記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
下痢と便秘が同時に起こったり、交互に繰り返したり、腹痛も見られたりといった消化器症状でお悩みではありませんか?今回の記事では下痢と便秘が同時に起こる対処法について、原因ごとに詳しく解説します。
便秘や下痢、おならなどの腸の不調が同時に出ている場合、「腸疲労」の可能性があります。
腸疲労とは、腸が疲れることによってその機能が低下することです。食べ過ぎや飲み過ぎが続くと腸に負担がかかり、大きく3つの機能が低下します。一つ目が、食べ物を消化吸収する機能です。食べ物を消化吸収する機能が低下すると、腸内環境が乱れてしまい、悪玉菌が活発化します。その結果、おならが臭ったり、便秘になったりします。二つ目が、水分を吸収する機能です。水分を吸収する機能が低下すると、便の水分量が増えてしまい、下痢になります。三つ目が、便を体外に排出する機能です。便を排出する機能が低下すると、便秘になります。
腸疲労にはさまざまな原因が考えられますが、その中のひとつとして、腸が有害物質を吸収したことがあげられます。
通常、食べたものはゆっくりと消化管の中を流れながら徐々に吸収されて、腸に送られていきます。ところが、消化の処理スピード以上に食べてしまうと、食べ物が十分に消化されずに腸に送られることになります。そうすると、消化しきれなかった食べ物が腸の中で悪玉菌によって分解されることになります。悪玉菌によって分解されたものは多くの有害物質を含みます。そしてこの有害物質が腸から吸収され、血液によって全身に運ばれると、体のだるさを引き起こします。
また、どんなものを食べたかも腸に影響を与えます。甘いものを食べ過ぎると便秘になりやすくなり、アルコールを摂りすぎると下痢になりやすいといわれています。
さらに、腸はストレスの影響を受けやすいです。仕事等でストレスが続くと、腸疲労を起こして下痢や便秘などを起こすこともあります。
下痢と便秘を同時に引き起こす腸疲労に対処するには、大きく4つの方法があります。
一つ目がファスティング療法(プチ断食)です。食べ過ぎると腸に負担がかかり、食べ物を消化吸収する機能が低下します。そこで半日~1日、食事を摂らずに胃腸を休めるファスティング療法をすることによって、腸疲労の回復効果が期待できます。ただし、ファスティング療法の実施には注意が必要です。正しく行わないと血管にダメージを与えます。もし、2日以上連続して断食を行う場合は必ず医師の指示に従いましょう。
二つ目が、温かい水を飲むことです。腸内の水分が少なくなると、腸の機能が低下します。また、体内の水分は消化液として使われることもあり、腸疲労を解消するには水分補給が重要です。冷たい水は腸の働きを鈍らせてしまうので、温かい水などで水分補給するのがよいです。
三つ目が、食物繊維を摂ることです。食物繊維には、腸にたまった便や毒素を排出する働きがあります。食物繊維には、水分をためこむ「不溶性食物繊維」と、不要物をからめとる「水溶性食物繊維」の2種類があります。この2種類を2対1のバランスで摂ることが重要です。不溶性食物繊維は、いも、根菜、豆などに、水溶性食物繊維は果物、海藻、キノコなどに多く含まれます。
四つ目が、腹式呼吸です。腹式呼吸によって腸を刺激することで、腸の働きが活性化します。やり方は、鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹をふくらませます。このとき、おへその下辺りに空気がたまるイメージをするのがポイントです。次に、口からゆっくり息を吐き出し、お腹をへこませます。
腸のねじれが原因で、下痢と便秘を繰り返すことがあります。腸のねじれた部分に硬い便が引っかかり、そこで便が溜まると便秘になります。その後栓が外れて便が通るようになると、溜まっていた便が流れて下痢が起こるようになります。
この腸のねじれが原因の便秘と下痢に対処するには、腸を揺らすマッサージが有効です。
下痢と便秘を繰り返しており、腹痛も見られる場合は「過敏性腸症候群」の可能性があります。10〜30代の若い人に多く見られ、検査では特に異常はないものの、通勤通学時や会議の前などストレスがかかる状況で消化器症状が出るのが特徴です。腸と脳は自律神経でつながっているため、脳でストレスを感じるとそれが腸に伝わり、運動機能の異常を招くのではないかと考えられています。
過敏性腸症候群には「便秘型」と「交代型」があります。便秘型の場合は、腸管が痙攣を起こすために排便しにくくなり、そのまま腸内で便が硬くなることで便秘になります。一方の交代型では、下痢と便秘を交互に繰り返すのが特徴です。
なお、いずれのタイプでも腹痛(特に左下腹部)がよく見られます。差し込むような腹痛が突然起きたり、鈍痛が続いたりと痛みの種類もそれぞれですが、食後に起こることが多いです。その他にも、腹部膨満感、おなら、吐き気、食欲不振、頭痛、抑うつ、不眠などが見られるケースも少なくありません。
過敏性腸症候群はつらい便秘や下痢を繰り返すだけでなく、ガスが出やすくなるなど日常生活に大きな影響を及ぼす症状が生じることもあります。
発症のメカニズムは明確に解明されておらず、ストレスや自律神経の乱れ、原因としては不規則な食生活など様々なものが挙げられています。ただ、過敏性腸症候群はストレスが加わったときに症状が悪化しやすいことが分かっており、症状を緩和するには十分な休息・睡眠時間を確保する、適度なストレス解消方法を見つけることなどが大切です。
また、なるべく消化がよく胃腸に負担をかけない食生活を心がけるようにしましょう。
大腸がんの場合、初期症状として下痢と便秘を繰り返すことがあります。特に腹痛はなく、体調が悪いわけではないのも大きな特徴です。症状が進行すると血便が見られることもあるので、異変に気づいたら念のため検査を受けるようにしましょう。大腸がんを治療するには早期発見が重要です。
大腸がんは、大腸の粘膜に小さな隆起状の病変を形成します。病変部は炎症を繰り返すため、消化吸収能力が一時的に低下することで便秘や下痢を繰り返すことがあります。徐々にがんが大きくなると、大腸の内腔が狭くなり、最終的には大腸の閉塞や肝臓・肺などへ転移を生じます。
大腸がんの早期段階では、特別な自覚症状がないことも少なくありませんが、以下のような症状がある場合には注意が必要です。
これらの症状に多く当てはまる場合は、病院を受診して適切な検査を受けるようにしましょう。
便秘薬の種類によっては、効きすぎて逆に下痢を引き起こすこともあります。下痢を引き起こす可能性のある便秘の薬には、以下のものがあります。
マグミットなどの酸化マグネシウムの薬は、腸内でマグネシウムイオンに変化し、腸の中の水分を増やす作用があります。このため効きすぎると下痢を引き起こす可能性があります。
坐剤が効きすぎて腸の蠕動運動が活発化すると、水分が吸収される前に便が肛門に辿り着いてしまい、水下痢の状態を招く可能性があります。
浣腸の主成分であるグリセリンは、便を柔らかくするだけでなく腸を刺激する作用もあるため、下痢が起こることがあります。
下痢と便秘が同時に起こる場合、腸疲労や腸のねじれ、過敏性腸症候群といった病気などさまざまな原因が考えられます。ご紹介した対処法で改善しない場合は、大腸がんなどの重篤な病気の可能性もあるので、一度専門外来で検査を受けましょう。
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