概日リズム睡眠障害とメラトニン ― 睡眠リズムの悩みの対処法とは

2022/3/30

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

睡眠の悩みのひとつに「睡眠リズムの乱れ」がありますが、原因にはメラトニンが関係しているかもしれません。メラトニンは概日リズムという体内時計を整える要素に関係しているホルモンであり、睡眠リズムの乱れの解消に大きく関わっています。この記事では、概日リズム睡眠障害とメラトニンの関係性と対処法について解説します。朝起きられない、夜寝つけないなど、睡眠リズムが一定でない人はぜひ参考にしてください。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

メラトニンの作用と睡眠リズムの関係

メラトニンは、脳にある松果体(しょうかたい)が分泌するホルモンです。メラトニンが分泌されると、体温が低下して「睡眠の体制」に入ります。メラトニンは光を浴びることで分泌サイクルがリセットされ、約14時間後に分泌を開始します。そのため、朝しっかりと光を浴びて夜間のメラトニン分泌を促すことが、質の高い睡眠と安定した睡眠リズムにつながります

セロトニンとメラトニン

本来、人間の体内時計は約25時間の周期で調整され、この周期は「おおよそ1日周期」という意味で「概日(がいじつ)リズム」と呼ばれています。概日リズムには、メラトニンと「セロトニン」の分泌が重要な役割を担っています。

メラトニンは光の刺激で分泌サイクルがリセットされますが、セロトニンは光の刺激を受けることで分泌が開始されます。また、メラトニンは必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンから、セロトニンを経てつくられるものです。そのため、日中はしっかりと活動してセロトニンの分泌を促すことが、夜間のメラトニンの分泌にもつながります。

概日リズム睡眠障害について

何らかの原因で概日リズムが崩れてしまうことで起こる睡眠障害を「概日リズム睡眠障害」と言います。概日リズム睡眠障害には、仕事や用事など外的な要因で時間をずらしたことで起こる外因性概日リズム睡眠障害と、何らかの原因で体内時計が「外界の1日=24時間」の周期に順応できなくなるで起こる内因性概日リズム睡眠障害があります。メラトニンやセロトニンの分泌サイクルの乱れで起こる睡眠障害も、内因性概日リズム睡眠障害のひとつです。なお、概日リズム睡眠障害には以下の種類があります。

時差症候群
いわゆる「時差ボケ」のこと。外因性概日リズム睡眠障害のひとつ
交代勤務睡眠障害
夜勤や交代勤務などによる概日リズムの乱れが原因で起こる外因性概日リズム睡眠障害
睡眠相後退症候群
入眠困難と覚醒困難が慢性的に起こる概日リズム睡眠障害。眠りにつくのが午前3時〜6時の明け方になり、学校や仕事に間にあう時間の起床が難しい状態
睡眠相前進症候群
夕方の眠気や早朝覚醒が特徴の概日リズム睡眠障害。比較的高齢者に多いといわれている
非24時間睡眠覚醒症候群
入眠や覚醒の時間が毎日少しずつ遅れていく概日リズム睡眠障害。睡眠の時間帯も毎日少しずつ遅れていくため、毎日決まった時間に入眠・起床することが難しくなる

日本における概日リズム睡眠障害の治療方法

概日リズム睡眠障害になると、望んだ時間に入眠・覚醒することができなくなり、仕事や学校生活に支障をきたすようになります。また、無理に起床しても、強い眠気や倦怠感、頭痛、食欲不振、集中力の低下などの症状に悩まされます。海外では概日リズム睡眠障害の治療にメラトニンが使われますが、日本ではメラトニンが認可されていません。日本においての概日リズム睡眠障害の治療は、高照度ライトやメラトニン受容体作動薬を使って概日リズムを整えていきます。

高照度光照射療法

高照度光照射療法は、「太陽の光」と概日リズムの関係を利用した治療方法です。高照度光照射療法では、朝方に数時間高照度光を照射して概日リズムを整えることで、睡眠リズムの乱れの解消を目指します。最近では、眼鏡のような形をしている装着型の治療機器もあり、自宅で治療を継続することもできます。

メラトニン受容体作動薬

メラトニン受容体作動薬は、「メラトニン受容体」に作用して「メラトニンと結合したような状態」を作り出し、入眠を促す薬です。ほかの睡眠薬よりも自然に近い入眠誘導ができる特徴があります。ただし、薬の飲み合わせや既往歴など、いくつか注意点があります。

概日リズムを自分で整える方法

概日リズムは、生活習慣や食習慣を見直すことで、ある程度整えることができます。ただし、睡眠リズムの乱れの影響で、すでに強い症状が出ている、長期間続き日常生活や社会生活に支障をきたしている場合は、早めに専門の医療機関に相談しましょう。

  • 起床時にカーテンを開け、日光を浴びる
  • 就寝・起床時間を規則正しくする
  • 日中に長時間の昼寝をしない
  • セロトニンの生成に必要なトリプトファンが豊富な食品(赤味肉、レバー、牛乳、チーズ、青魚、大豆製品、バナナなど)を多く食べる

おわりに:睡眠リズムの乱れは概日リズムの乱れが原因かも。生活習慣の見直しと早めの相談が大切

睡眠障害を始めとする「睡眠の悩み」は、概日リズムの乱れが原因になることがあります。概日リズムの乱れを引き起こす原因はいくつかありますが、メラトニンやセロトニンも大きく関係しているため、分泌のリズムやバランスを整える対策が大切です。午前中に日光を浴びて、規則正しい生活を心がけ、トリプトファンを多く含む食品を摂りましょう。ただし、睡眠の悩みは慢性化すると回復も長期化しやすくなります。まずは医師に相談し、必要に応じて治療薬も使用しながら、自身に適した方法で対処しましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

睡眠障害(47) セロトニン(32) 睡眠薬(18) メラトニン(17) 睡眠相後退症候群(3) 概日リズム睡眠障害(2) 非24時間睡眠覚醒症候群(1) 高照度光照射療法(1) メラトニン受容体作動薬(2)