記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2021/9/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
GABA配合のチョコレートやヨーグルト飲料など、GABAの機能性表示されているCMも増えてきました。GABAにリラックス効果があることは知っていると思いますが、そのほかにもさまざまな健康効果があることを知っていますか。実際に、多くの企業や研究機関で、GABAの健康効果の試験が行われています。
今回は、ストレス社会で暮らす現代人が知っておきたい、GABAの効果と安全性、GABAを増やす方法について解説します。
GABA(ギャバ)とは、神経伝達物質として働くアミノ酸です。正式名称はγ-アミノ酪酸ですが、2000年代にGABA配合のチョコレートが流通するようになってからは、GABAという名前が定着しました。
神経伝達物質とは、神経細胞の情報伝達に関わる化学物質です。神経伝達物質は、隣り合う神経細胞の隙間の空間(シナプス間隙)に放出され、受容体が取り込むことで情報を伝達します。神経伝達物質には「興奮性伝達物質」と「抑制性伝達物質」があり、GABAは抑制性伝達物質です。GABAは、哺乳類では脳や脊髄などの中枢神経に存在することがわかっています。
抑制性伝達物質には心身のリラックスを促す作用があり、GABAにも同様の作用が期待できます。また、医学的エビデンスが十分でないものもありますが、GABAには以下のような健康効果が期待できるともいわれています。
経口摂取とは、食事やサプリメントなどを口から食べたり飲んだりして栄養を摂取することです。GABAを経口摂取すると、腸管から吸収されて血液に移行します。しかし、血液中のGABAは血液脳関門を通過できないため、経口摂取したGABAがそのままの形で脳に移行することはほとんどありません。
このことから、食品やサプリメントによるGABAの経口摂取の効果に関しては、疑問視する意見が多くありました。しかし、上記でも説明したように、複数の試験でGABAの経口摂取の効果が確認されていて、プラセボよりも優位性があることも確認されています。機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)のどちらの認可も受けていることから、GABAの経口摂取にはある程度の効果と安全性が期待できると考えてもいいと思われます。
GABAの経口摂取による効果のメカニズムについては、腸内にもGABAの受容体があり、そこから迷走神経を介して脳を刺激することでGABAを含む脳内のタンパク質の合成速度が高まることが関係しているとする説もあります。しかし、これは動物の試験のみでみられる結果であり、はっきりしたことはまだわかっていません。
GABAは、もともと体内で合成できる物質です。体内のGABAを増やすために直接GABAを摂取することも悪くはありませんが、適切な量のGABAがきちんと合成され、分泌できるように対策することが大切になってきます。
GABAの安全性を検証した研究はあまり多くありませんが、健康な人が適量を摂取する限りでは、深刻な影響を与えることはなく、副作用の問題もないと考えられています。GABAには眠気を誘う効果があるため、車の運転や危険な機械を操作するときは、摂取を控えたほうがいいでしょう。
ただし、過去には多血症の人がGABA含有の乳酸菌飲料を1日1本飲んだことで、肝機能の悪化がみられた症例もあります(この例では、飲むのを中止して1か月後に正常化)。治療中、投薬・服薬中の人は、事前に医師に相談し、許可を得てから摂取してください。
GABAの摂取量に明確な定義はありませんが、10mg〜100mgの経口摂取で効果がみられるとされており、健康な人においては30mg〜100mg程度が1日の摂取量の目安といわれています。海外のサプリメントでは1日の摂取量が500mgのものもあるので、そこまで気にする必要はないでしょうが、人体への影響に関してはわかっていない部分もあります。GABAのサプリメントやGABA配合の食品を摂るときは、必ず説明書を確認し、過剰摂取にならないように1日の摂取量を守りましょう。
もし、GABA配合の製品を摂取して体調不良が現れたときは、すぐに使用を中止し、医師に相談しましょう。
脳内のGABAを増やしてリラックスするには、GABAを直接摂取すること以上に、GABAを適切に合成、分泌できるように食事や生活習慣を見直すことが大切です。そのためには、以下のことに注意しましょう。
食事などから摂取したタンパク質は、アミノ酸の一種であるL-グルタミンに分解された後、L-グルタミン酸となります。Lグルタミン酸を材料に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)という酵素の作用によってGABAが合成されます。
L-グルタミンは非必須アミノ酸であり、体内で合成可能なアミノ酸です。材料となる良質なタンパク質やアミノ酸を含む食品(マグロ、カツオ、アジ、サンマ、イワシ、牛肉、鶏肉、卵、大豆、高野豆腐、チーズなど)を積極的に摂りましょう。
GABAの合成には、材料となるL-グルタミン酸(L-グルタミン)とGADという酵素が必要ですが、GADの活性化にはビタミンB6が必要です。ビタミンB6が不足するとGABAが生成されず、L-グルタミン酸が脳内に増えることになります。L-グルタミン酸(グルタミン酸)は興奮性伝達物質であり、脳内で過剰に増えるとリラックスしにくくなってしまいます。
ビタミンB6は、魚類ではマグロやカツオなどの赤身の魚、サケ(サーモン)類、肉類ではヒレ肉やささみなどの脂肪分の少ない種類に多く含まれ、植物性の食品では、バナナ、玄米、さつまいも、パプリカ、ニンニクなどに多く含まれ、豆類にも比較的多く含まれています。
ビタミンB6は、セロトニン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなど、GABA以外の神経伝達物質の合成も助けるため、心の健康維持においても重要なビタミンです。脂肪代謝やタンパク質代謝、アミノ酸代謝にも関係しています。水溶性ビタミンのため、食事での摂取であれば、過剰になることはほとんどありません。
まだ研究段階であり、メカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、腸と脳には相互に情報を伝達するという考え方(腸脳相関)があります。これは、腸で起こった変化が脳へ伝達されると、脳内の情報処理機能に影響を与える可能性があるという考え方です。
腸内には、GABAやセロトニンなどの神経伝達物質を産生する腸内細菌(腸内微生物)も繁殖していますが、腸内で産生されたGABAが、上記でも紹介したGABA受容体を刺激すると、脳内のGABAの分泌量にも影響する可能性が示唆されています。
善玉菌は腸内でビタミンB6を産生するという点から考えても、GABAを増やすためには腸内環境を整えることが大切です。腸内環境は、さまざまな健康対策にも役立ちますので、発酵食品、食物繊維、オリゴ糖などを積極的に摂るなどして、腸内環境を整える生活を送るようにしましょう。
GABAは、おもに睡眠中に合成されます。睡眠時間が少なかったり、睡眠の質が低下したりすると、GABAの合成が間に合わなくなり、適切に分泌ができなくなる可能性があります。GABAが不足すると、さらに睡眠不足や睡眠の質の低下が悪化するという悪循環に陥る可能性があるので注意が必要です。
また、睡眠不足や睡眠の質の低下は、セロトニンの分泌にも影響します。セロトニンがうまく分泌されなくなってしまうと、うつなどの心の不調を引き起こす可能性があるという点でも、睡眠のケアは大切です。
睡眠の問題はセルフケアで改善できないこともあるので、日常生活に支障がある、長期間続いている場合は、早めに医師に相談しましょう。
経口摂取でもある程度の効果が期待できるので、GABAを多く含む食品を摂ったり、トクホや機能性食品のGABA含有製品を摂ったりすることも、GABAを増やす対策になります。
GABAは、以下の食品に多く含まれています。
ただし、GABAを増やそうとGABA、タンパク質、ビタミンB6だけを過剰に摂取するような対策はおすすめできません。栄養も体の機能も、それぞれ相互的に働いています。心身の健康のためには、バランスのよい食生活と規則正しい生活習慣を送ることが基本です。あくまでもこの基本をおさえたうえで、補助的な対策として取り入れてください。
GABAは神経伝達物質のひとつであり、抑制性伝達物質です。副交感神経を優位にすることでリラックスを促しますが、ストレスを緩和する、血圧を下げる、睡眠の質を高める、記憶力や認知機能を向上する効果も期待できます。GABA配合の食品やサプリメントも多いので、摂取には困らないでしょうが、GABAを経口摂取しなくても、GABAの材料になるタンパク質と合成を助けるビタミンB6を摂取し、睡眠習慣と腸内環境を改善することでもGABAを増やすことができます。
ただし、特定の栄養や食品だけを偏って摂取することは、ほかの不調を引き起こす可能性があるのでおすすめできません。まずは、できるだけ多くの食品をバランスのよく食べ、夜ふかしや暴飲暴食を避けて規則正しい生活を送るように心がけることが大切です。
また、リラックスできない、イライラする、眠れない状態が続いたりする不調は、専門的な治療が必要な可能性もあります。セルフケアで改善できない不調は、早めに医師に相談しましょう。とくに血圧が高めの状態が続いている場合は、早期治療が必要な場合もありますので、必ず病院を受診しましょう。
この記事の続きはこちら