝を正常に保つために必要なものです。甲状腺ホルモンが不足すると、さまざまな症状を引き起こします。
甲状腺機能低下症を発症する割合は、甲状腺刺激ホルモンの値が10未満で、軽度の甲状腺機能低下症(潜在性甲状腺機能低下症)を含めると人口の1~2%です。若いときは比較的発症しにくいですが、加齢とともに頻度は増加していき、さらに女性の発症頻度は男性の約10倍であることがわかっています。
つまり、軽症の甲状腺機能低下症まで含めれば女性の50~100人に1人が発症すると言えますので、決して珍しい疾患ではありません。以下のような症状が出たら、甲状腺機能低下症を疑いましょう。
新陳代謝の低下や胃腸の働きの低下はわかりやすくいため、不調に気づきやすいと思います。しかし、むくみがひどくなったり、食欲がなくて食べていないのに体重が増えたりするといった症状の場合は、不調に気づきにくいため注意が必要です。というのも、放っておいたままむくみがひどくなると、心臓を包む「心のう」に水が溜まることがあり、心機能が低下するためです。
また、食欲がないのに体重が増える場合、体のカロリー消費が減ってしまっていると考えられます。これは筋力が落ちたというわけではなく、新陳代謝が低下して脂肪が分解されず、エネルギーが消費されないためお腹がすかないという悪循環に陥っているのです。このため、コレステロールが増えて動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞といった疾患を引き起こすリスクが高まることもあります。
むくみや寒気がひどい、食欲がないのに太ってきた、などの症状が現れたら、甲状腺機能低下症を疑いましょう。そのほか、白髪が増える、髪が抜ける、声がしわがれてくる、疲れやすいなどの症状にも要注意です。また、健康診断の血液検査でコレステロール値が高くなることもあります。いずれも甲状腺機能低下症に特異的な症状ではなく、また加齢によるものと混同しやすいため、異常に気づきにくい疾患です。
はっきりした症状がないことから、内科以外の診療科を受診してしまったり、加齢と思い込んで放置してしまうことも多いのですが、思い当たる症状が複数あったり、強く出ていたりする場合はぜひ血液検査を受けましょう。甲状腺ホルモンは簡単な血液検査で測定することができ、治療法もきちんと確立されています。
たとえば、不足している甲状腺ホルモンのホルモン剤を飲んで補充をするホルモン補充療法です。甲状腺ホルモンはもともと体の中にあるホルモンですから、用法・用量を守って適量飲んでいれば副作用の心配もありません。ホルモンのバランスをみながら薬を加減していく必要があるため、医師の指示をきちんと守ることが大切です。
多くの場合、生涯ホルモンの補充が必要なため薬を飲み続ける必要がありますが、ホルモンのバランスが安定してくれば血液検査は3カ月~半年おきで済みます。飲み忘れなどがないよう注意しながら、根気よく内服を続けましょう。
女性の食欲不振は、胃腸のどこにも異常がない場合、甲状腺機能低下症である可能性があります。特に、むくみや太るなどの症状が合わせて出ている場合、甲状腺機能低下症の可能性は高いです。
甲状腺機能低下症は、薬物治療で症状を改善することができます。ホルモンを補充し続ける必要があるため、多くの場合内服を生涯継続する必要がありますが、指示された用法・用量を守っていれば薬による副作用の心配もほとんどありません。
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